社内で、自分の発案した商品やサービスを実現するために、避けて通れない「オジサンの関門」。女性の立場から数々の企画をヒットさせてきた、ハー・ストーリィ代表取締役の日野佳恵子さんに、「突破できる書類」に変身させる方法を教えてもらった。

データは戦略的に盛ってもいい

商品・サービス開発など、女性が発案した企画を自ら「偉い」オジサンに通していく時代。でも、性別も世代も違う相手に自分のアイデアを効果的かつストレートに伝え、関門を突破するのは簡単なことではありません。どんな言葉遣いや構成を心がければ、「オジサンにもストンと落ちる」企画書になるのでしょうか。

女性による企画集団、ハー・ストーリィ代表取締役の日野佳恵子さんは、「まず、企画書の目的を誤らないこと」と説きます。企画書とは、自分の発案を「上司にわかってもらう」ために書くものではなく、「上司とともに勝つ」ためのもの。「そもそも上司とは、最短で判断を下し、その責任を取らなければいけない生き物です。そして彼らが望むのは、マーケットの反響や成果。結果を出すことができ、上司の評価につながる企画書こそが、上司が認める企画書となるのです」

自分のアイデアを認めてほしいというレベルを脱して、上司のニーズをくみ取り、ともにミッションを達成する企画書作りの次元へと意識を転換する必要があるのですね。

「目的を上司としっかりすり合わせ、確認したうえで、それを達成して手に入れたい成果の絵を描きます。現状を把握し、その現状と成果とのギャップを埋める仮説を立てる。企画書とは、仮説を実査によって裏付けていくためのものなのです」

でも、なかなか自分の企画通りに調査結果が出ないこともあります。それでも自分の感覚では、この企画には確かなヒットの可能性があると信じられる場合はどうすればいいのでしょうか。

優秀なプランナーは、“詐欺師”でもある

「そこは数字のマジックを使う、つまり戦略的に“盛る”のです。企画書とは計画を企てると書きます。“優秀なプランナーは、詐欺師でもある”と心得てください」

さすが、女性の立場から数々の企画をヒットさせてきた日野さんの言葉には重みがあります! では、女性が企画書作成上、気をつけるポイントとは何でしょう?

日野さんの答えは、「事実と感情が一緒になっている自分を自覚すること」。

例えば「サンプルAは重くて持ち運びが大変」という文は、女性にはスムーズに響きますが、男性にとっては「それは君の感想だろう」と違和感があるのです。「重い」という事実と、主観的な「大変」という感情は切り離す。大変さを事実として表現するため、アンケートなどの統計数値を持ち出して「重いということを理由に、10人中8人がサンプルAに対して否定的です」と進めるなど、「思われます、感じられますなどの感情も数値化・事実化するのが、女性の良さが光る企画書です。感情を定量化するのは、共感・協調行動の少ない男性にはなかなかできないこと。そうした部分がビジネス分野での女性活躍という点で、重要な要素でもあるのです」と日野さん。

「女書類」から「男書類」に切り替えよう!

【目的】上司にわかってもらう
【目的】上司とともに勝つ!

【事実と感情がセット】サンプルAは重くて、女性には大変です
【事実と感情を切り離す】サンプルAは重い。持ち運びが大変だと感じる女性が10人中8人

【直感】絶対、流行るはず!
【アンケートデータを盛る】時には、詐欺師となって都合の良いデータのみ抽出

【ファジーな言葉】……な人が多い……と思われます
【具体的な言葉】……な人が8割を占めます

【感情用語】いい雰囲気を……
【用語分解】いい雰囲気とは、5つの要素から成り立ちます……

【プロセス説明】あーで、こーで、どーで、そーで……
【箇条書き】方法は3つあります!

オジサンに通じる文書は誰にでも通じる

このように、曖昧な言葉を避けて具体的な数字を用いて断言する、ふわっとした感情を分解して事実の積み重ねにする、思考のプロセスをダラダラと説明しないよう箇条書きにするなど、「数字と事実」で表現することを心がける。すると、性別にかかわらず、年代や文化など自分と共通項のないどんな相手にも伝わりやすい書類になっていることに気づかされます。

「女性は言語化する能力が高いので、同じ概念をさまざまに言い換えることができる。例えば、幸せ、ハッピー、わくわく感……といった表現が同じ資料内で登場したら、女性ならそこは瞬時にひも付けて同じことを言っていると理解できますが、男性にとっては単語のブレと映り、一気に混乱してしまうのです。女性的な豊かな発想を、曖昧さをなくして男性上司に理解させることができれば、男性上司はあとはまい進するだけ。最高のパートナーシップになりえるのですよ」

さて、その次の段階として、上司の好むボキャブラリーに寄せていくと、伝わりやすさがさらにアップ!

「男性の思考基準とは勝ち負けであることが多い。40代までなら野球やサッカーなどのスポーツ、50代以上ならゴルフや戦国武将など、なるべく勝負事に例えてあげるのです。また、松下幸之助さんや孫正義さん、柳井正さんなど、有名な成功者の事例や言葉を引用して、成功イメージをわかりやすく提示するのもいいでしょう」

確かに、男性はスポーツや歴史、偉大な起業家の話などが大好きですよね。

「さらにそこで、競合他社や異業種をリサーチして成功事例とリスクを双方出すなど、勝つためのデータをそろえて見せてあげると、『おまえなら信頼できる、任せた!』となりやすいんですよ」

でも、女性ならではの情緒の機微を忘れず、丁寧な表現をしたいもの。

「そんなときは、注意が必要。相手を思いやっているつもりで、実は自分がいい人に見られたいだけなのではないかと自問してみて。単なる“いい人”では生産性の高い人材にはなれないのです」“丁寧さや気遣いはいいこと”と信じ込むのではなく、生産的であることを常に念頭におき、コミュニケーションのさじ加減をすることが必要です。

女性と男性の思考の違いが、言葉の使いかたにこれほど顕著に反映されるとは、驚きです。ですが、自分とは性別も年代も違う、異なる背景や考えを持つ男性上司を攻略できる企画とは、普遍的に受け入れられる価値を持つ企画でもあるということ。言葉や思考の変換スイッチをオンにして、どんどん“伝わる”企画書を出していきたいものですね。

日野佳恵子
ハー・ストーリィ代表取締役。島根県生まれ。タウン誌の編集長、広告代理店のプランナーを経て結婚、出産、専業主婦を経験。その後、起業。一貫して男女の購買行動の違いに着目したマーケティングを実践。著書に『女性のためのもっと上手な話し方』などがある。