私たちに何かできることは?

4月に起きた熊本地震は、熊本県、大分県を中心に大きな被害をもたらしました。大きく傾いた家並みや、避難所で過ごす人々の映像を見て、「私たちにも何かできることはないだろうか」と、多くの人が感じていると思います。

現地ではすでに多くのボランティアが活躍しています。とはいえ、仕事を休んでボランティアに参加するのは難しいかもしれません。そんな働く女性にも、今すぐできる被災地支援の方法があります。それが「ふるさと納税」です。

「ふるさと納税」なら少しの負担でたくさん寄付できる

「ふるさと納税」というと、「自治体に寄付をして特産品をプレゼントしてもらう制度じゃないの?」と思う人も多いのではないでしょうか。でも、実は「ふるさと納税」は、被災地支援にピッタリの制度なのです。まずは、「ふるさと納税」をよく知らない人のために、簡単なしくみを説明しましょう。

「ふるさと納税」とは、ひと言で言えば「住民税を自分が住んでいる自治体に納める代わりに、ほかの自治体に納める」という制度です。その基本的な流れは次のようになっています。

(1)応援したい自治体を決めて寄付をする(受け付けている自治体のみ)
(2)税金を安くする手続きをする
(3)「寄付した金額-2000円」分の税金が安くなる(おもに住民税)

ステップ(2)の手続きは翌年に確定申告するのが原則ですが、会社員で確定申告する必要のない人は、寄付する自治体に申請書を送って手続きをしてもらう方法もあります(ワンストップ特例制度)。確定申告する場合だと、安くなる税金は所得税と住民税、「ワンストップ特例制度」の場合だと、安くなるのはすべて住民税です。

注目はステップ(3)で、もし自治体に1万円寄付をすると、安くなる税金は8000円。3万円の寄付なら、安くなる税金は2万8000円。つまり、実質的に自己負担2000円で1万円、3万円といった寄付ができる、ということです。

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ふるさと納税のしくみ(ワンストップ特例制度の場合)

これを自治体の側から見ると、3万円を寄付してもらった自治体は3万円の増収。逆に、寄付した人が住んでいる自治体は住民税が2万8000円の減収(「ワンストップ特例制度」の場合)。つまり、「寄付」という形をとって、結果的には住民税をほかの自治体に納める、ということになるわけです。

被災地を支援するために「ふるさと納税」の制度を使えば、被害を受けた自治体に直接、お金を届けられます。1万円、3万円といった金額を寄付するのはちょっと大変、と思う人でも、この制度なら気軽に支援できるのではないでしょうか。

被災地に負担をかけずに応援しよう

「ふるさと納税」は2008年にスタートした比較的新しい制度です。その後、寄付を受けた自治体のなかにはお礼に特産品をプレゼントするところが増えてきて、今やちょっとした「ふるさと納税」ブームになっているようです。

被災地のなかにも、以前から「ふるさと納税」してくれた人にお礼を送っている自治体があります。でも、被災地を支援するための寄付なら、お礼はいらないと思いませんか?

今、熊本県や大分県、また県内の多くの市や町が「ふるさと納税」で緊急の寄付を募っています。お礼の品はなくても、こうしたところへ寄付してはどうでしょう。また、通常の「ふるさと納税」でお礼の品を辞退する方法もあります。「ふるさと納税」の取り扱いや内容は、普段なら各自治体のホームページで確認できますが、今はまだ新しい情報が掲載されていない自治体もあるようです。少し落ち着くまで待つか、『ふるさとチョイス』(http://www.furusato-tax.jp/)といったポータルサイトを利用するとよさそうです。

また、「ふるさと納税」では寄付を受けた自治体にも、領収書や申請書を郵送するなどの手間がかかります。このため、被災地に負担がかからないよう、これらの手続きを代行する自治体も出てきています。たとえば東京都狛江市や山形県山形市は熊本県、千葉県市川市は熊本県と大分県、愛媛県松山市は熊本県熊本市の窓口になって、「ふるさと納税」を受け付けています。これらの自治体は手続きに必要な書類を郵送するなどの事務を代行し、寄付されたお金を全額、被災地の自治体に届けてくれます。こうした窓口を利用するのも、お勧めしたい方法です。

被災地への「ふるさと納税」を代行する自治体の例

ふるさと納税はここに注意

最後に、「ふるさと納税」を利用するときの注意点をいくつか挙げておきましょう。

●自己負担2000円で寄付できる額には上限がある
寄付する金額はいくらでもいいのですが、自己負担2000円になる額には上限があり、この上限額は、収入の種類や金額、家族構成などによって違います。たとえば会社員で年収500万円とすると、自己負担2000円で済む寄付金額の上限の目安は、独身や共働き(扶養家族なし)の場合で6万円程度、扶養している配偶者がいる場合(ほかの扶養家族なし)だと5万円弱になります。この上限額は年収が高いほど高くなります。

●税金が戻ってくるわけではない
税金が安くなるといっても、すでに納めた住民税が戻ってくるのではなく、寄付した翌年6月以降に払う住民税が安くなるという形です。なお、確定申告の場合だと、所得税については、すでに払った税金が還付されます。

●「ワンストップ特例制度」は5カ所まで
確定申告しないで手続きできる「ワンストップ特例制度」は、寄付する自治体が5カ所までとされています。6カ所以上に寄付するときは確定申告が必要です。

●手続きしないと税金は安くならない
確定申告するか「ワンストップ特例制度」の手続きをしないと、税金が安くなることはありません。当たり前のようですが、実際には手続きをせずに寄付した額がすべて自己負担になっている人も少なくないようです。多少の手間はかかりますが、必ず手続きをしてください。

●安くなるのは本人の税金だけ
専業主婦や扶養の範囲内で働いているパート主婦など、税金を払っていない人が寄付しても税金が安くなることはありません。税金を払っている本人が寄付するようにしてください。

「ふるさと納税」は、税金を払いながら忙しく働く女性が被災地を応援するのにピッタリの方法だと思います。これまで特産品のプレゼントを楽しみに「ふるさと納税」してきた人も、今年は被災地に寄付してみてはどうでしょう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。