「チームリーダーになる!」、「管理職になる!」――。日々のモチベーションは「なりきり力」であげられます。そのためにはなりたい自分を想像し、“断言すること”が大切です。研修・講演依頼があとをたたないスピーチコンサルタントの矢野香さんに、言葉と鏡をつかった2つの方法で「なりきり力」の高め方を教わります。

言葉を発して自己催眠をかける

これまでの連載に対して、読者の方々から「社内でのコミュニケーションの取り方や、外部の方との接し方を教えてもらったことがなかった」「夢を実現するために周りを味方にする方法なんて、考えたこともなかった」といったご意見をいただきました。ありがとうございます。そんな方々にこそ、「私プレゼン」を試していただきたいのです。自分について周りにプレゼンすることで、理想の自分へ一歩ずつ近づいてまいりましょう。

矢野 香さん

さて今回は、「なりたい自分」になるための日々のモチベーションのあげかたについてお話しします。簡単に言うと「なりきり力」です。言葉を使った方法(バーバル)と鏡を使った方法(ノンバーバル)があります。

まず、言葉を発し続けることで自己催眠をかけていくという方法。漫画『ワンピース』をご存じですか? 主人公ルフィが、海賊の王になるために仲間を増やしながら旅をする物語です。その主人公がいつも言うフレーズが「海賊王に、おれはなる!!」。「海賊王になりたい」という願望ではなく、「なる」と断言していることがポイントです。しかも、「おれは、海賊王になる」ではなく、「海賊王に、おれはなる」と、倒置法の言い方で、自分のことだと認識させる強い言葉です。

自己啓発本などでは、過去形で言い切ることをよく勧めていますね。チームリーダーになりたいなら、「私はチームリーダーになった」というように。もちろんそれもお勧めですが、過去形は「すこし無理がある」と感じる人には、「なる」のほうが言いやすいでしょう。

私のお勧めは、「なろうとしているところ」です。「なる」や「なった」という言い方に抵抗があっても、「私はチームリーダーになる途中」というように、現在進行形なら嘘ではありませんよね。習慣になるまでは100日かかるといわれたりします。言い続けているとだんだんそれが普通になり、「なる」と断言できるようになります。

「なった」「なる」「なる途中」の3段階から、自分に抵抗のない段階を選んで自分ならではの言葉を見つけてみてください。

鏡を見ながら自己催眠をかける

次にノンバーバル、目で見る(視覚)ことで自己催眠をかけていく方法です。

ここで使うのが鏡です。先ほどの「私は○○になる」などの言葉を、鏡を見ながら言います。

鏡の中の自分に「自己催眠をかける」(イラスト=米山夏子)

特に、自分の目を見ながら言うと効果的です。これは心理学でいうアファメーション(自己宣言)という方法で、スポーツ選手などが取り入れているメンタルトレーニングの一種です。朝、歯を磨くときや化粧をするとき、さらに、お手洗いに行くときなど、鏡を見る機会は一日に何回もあります。そのときに言ってみる。外出先では心の中で構いませんが、声に出したほうが聴覚からも言葉が入り効果があがります。自宅では声に出してみてください。

視覚のアファメーションという意味ではもう一つ、なりたい自分の服装を先取りしてしまう方法もあります。

「将来管理職になったら、こういう格好をするだろう」という服装を今からしておくのです。これによって、鏡の中に将来の自分の姿を見ることができます。その自分に向かって、「私は管理職になった」と言ってみる。鏡の中に将来のなりたい自分を映し出すわけです。「鏡よ鏡よ鏡さん」と言っていた白雪姫の魔女のように、鏡の魔法でなりたい自分を手に入れましょう!

持ち物で先取りするなら、小物。筆記用具や手帳、名刺入れ、時計など、3年後、5年後ぐらいの自分にジャストフィットするものを買ってください。

たとえば憧れの上司がいるのなら、その人が使っているものと同じものを買ってみる。同じブランドの少し下のランクにするのでも構いません。洋服と同様、現在の自分には背伸びした小物でも、大切に使ううちに、それにふさわしい自分にだんだんなっていくものです。今の自分にジャストフィットするランクのものを買っても成長はしません。すこし背伸びをして、いつの間にかピッタリになる。そうしたらまたその次を買う。その背伸び感覚を楽しんでほしいのです。

3年後の自己紹介を考え、話してみる

さらに仕上げとしてやってほしいことは、3年後の自分の自己紹介を考え、仲間に話してみるということです。もし、恥ずかしくて話せないと思ったら、その理由を考えてください。「ニューヨーク支店に勤務している」と言って、仲間に「無理でしょ、英語話せないでしょ」と突っ込まれそうだったら、今の自分はもっと英会話を頑張らないといけないということです。現状を考えたら無理かもしれない。でも、周りの誰に笑われようが、「あなたは無理」と言われようが、自分だけは自分を信じていてほしい。それは行動力となって表れます。

そうすると、「そこまで言うならチャンスを与えてみよう」と上司が考えるかもしれません。もちろん自分一人の勘違いは困りますが、人に話すことで、自分の本気度合いをリトマス試験紙のように試してほしいのです。

もう一つ、人に話すことでさらに想像が具体的になるという利点があります。たとえばみんなで、今日は3年後の2018年10月と決めて、お互いに自己紹介してみましょう。「私、結婚したの」「え? ウソ、相手はどんな仕事の人?」などと仲間から突っ込みがくるでしょう。「年収はいくら?」「彼の趣味は?」……そんなこと考えていなかった、と気づくはずです。そのとき、その場で考えながら想像で会話を続けてほしいのです。妄想で構いません。ほら吹き大会を楽しんでみてください。言葉にすることで想像がよりリアルになってきます。

人に話すことで、突っ込みを受け、話せない場合は原因探しができる。家族でも家族以外でも、社内でも社外でも、3年後の自己紹介ワークを一緒にやってくれるような相手がいるといいですね。もしそんな相手がいないなら、社外のセミナーに参加してみるなど、環境をちょっと変えてみてはいかがでしょうか。

ぜひ、そういうコミュニティーをつくって、仲間も一緒にみんなでなりたい自分に近づいてください。

矢野 香
信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。NHKキャスター歴17年。大学院で心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。現在、国立大学の教員として研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。全国から研修・講演依頼があとをたたない。著書に、ベストセラー『その話し方では軽すぎます! エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)など。http://www.authenty.co.jp/