資料を作りはじめる前に、「これだけは頭に入れておいてほしい!」ということを、プレゼンテーションのプロ・清水久三子さんが厳選。当たり前のようで、実際にはできていない意外な盲点も。心がけ次第であなたの資料はさらに磨きがかかるはず。

ルール1:一歩踏み込んだ目的&GOALを設定しよう

●報告書は、報告をすることだけが目的ではありません!

イラスト=Takayo Akiyama

資料作成の第一歩は、目的とゴールを決めること。例えば営業報告書では、訪問先や進捗(しんちょく)状況などを報告すればいいと思っていませんか。報告書の目的は、事実を報告することだけではありません。

ビジネス文書は、相手にアクションを取ってもらうために作るものです。つまり、この報告書を通じて、誰にどんな行動を取ってもらいたいのかを明確にすることが、ゴールを設定するということです。

なかなか次のステップに進めない営業先があるので、報告書を読んだ課長にフォローしてもらう。あるいは、昇進・昇格を控えたタイミングなので、部長に自分のスキルや実績をアピールして昇格を後押ししてもらうことがゴールになるかもしれません。

うまく資料が作れないという人は、最初に目的とゴールを設定していないことが多いのです。もう一歩踏み込んで、誰のどんなアクションを引き出すのかを、明確にイメージしましょう。

ルール2:相手の期待値を読もう

●完成度が高くても、納期遅れの資料は紙くず同然

イラスト=Takayo Akiyama

ターゲットのアクションを引き出すためにも大切なのが、相手の期待値を把握すること。ビジネスで重視される「QCD」、つまり「品質(Quality)、価格(Cost)、納期(Delivery)」という3つの要素が、資料作成でも重要になります。相手の求めるQCDを把握して、その期待に応えましょう。

100人のメンバーが共有する重要なプロジェクトの資料なら、丁寧に作り込んだほうがいいでしょう。逆に、ポイントさえつかめればいいから、とにかく早く報告書を出してほしいという場合には、納期が最優先です。

特に、スピードが重視される現代では、納期の重要性が高まっています。早ければ早いほど、アクションに結びつきやすいので、同じ資料でも、今日と明日では価値が変わってしまうのです。

だからこそ、過剰に品質を追求して、自己満足のために時間をかけていないか意識しましょう。どれだけ美しい資料も、明日になればまったく無意味な紙くずになってしまうこともあるのです。

ルール3:プレゼン資料の苦手意識を克服するコツ

●最も難しいビジネス文書

イラスト=Takayo Akiyama

報告書もプレゼン資料も、「○○だから○○すべきである」という根拠と主張がそろったメッセージを作り込むことが大切。ただしプレゼン資料は、そのうえで「シナリオ」が必要になる点が大きな違いです。

シナリオとは、スタートのA地点から、ゴールのB地点まで、丁寧に段階を踏んで、相手の変化を積み上げていくストーリーのこと。

例えば、最初は無関心状態の相手に、まずは話題を提供して、「面白そうだ」と興味を引き出す。さらに商品の機能を説明して「それはすごい」と思わせる。「でも自分に扱えるかな」と不安を感じる相手に、操作性の良さをアピールして、最終的に「買おう」という行動に持っていくという具合。

プレゼン資料は、最も難度の高いビジネス文書といえます。ターゲットに合わせてA地点とB地点を設定し、その過程で、どんな球を投げ込んでいくのか。明快な設計図を描ければ、プレゼン資料の苦手意識も払拭(ふっしょく)できるでしょう。

ルール4:資料作りの鉄則を理論的に学ぼう

●絵心、センスは一切必要なし!

