出産や妊娠に係る技術は、飛躍的な進歩を遂げています。着床前診断などの一歩先をいく技術とは? 生殖医療分野で近い将来実現しそうな、さまざまな研究を紹介しましょう。

治療5:60歳で産める時代へ

●着床前診断の進化形。卵子や母体検査でリスク回避の新治療も!

さて、不妊治療の明日はどうなっていくのでしょう。そのヒントとなるような、先端研究にも触れておきます。

イラスト=Takayo Akiyama

まず、セントマザー産婦人科医院が実験に成功した卵子の若返りですが、これは、自分の卵核を「他人の卵子」に移植するところが問題でした。そこをクリアする研究結果が2015年3月に発表されています。世界的な不妊治療企業であるOvaScience社では、自己の卵巣内にある未成熟卵胞から正常なミトコンドリアを取り出し、それを人工授精用の卵子に与える、という方法で、受精率を著しく改善することに成功しました。高年齢での不妊は、ミトコンドリアの劣化が原因のひとつでもあるため、この手法により、問題の1つは解消されることになります。

着床前診断についても、より良い方法がお目見えしています。それは、卵子の時点で流産や遺伝子レベルの病気について、その発生を予測する、というもの。ハーバード大と北京大の共同研究で、2013年に発表されました。こちらならまだ卵子であり、「生命」以前の段階のため、心理的・倫理的障壁は低くなるでしょう。さらに、着床前診断のように受精卵に穴を開けてその中身を取り出して検査するわけでもありません。受精卵とペアで卵巣に育つ極体(じきに体に吸収される)を採取して診断します。つまり、卵子へのダメージもほとんどないのです。

この進化形で、2015年4月にはスタンフォード大から、卵子ではなく母親の遺伝子診断で、流産確率がわかる、という研究まで発表されています。こちらは、PLK4という遺伝子が存在すると、流産確率が著しく高くなる、というものです。ただ、PLK4を持つ母親は必ず流産するわけではなく、この遺伝子を受け継がない卵子は正常に出産できるといいます。ということは、母体にPLK4が見つかった場合、卵子を診断し、PLK4を受け継がないものを受精させる、という方法で、流産は相当減らせるでしょう。

障害についても、予防や治療ができる可能性があります。生命科学の領域では、遺伝子の持つ機能のスイッチをオフにする研究が進められています。障害が発現しないようにすることも、可能になるかもしれません。

●フレッシュな卵子をつくることも可能に?

最後に、究極の話をしておきます。まったくフレッシュな卵子を作ることも可能になりつつあるのです。卵巣の中には、原始卵胞になる前の「卵原幹細胞」が存在するといわれてきました。それがどうやら見つかりつつあるようです。こちらもハーバード大などから情報が寄せられています。ちなみに、幹細胞は、細胞の劣化を起こさず「0歳のまま」であり続ける性質があります。もし、この手法が確立されると、それこそ、フレッシュな卵子が何歳でも作れることになるのです。

科学は私たちの想像を超えるスピードで進化し、過去の常識を変えてきました。だから、子どもが欲しい女性が悩まずにすむ日も、近い将来訪れる可能性は高いでしょう。ただし、妊娠と出産に関する技術は、生命倫理=神の領域に足を踏み入れるために、ことは慎重に進めねばなりません。

歴史を振り返れば、ピル、人工中絶、出生前診断や体外受精、人工授精。みな、慎重に議論を重ねてルールが作られ、今では普通に、そうした技術と私たちは付き合っています。30年でここまで来たのです。これから先も、着実に進歩を続けるでしょう。

世間では「子どもは早いうちに」といいます。それは間違いではありません。ただ、その風潮が強すぎて、今の女性は窮屈な生き方をしています。

男性とめぐり合う機会などなく30歳になってしまう女性は少なくありません。30歳を過ぎて不幸な別れをしてしまうこともあるでしょう。そうして独身で35歳を迎えた女性の多くは、心のどこかに「不安」や「焦り」、「自責」の気持ちを抱えているのではないでしょうか。これでは人生で一番大切な30代が、とても重苦しくなってしまいます。だから彼女たちに伝えたいのです。

世にいわれるほど、40歳って可能性がないわけじゃありません。そして、近い将来そのチャンスはもっともっと広がります。だからみなさん、30代を、上を向いて歩いてください。