大人になった今だからこそ良さが分かるマンガ、子どもの頃から知っているけど、今読むと新たな良さに気付くマンガ……今回は30代の働く女性に「30歳を過ぎてハマったマンガ」について聞きました。

近年、大学でマンガ学部やマンガ学科が開設されるという動きが広まっています。また、マンガ家・浦沢直樹さん自ら企画者となり、マンガ家の創作現場に密着し、作品が生まれる貴重な瞬間を伝えるNHKEテレの番組『漫勉』も大きな話題に。いまやマンガは、エンターテインメントとしてだけでなく、学びやインスピレーションを得るものとしても捉えられるようになってきているようです。

こうした傾向は、ある程度社会人経験を積んだ30代女性にとっても無関係ではないはず。『りぼん』や『なかよし』などに掲載されていたファンシーな少女マンガに夢中になった子供時代を経て、30代に突入した今だからこそ改めて惹きつけられるマンガとは、一体どのような作品なのでしょうか? 東京近郊で働く30代の女性に、30歳を過ぎてハマったマンガについて聞いてみました。

BL出身作家が描く恋愛マンガ『愛を喰らえ!』

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『愛を喰らえ!!』ルネッサンス吉田(太田出版)

「10代の頃は大の少女マンガ好きでしたが、それなりに恋愛経験を積んできた今、“壁ドン”など、『オラオラ系の男性キャラに主人公がドキッ』というような展開に対して、ジェンダーの捉え方がなんだか雑だなぁ……と感じるようになりました。それに対して、BL出身の作家さんの作品は男性性や女性性についての考察が一筋縄ではなく、すとんと腑に落ちるものが多いと感じます。とくに、ルネッサンス吉田さんの『愛を喰らえ!』は画一的なジェンダーの話に飽き飽きしている人にはおすすめです」(33歳/中学校教員)

「恋に恋する」年代ではドキドキできた場面でも、現実の恋愛に置き換えて冷静に考えてみると、「強引過ぎる」「こんな男性(or女性)いないでしょ」と思うようなことは多々あるもの。一方、同性愛などをテーマに、恋愛の前提自体に制約がある中で鍛錬を重ねてきたマンガ家の作品は、性別の問題だけに還元されない、人間としての繊細な心の動きが楽しめるものが多いのかもしれません。

今読めば最強のシェアハウスマンガ『めぞん一刻』

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『めぞん一刻』高橋留美子(小学館)

「仕事がとにかく忙しく、恋愛する暇もない私。今一番の癒やしは、夜眠る前に高橋留美子先生の『めぞん一刻』を読み返すことです。うだつの上がらない主人公・五代くんと、彼の住むアパートの管理人・響子さんの恋愛マンガ……というイメージが強いかもしれませんが、私にとってこの作品は最強の“シェアハウスマンガ”! 変人ばかりのアパート住民たちが繰り広げる、ほぼ共同生活といってもいい日常の様子が楽しくて、1人暮らしの寂しさをちょっとだけまぎらわせることができるんです」(35歳/広告会社営業)

アニメ・ドラマ・映画などで、近年人気が高い「日常系」というジャンル。おおまかには「劇的なストーリー展開を排し、登場人物たちの何気ない日常を描写するもの」といったもので、その穏やかな雰囲気に癒される人も多いようです。高橋留美子作品のように昭和の日常系マンガは、ときにうっとうしいまでの他者との関わりの中で人情の触れ合いも描かれます。この温かみある日常系の良さは、アラサー以上だからこそ心に染みるのかも?

恋愛要素以外も丹念に描く『海街diary』

「歳をとるにつれて、マンガの中の恋愛要素よりも、もっと大枠の人生全体の話について興味をひかれるようになりました。吉田秋生さんの『海街diary』や東村アキコさんの『かくかくしかじか』は、恋愛エピソードよりも、死や老い、自立について描いたパートの方がむしろ気になります。こうした、目を背けたくなるような部分も丹念に描いているマンガは、これからも読んでいきたいと思いますね」(31歳/webデザイナー)

『海街diary』吉田秋生(小学館)

映画版『海街diary』は、先日授賞式が行われた第39回日本アカデミー賞で、最優秀作品賞と監督賞を含む最多4冠を獲得。『かくかくしかじか』は2015年の第19回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で大賞を受賞しています。映画やアートなど、ジャンルを越えて受け入れられるような作品なのでしょう。人生を一面的ではなく、多面的に描くような深みがあり、それが人生経験を重ねてきた30代の女性の心にも強く刺さっているようです。

一周まわって…恋愛のときめきを学び直す『アオハライド』

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『アオハライド』咲坂伊緒(集英社)

「男兄弟の中で育ったので、スポーツ系などの少年マンガしか読んでこなかったのですが、最近、映画の原作ということで少女マンガ『アオハライド』『orangeーオレンジー』を読む機会が増えてきました。2年前に離婚して以来、恋愛することにおっくうになっていましたが、ときめきという感覚それ自体は、人を行動的にしたり、感情豊かにしたりといいものだなぁとしみじみ思い、今は少女マンガでその感情を学び直しています」(34歳/パート勤務)

いわゆる普通の恋愛モノではないタイプのマンガを挙げる人が目立ちました。しかし中には、人生の酸いも甘いも知って“一周まわった”状態で、あらためてロマンチックである意味古典的な少女マンガにハマったという声も。人生経験を積んだ上で、「こんなこと実際にはほとんどないよなぁ」とは思いつつも、自分以外の人を大切に思う気持ちを素直に表現する登場人物たちの様子に考えさせられるものは、今だからこそ多いかもしれませんね。

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マンガを単なるサブカルチャーと認識する時代は過ぎ、働く30代の女性たちもさまざまな感情についての理解に活用しているよう。次回は、さらにキャリアも人生経験も積んだ40代女性に「40歳を過ぎてからハマったマンガ作品」について聞いてみます。お楽しみに!

皆本 類
出版社勤務を経てフリーのライターに。広告案件や企業のオウンドメディアを中心に、女性向けコンテンツ作成を担当。おひとりさま向けウェブマガジンの編集のほか、猫やウェディングに関する雑誌に記事執筆も。