長年仕事を続けていると、職場には自分より若い人がどんどん増えていくものです。そんな若人を頼もしく感じているうちはいいのですが、歯車が狂うとモヤモヤした感情を抱いてしまうことも。その原因とは?

「美しいことも仕事の内」、受付嬢の身に起こった出来事とは……

女優かと見まごうばかりのまばゆい美しさを放つ人が、私の経営する結婚相談所を訪れた。大手企業の正社員として受付応対を行う34歳のミナミさんだ。

すらりとした長身に、手入れの行き届いたロングヘアがよく映える。目の前にして、思わず、「女子アナみたいにきれいですね」と口に出してしまった。「いえ、私はそんな人間じゃないです」と、ミナミさんは顔を曇らせた。重たい沈黙が数秒続く。何か悪いことを言ってしまったのだろうか。

「それでも、大手企業で受付をなさっているとはすごいですね」「いえ、挨拶と案内なんて、学歴も資格も関係ありませんし、誰でもできますよ」また沈黙。会話が思うように弾まない。

「ミナミさんのように美しい方ならば、受付で取引先の男性から声を掛けられたりすることもあるのではないですか?」「いえ、今はありません」……出会ってから3分も絶たないうちに、3回も訪れる沈黙。

しかし、ちょっと聞いてみたいことができた。「“今は”ということですが、“以前は”声をかけられることがあったんですか?」すると、彼女は「ああ、よくぞ聞いてくれました」という顔をした。少しホッとする。

「半年くらい前までは、1カ月に2、3人は声を掛けられていました」「えっ? 半年前に一体何があったんですか」彼女は、初めて私の目をじっと見て、話をしてくれた。「一緒に受付を行っていた同僚が、寿退社をしたんです」

今まで当たり前のように自分の手に入っていたものが、ある日突然、奪われてしまう。そんな残酷にも思えることが、誰の身にも起こりうるのです。

美人の栄枯盛衰、世代交代

ビジネス街の一等地にあるゴージャスな大企業の本社ビル、その1階の受付には、毎日多数の取引相手が訪れる。同世代の独身男性も少なくない。その大部分は名のある企業に勤める、いわゆるエリートだ。ミナミさんは彼らからスマホのメールアドレスやLINEのIDを裏側に書き込んだ名刺を渡されていた。ところが、隣に座って受付業務を行っていた同い年の同僚が寿退社をした後、変化が起こった。後任として22歳の新入社員、クルミさんが配属されたのだ。

来訪者の注目は、一気にミナミさんからクルミさんに移った。明るく若く、もちろん美人。そして愛想も良い。これまでミナミさんに渡されていた個人の連絡先入りの名刺は、クルミさんに渡されるようになった。

ある日、ミナミさんは、「取引先の人とは個人的に会ってはいけない決まりになっているから、そういった名刺を渡されても受け取らないように」とクルミさんに注意をした。それ以来、2人の関係はギクシャクしていると言う。

同僚の寿退社には、あまり焦りを感じなかったそうだ。先輩や同僚は、こういった流れで、みんな結婚をしていったからだ。しかし、後輩の登場により、苦境に立たされ愕然とした。そして、戦力外通告を受けたような気持ちで、結婚相談所の門をくぐったということだ。

「聞いてもらえて、すっきりしました」ミナミさんは来た時とは別人のような明るい表情を見せた。誰にも言えず苦しかったのだろう。「大西さん、私はこの先、どうしたらいいと思いますか」「正直に言えば、結婚相談所への入会はお勧めしません」

「……それは私が後輩に対して行った仕打ちについて、話したせいでしょうか」「まあ、そうですね。でも意地悪をしたからという理由ではありません。その前に、あなたにはやるべきことがあるからです」真剣なまなざしがこちらに向けられている。

「まず、クルミさんに正直に謝ってください。個人の連絡先が書かれた名刺を受け取ってはいけないと言ったのは、クルミさんのことがうらやましかったからだと」「えぇっ!? だって、そもそも取引先の人から個人的に名刺をもらうことは、会社から禁止されているんですよ?」そう、受付がそんな好き放題をやっていいわけがないので、当然だ。

「でも、ミナミさんが注意をした動機は、会社の規則を守らせるためではなく、クルミさんへの嫉妬だったんですよね?」「……はい、そうです」「その嫉妬は伝わっていますから。女性の直感を甘く見たらダメですよ。『今更だけれども、名刺の件、ごめんね。もちろん会社から禁止されているけれども、私、あなたのことがちょっとうらやましかったんだ』と言ってみてください。きっと何かが変わりますよ」

女の重たさは「嫉妬」でできている

結局、ミナミさんは結婚相談所に入会しなかった。そして1年後に、職場の4歳年下の男性と結婚をした。

彼女は、私のアドバイスから3カ月後(遅い!)にクルミさんに思い切って謝ってみたそうだ。クルミさんはホッとした表情で答えたという。「先輩、会社の決まりですから、注意してくれていいんですよ」と。2人は、面倒見のいい先輩と素直な後輩という元の関係に戻った。

クルミさんに本当の思いを伝えることで、ミナミさんは「自分よりも若いもの」への嫉妬から解放され、今まで以上に生き生きと仕事をするようになった。そうやってどんな相手に対しても丁寧に接する姿に、年下の夫は胸を打たれたのだ。

かつて美人だともてはやされた経験がある人を見ると、若い女性への対抗心と嫉妬心に支配されていることが少なくない。しかし対抗心と嫉妬心というネガティブなパワーは、“現在の美”をくすませてしまう。ミナミさんが私の相談所を訪れた際に、どんな問いかけに対しても「いえ」という否定的な言葉からしか返答しないことによって場を凍らせていたのは、そのネガティブパワーによるものだ。

誰でも、いつかは若さを失う。けれども若さと美しさは別物だ。人はその時その時の美しさを輝かせることができる。

これは美醜に限った話ではない。会社で仕事をしていて、若い才能の台頭に恐れを感じたり、疎ましく思ったりしたことはないだろうか。今、自分にある輝きを見失わないように、曇らせないように生きることが大事なのだ。

大西明美
婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ4万3000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友達がいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。特に恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談を持ちかけられ、日頃鍛えた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。
著書に『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版)がある。