毎月決まった額を支払えば、何万本という映画やドラマが見放題になる「SVOD」と呼ばれる映像配信サービス。アメリカでは世帯普及率が4分の1を超えている。日本ではdTVやHuluが知られているが、「SVOD」が普及しているとはいえない。ブームを起こすには何が決め手となるのか?
「Netflix」参入で何が変わった?
2015年から、映像配信ビジネスが急速に進歩を遂げている。台風の目となったのは、9月に日本参入を果たした、世界最大級の映像配信事業者「Netflix」だ。Netflix参入で何が変わったのか? そして、テレビ局を含む日本の映像産業にどんな影響があるのか考えてみよう。
Netflixは、俗に「SVOD」と呼ばれる形態の定額制映像配信事業者だ。SVODとは「サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド」の略。毎月決まった額を支払えば、サービスに登録された何万本という映画やドラマが見放題になる。アメリカではレンタルDVDを駆逐し、ケーブルテレビを追いかけ、世帯普及率が4分の1を超えるまでに成長している。今や、アメリカの全インターネット・トラフィックのうち、4割弱はNetflixへのアクセスで占められている。
それだけの事業者の参入を、日本勢もただ見ていたわけではない。NTTドコモとエイベックス通信放送が共同して展開する「dTV」、2014年4月に日本テレビ放送網が買収した「Hulu」は、Netflix参入に合わせてサービスをリニューアルし、対抗している。
そして、3社がしのぎを削る中、満を持して日本参入を決めたのが、通販大手のAmazonだ。同社は、「お急ぎ便」の送料が無料になる、といった特典を持つ年額有料会員サービス「Amazonプライム」を展開しているが、その一環として、映像配信「プライム・ビデオ」を2015年9月末に開始した。プライム・ビデオは、Amazonプライムの特典の一つ、という位置付け。だから、プライム会員なら追加費用なしで使える。しかも、Amazonプライムの会費は年額3900円(税込み)で、映像配信専業の他社よりさらに安価な水準だ。
ただし現在のところ、日本において、SVODは「ブーム」というほどの熱狂には至っていない。そこを突き崩すには、魅力あるコンテンツの存在が不可欠。そこで各社は、自社出資による「オリジナル作品」の制作に力を入れている。逆に言えば、どのSVODを選ぶべきかは、オリジナル作品の内容で考えるべき、ということになる。
2016年は「オリジナル作品」の競争が激化する
オリジナル作品という意味では、なによりNetflixを最初に考えるべきだ。
同社は欧米で、ハリウッド映画並みに投資したドラマで成功を収めた。2015年中に作られたものの中では、歴史大作「マルコ・ポーロ」や、映画『マトリックス』の監督であるウォシャウスキー姉弟が制作した「Sence8」の評価が高い。2015年秋にAmazonも、配信を開始した「高い城の男」がアメリカで話題となっている。
一方で日本の場合、過去10年ほどで嗜好(しこう)の保守化が進み、海外からの作品よりも、国内向けに作られた作品を好む傾向にある。そのため、国内に基盤を持っているdTVやHuluはもちろん、NetflixやAmazonも、2016年は日本向け作品の制作を加速する。
Netflixは目玉として、吉本興業とタッグを組み、あのベストセラー『火花』の映像化を行う。Amazonは現在制作中の20タイトルのうち、10本が日本を念頭に置いたコンテンツだとしている。dTVは、映画やドラマのスピンオフ作品を中心に、オリジナル作品を展開している。2015年夏に公開された実写映画『進撃の巨人』のスピンオフ作品は、映画で描かれなかった部分を描く、補完的な作品になっている。
Huluは、女性殺人鬼を描いたベストセラー小説『殺人鬼フジコの衝動』を完全ドラマ化した「フジコ」が話題だ。地上波では表現にさまざまな制約があり、表現の自由度が低いため、今回初めてドラマ化が実現した。Netflixでも、自由度の高さがクリエーターに評価され、オリジナルドラマの増加につながっている。
2016年はこうした要素での競争が激化する。「ドラマといえばテレビ局」という常識が変わり、日本でも「ネット発ドラマの大ヒット」が出るようになるのは、遠い話ではないかもしれない。
フリージャーナリスト。得意ジャンルは「電気かデータが流れるもの全般」。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)などがある。