1つの機能に特化、注力して開発し、高価格となった“一点豪華家電”がヒットしている。バルミューダ製のオーブントースター「約2万5000円」をはじめ、ダイソンの「コードレスクリーナー」やフィリップスの「ノンフライヤー」……、多機能な家電こそが豊かさの象徴のように思われてきた日本で、なぜ今、機能特化型の高額家電が売れているのか?
けっして安くはない家電が飛ぶように売れている
2015年6月に発売された「BALMUDA The Toaster」が快進撃を続けている。平均売価が2500~3000円程度だったオーブントースター市場で、この商品の販売価格は税込みで約2万5000円。10倍近くの価格設定ながら、欲しいという声は高まるばかり。新しモノ好きの男性ではなく、パンを愛する女性たちの心もしっかりと捉えたところがヒットの要因だろう。
バルミューダは、2003年創業のベンチャー企業だが、その飛躍のきっかけになったのは、2010年に発売した扇風機「Green Fan」だ。
100年以上も前から私たちの生活になじんできた扇風機も、平成に入ってからはエアコンの人気に押されて価格は下がる一方だった。そうした中で、バルミューダの代表・寺尾玄氏は、「エアコンの冷気が嫌いな人もいる。自然界の風のように、心地よい風を届ける扇風機を作りたい」という信念のもと、二重の羽根を持ち、高価なDCブラシレスモーターを搭載した“当たり続けられる風”の扇風機を生み出したのだ。その後、改良を続け、2014年には生産拠点を日本(山形)に移した「GreenFan Japan」を発表、ロングセラーとなっている。
もう変わることはないと思われていたものに再び着目し、揺るぎない信念で開発に情熱を捧げ、付加価値をつけて“高級扇風機”“高級トースター”という新ジャンルを作り上げたバルミューダ。心地よさや美味しさなど、人々の感性に訴えかけるモノづくりが光る。
このように1つの機能に特化、注力して開発し、高価格となった“一点豪華家電”がヒットする潮流はここ1~2年、特に顕著だ。たとえば、ダイソンのコードレスクリーナーやフィリップスの「ノンフライヤー」などの海外製品。日本のメーカーでは、シャープの「ヘルシオお茶プレッソ」や電気無水鍋「ヘルシオホットクック」がこれに当たる。ホットクックは、2015年11月に発売されるや生産が追いつかないくらいの人気がある。
「感性に訴えかける家電」が求められている
日本市場ではこれまで、オーブンレンジやエアコン、ドラム式洗濯機に代表されるような多機能な家電こそが、豊かさの象徴のように思われてきた。だが、1世帯あたりの人数が減少し、ライフスタイルが多様になった今、オーバースペックでサイズも大きくなってしまった家電製品には魅力を感じにくいのだ。価格を上げるためや、他のメーカーに負けまいとするためだけの多機能性では、使い勝手も悪く、結局は使いこなせないという至極当たり前のことに、消費者が気づいてしまったということでもあるだろう。
また、スペックで判断する男性的な視点よりも、心地よさや美味しさ、使い心地のよさなどの感性に訴えかける家電を欲しいと願う人が増えてきていることもその背景にある。調理家電やコーヒーメーカー、ジューサーなどキッチンまわりの家電の人気が高いのも同じ理由だ。
倹約するところは抑えて無駄を省き、その一方で暮らしの中でこだわりたい部分にはお金を使うという、“少し上の豊かさ”や“上質な暮らし”への希求も一点豪華家電の思想とぴたりと一致する。
その家電を暮らしに1つ取り入れるだけで、食生活が豊かになったり、くつろぎの時間が充実したりする。そんな、暮らしを格上げしてくれる家電がさらに増えるに違いない。
株式会社神原サリー事務所・代表取締役社長。顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして執筆やコンサルティング、講演等を行っている。