気立ても見た目もよく、「あの人が独り身なんて信じられない!」と言われる人がいるものです。出会いがない、環境が許さないなどいろいろな理由がある中で、「失敗した過去があり、未来に踏み出せない」という人もいます。自分の過ち、人の過ち、あなたならどのように向き合いますか?
なぜ3回も結婚直前で破局するの?
「残念ながらヒロトさんとお別れすることになりました」
メールの送り主であるミドリさん(28歳)は、私が経営する結婚相談所のお客様。一般企業に勤めるごく普通の女性だ。紹介を希望する男性の希望年齢が38歳までと、彼女よりも10歳も高いため、マッチング候補には困らない。お見合いをしてもいいと思える相手の年齢の上限が5歳上なのか10歳上なのかで、出会いの機会が2倍以上違ってくる。女性が「10歳年上の相手までOK」と言ってくれると、仲介人は本当に助かるものだ。
ミドリさんはそれに加えて、愛想も良く、男性のちょっとした一言にもクスクスと楽しそうによく笑う。女性はあまり自覚がないかもしれないが、笑いのハードルが低い人は、男性にとっての癒しになれる。
性格もよく、若い彼女は、仲介人である私にとって非常に「協力的なお客様」だった。
しかし、困ったことに彼女は、結婚直前での破局を繰り返している。今回で3回目だ。しかも全部彼女から“お断り”を入れている。プロポーズに至った男性はみんな性格がよく、年収も高い。年齢の上限だって超えていない。
ミドリさんの交際相手だったヒロトさんからは「なぜプロポーズを受けてもらえなかったのか、分かりません。昨日までずっとうまくいっていると思っていたのに」というメールが届いた。これまでに彼女と付き合った男性たちも同じことを言っている。
これは原因を突き止めなければいけない。私は彼女と直接会って、話をすることにした。
「どうしてヒロトさんと別れちゃったんですか?」私は、単刀直入に聞いた。「実は……まだヒロトさんのことが好きなんです」「はぁ!?」思わず大きな声を出してしまった。
「好きって……じゃあなんで振ったんですか? 私には全く意味が分からないのですが」「彼は、本当の私のことを知ったら、結婚したいなんていうはずがないからです」「それはどういうことですか?」「私、大西さんにも隠していることがあるんです」
一人で秘密を抱え続けて……
「大学生の時に同棲をしていた彼がいました。そして2年生の時に、妊娠してしまったんです」結婚相談所の入会申込書には、子供のことなんて書いていない。
「そのことを彼に言ったら……『お互いに将来があるから、今回は諦めよう。社会人になったら、また一緒に子供を育てような』という言葉が返ってきました。それで私……」「もうそれ以上、言わなくていいから!」私は、肩を震わせる彼女の手を強く握った。
「人によってはミドリさんのように悩まず、一生秘密にして生きる女性もたくさんいます。でも、ミドリさんはこれまでプロポーズを3回も断っています。これって、パートナーには自分の過去を明らかにしたいと思っているからではありませんか?」「大西さんの言うとおりです。でも勇気が出ないんです。このままじゃ、私は一生結婚できない気がします」
たしかに、そう。このままでは、同じことを繰り返すだけだ。私は一つの提案をした。彼女は受け入れてくれた。
告白の先にあったもの
翌日、私は、二人に向けてメールを送った。「ミドリさんとヒロトさんは、まだお互いを愛しています。今回、破局に至った原因は、ミドリさんが秘密を一人で抱えていたからだと分かりました。お二人とも会いたいと思っているならば、私がセッティングをいたします」
ヒロトさんから即座に返信が来た。「ぜひ会いたいです。僕は彼女と結婚するためならなんだってします」驚くほどの前のめりさで、あっという間に再会が決まった。
ミドリさんは、勇気を出してヒロトさんに過去の話をした。しばらく重い沈黙が続いた後、彼は「ごめんなさい」と頭を下げた。
「ヒロトさん、謝らないで。私が悪いんだから。今日は来てくれてありがとう」「いや、違うんだ、そうじゃないんだよ」「えっ?」「僕も同じことをしているんだ。隠していてごめん!」
ヒロトさんには、高校生の時に付き合っていた彼女を妊娠させた過去があった。「僕は、自分がやったことをミドリさんのように深く受け止めていなかった。女性がこんなに傷つくことを知らなかった僕こそ、許してもらえないだろうか」
こうしてお互いの重大な過去について話をし、ミドリさんとヒロトさんはこのことを二人だけの秘密にして、共に生きていくことを選んだ。
相手にどこまで自分の過去の出来事を話すのか。これは本当に悩ましい問題だ。全てを洗いざらい話せばいいということでもない。ただ少なくとも、「これを話さなければ、相手に嘘をついている気がして耐えられない」というような問題は、告白をする必要がある。パートナーに対して自分らしくいきいきと振る舞えなくなるからだ。
それに重荷には、分かち合うことで二人の距離をより近づける力がある。結婚相談所という仕事をしていると、お客様のさまざまな来歴を知ることが多々ある。過去とは、今、目の前にいる人をその人たらしめるもの。相手の過去を知ったとき、過ちだけを切り取って、許せずに切り捨てるという選択肢だけではないことを、心のどこかにとどめておいてほしい。そう願わずにはいられない。
婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ4万3000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友達がいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。特に恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談を持ちかけられ、日頃鍛えた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。著書に『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版)がある。