『人は見た目が9割』というヒット書籍がありますが、容姿の良しあしがことに与える影響の大きさは計り知れません。婚活の場では、特に顕著に表れます。自他共に認める「不美人」のお見合いは、不成立の連続。そんな彼女がついに永遠の愛をつかみました。いったいどこで出会い、どのようなシチュエーションで求婚されたのでしょうか。

婚活が難しい容姿の女性を前にして

その日、私が経営する結婚相談所を訪ねてきたカズコさん(37歳)は、これまで会ったお客様の中で、もっともお見合いが難しいと確信できる容姿の持ち主だった。

目はぎょろつき、歯並びは悪く、青い木綿のゴムスカートにはおなかの肉が乗っていた。

お見合いを成立させるには、カズコさんも私も苦しむことになりそうだ。どうにか気が変わってくれないものか……

私の気持ちを知るや知らずや、彼女は「会ってくださってありがとうございます! 今日は勇気を振り絞って来ました。先日訪ねた別の結婚相談所では、『あなたは整形してダイエットしないと、お見合いは無理』とまで言われて……」と訴え、涙を流し始めた。

なんてひどい話だ。でも私も一瞬、「なんとかお引き取り願えないか」と、考えをよぎらせていたではないか。その結婚相談所を責める資格はない。

「カズコさん、そんなことありません。整形なんてする必要はないです」「本当ですか? 整形しなくても結婚できますか?」「できます!」言い切ってしまったからには、責任を持って彼女にぴったりの相手を見つけるしかない。だって、本当は悔しい。見た目が理由で結婚できないなんて。「太っている」と小中学校でいじめられた経験のある私の血が騒ぐのだ。

お見合いは、プロフィールと写真の交換から始まります。見た目が良くないと、第1関門を突破しづらいという厳しい現実があります。

お見合い不成立で気付かされた「人柄の良さ」

案の定、お見合いの相手探しは難航した。プロフィール写真の交換で連続10人に断られた段階で、「会ってくれるなら、何歳の人でもいいです」とカズコさんは言った。しかし、還暦の男性からも断られた。さすがの私も打つ手なしかと落ち込んだ。

電話で状況を告げたところ、「あはは! 私って、どこまで見た目がダメなんでしょう」と笑って応えるカズコさんに、ハッとさせられた。「本当はカズコさんがいちばん辛いはずなのに、落ち込んでいる私を励ましてくれている。こんな彼女の良さにどうやったら気づいてもらえるものか」

思いあぐねた末に、突破口を見つけた。「お見合いパーティーに参加してもらおう!」

複数の男女が一同に介するお見合いパーティーは、ある意味、お見合い以上に見た目の影響が強く表れる。見た目に自信がない人は、自然と避けがちになるものだ。もともとカズコさんはお見合いを希望しており、私も無意識のうちに選択肢から外していた。

しかし「見た目勝負」と思われているお見合いパーティーだが、「見た目はダメでも、内面がめちゃくちゃ良い」人には勝機がある。経験から言うと、男性が10人いれば、1人くらいは“本気で内面重視”の人が存在する。そして、実際に会うことさえできれば、写真では伝わらない魅力を伝えるチャンスが何かしら生まれるものだ。

お見合いパーティーの勧めを、カズコさんは素直に受け入れてくれた。この彼女の勇気が、運命の相手を引き寄せることになる。

運命の出会いと思いもよらない事態の間で

カズコさんは、お見合いパーティーで看護師のユタカさん(40歳)と出会い、交際することとなった。

ユタカさんは見た目も性格も良く、なかなかのイケメンだ。男性看護師というとイメージしづらいかもしれないが、年収はビジネスパーソンの平均を大きく上回り、一流企業並に稼いでいた。当然、交際経験もあり、看護師、医師などの「美人」と付き合ってきたそうだ。

そんな彼がカズコさんを選んだ理由は、女性が多い職場での学びにあった。職場の美人は、5~6年立てば見た目が衰えてくる。そして次第に特別きれいな人でもなくなっていく。逆に5~6年という長い期間、一緒に仕事をしていて楽しいのは、圧倒的に“愛想が良い人”。そこから、「いっときの見た目で人を選ぶのはばかげている。結婚するなら、性格が良く、愛きょうのある人」という結論に達したのだ。

その点、カズコさんはお見合いパーティーの短い時間であっても、笑顔で居心地の良い空気を自然に作ってくれたという。女性の本質をよく知るユタカさんは、どんなことにもリアクションを返し、ずっと楽しそうに振る舞うカズコさんに対して「この子は性格が良いな。もっと知りたい」と思ったそうだ。

一方のカズコさんは、ユタカさんが自分のことを受け入れてくれたことが、まずうれしかったという。そこに「君ほど性格の良い子はいない」とアタックされれば、付き合わない方がおかしいだろう。

「明るくて、何でも笑ってくれて、心が安らぐ」ユタカさんは、付き合うほどにカズコさんのことを好きになっていった。

交際3カ月目、そろそろ結婚話が出てきた頃に、思いも寄らぬことが起こった。カズコさんの母親が病に倒れ、自宅介護が必要となった。父親は既に亡くなっており、一人っ子のカズコさんが世話するほかなかった。

「ユタカさんには、私から別れを伝えます。生きている間に、いい夢を見られてうれしかったです。大西さん、ありがとうございました」彼女からのメールは、そんな言葉で結ばれていた。やっとつかみかけた幸せだったのに。なぜ神様はこのような試練を、彼女に与えるのか。

病める時も……誓えます!

カズコさんは電話で別れを告げた。ユタカさんは、「ちゃんと会って話そう」と言い、最後のデートをすることとなった。

いつものファミレスで彼は言った。「僕と一緒に、お母さんの介護をしよう」「えっ」カズコさんは、手にしていたフォークを落とした。

「僕と結婚して2人でお母さんを見よう。僕が君の家に住む」「ダメだよ。ユタカさんの負担が大きすぎるよ……」「じゃあ、カズコさんはどうなるの? 僕がいれば、カズコさんの負担を小さくできるよ。結婚ってさ、“病める時”も一緒にいることを誓うんじゃないの? その予行練習なんだよ。大丈夫、僕らは助け合える」涙と鼻水でグシャグシャになりながら、お互いの手を強く握りしめた。

2人はすぐに入籍した。母親が天国へと旅立ったのはその2カ月後のことだった。

“富める時”とは異なり、“病める時”に一緒にいるのは本当に辛い。一緒にいられる人ばかりではない。しかし、“病める時”を最初から分かち合おうとする2人ならば、この先どんな試練があろうと乗り越えていけるだろう。

婚活というと、少しでも条件の良い相手を求めたり、自分を良く見せたりしがちなものだ。条件の良さは、上を見上げればきりがない。「いい人がなかなか見つからない」と嘆く人は、これから出会う相手や周囲にいる人を「“病める時”を分かち合えるかどうか」という観点から見てほしい。いい人を意外と早く見つけられること、請け合いだ。

大西明美
婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ4万3000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友達がいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。特に恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談を持ちかけられ、日頃鍛えた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。
著書に『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版)がある。