イラスト=Takayo Akiyama

誤解されがちですが、資料作成の鍵はセンスではなく、論理です。

「私は絵心がないから図解が苦手」などと言う人がいますが、ビジネス文書の図解は芸術作品ではないので、絵心は一切不要。むしろ情報を論理的に積み上げていくことが重要です。

あらゆるビジネス文書は、論理的に作られています。グラフであれば、内訳を示すときは円グラフ、推移を示すときは折れ線グラフを使います。目的に応じて、選ぶべきグラフはおのずと決まるのです。

色づかいにも、一定の法則があります。色数が多いと目移りしてしまいますから、ベースカラーを決め、色の濃淡で強弱を表すのがセオリーです。一冊、本を読んで基本がわかれば、作成スピードが上がりますし、完成度の高い資料を作れるはずです。

清水久三子著『外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書』より

ルール5:相手のリアリティーに訴える表現を

●「パッとしない」「よくわからない」にはワケがある

イラスト=Takayo Akiyama

相手に「よくわからない」と思われてしまう原因のひとつは、具体性に欠けることです。

では具体的な数字を出せばいいかといえば、そう単純ではありません。相手が日常的に見慣れている分野なら、その数字が大きいのか小さいのか瞬時にわかりますが、専門外の人には、ピンときません。

「iPod」誕生時のキャッチコピーは、「1000曲をポケットに」でした。容量何GB、重量何gと言われても、一般ユーザーにはよくわかりません。ところが、1000曲を持ち歩ける、ポケットに収まると聞けば、「これはすごい」と素直に感動できます。

数字も、比較対象があってこそ革新性を実感できるのです。具体性を持たせるには、相手のリアリティーに即した表現が必要。

ひとつのテクニックとして、大きな数字は割って伝えるのが効果的です。「睡眠時間は年間2920時間」よりも、「一日の3分の1は寝て過ごす」と言うほうが、より大きなインパクトを相手に与えることができるでしょう。

ルール6:書くべきことが抜けていないか確認を

●「空、雨、傘」がそろっていますか?

イラスト=Takayo Akiyama

「空、雨、傘」は、コンサルティング業界では徹底的にたたき込まれるフレームワークのひとつ。「空を見たら雲が広がっている」(事実)→「雨が降りそうだ」(解釈)→「傘を持っていこう」(行動)という一連の流れです。

「春の行楽シーズンに向けて、来月号は旅特集をやりましょう」と提案しても、相手は「なぜ今?」と思うかもしれません。「旅行会社のパンフレットが出そろう前だから雑誌が売れる」という解釈が抜け落ちているからです。

「空、雨、傘」がそろわない資料は意外と多く見かけます。自分ではそろえているつもりでも、ロジックがつながっていないケースもあります。

データ集計だけなら機械にもできますが、その事実から見識を導き出すのは人間にしかできません。

言い換えれば、これこそが知的生産者としての自分の価値の見せどころです。いま一度、自分の資料に「空、雨、傘」がそろっているか見直してみましょう。

ルール7:良いサンプルをたくさん集めよう

●社内の資料すべてに目を通すくらいのつもりで!

イラスト=Takayo Akiyama

資料作成上達の極意は、良いサンプルにたくさん触れること。資料作りの達人は、その人なりの技を持っているものです。目的とゴールに応じて、理論を具現化した実例を見ることはとても重要です。

社内で仕事ができるといわれている人の報告書や、成功を収めた案件の企画書など、とにかく数を見たほうがいい。さまざまなサンプルを見ているうちに、良い資料とはどういうものか、目利きができるようになるはずです。

さらに、自分の中に多くのストックをため込んでおくことで、手早く資料を作れるようになります。見たことのないものを発明するのは、簡単ではありません。多くのストックをある程度フォーマット化しておくと、このケースならこのフォーマットを応用しようと、即座に判断できます。そして内容を充実させるために時間をかけることができるのです。

サンプル集めは、数が勝負。社内の資料すべてに目を通すつもりで努力すれば、確実に資料作りのスキルは向上します。

清水久三子
&create代表。大手アパレル企業を経て1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現・IBM)入社後、数々のプロジェクトをリード。2013年独立。著書に『プロの資料作成力』など。