住宅ローン金利が下がってマイホーム購入には有利

2月16日、日本銀行の「マイナス金利」政策がスタートしました。史上初の試みだけに経済への影響は未知数ですが、私たちの身の回りでは、これから「銀行預金の金利がさらに低くなる」「住宅ローンの金利が下がって借りやすくなる」といった影響が出てきそうです。

といっても、銀行預金の金利はこれまでだって、ほとんどゼロ。私たちの預金金利がマイナスになることはまずなさそうなので、普通の人なら、大勢に影響なし。

気になるのが住宅ローン金利です。すでに、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行などが住宅ローン金利の引き下げを発表しています。たとえば三井住友銀行の場合、2月16日から10年固定型の金利を0.15%下げて年0.9%としました。このほかにも、3月からは住宅ローン金利を引き下げる銀行が相次ぎそうです。

借入金額が1000万円単位になる住宅ローンでは、わずかな金利の違いもあなどれません。たとえば3000万円を期間35年で借りる場合、年1%前後の金利が0.1%下がるだけで、支払利息は総額で約60万円も少なくなります。マイホーム購入を予定している人にとっては、少なくとも金利面では有利な状況になりそうです。

固定金利で借りている人は借り換えで得することも

今回のローン金利引き下げの動きは、新規に借り入れる人にとっては有利。では、すでに住宅ローンを借りている人にとって、メリットはあるでしょうか?

まず、固定金利型で借りている人には、残念ながら、基本的にメリットはなし。「金利変動の影響を受けずに同じ金利が続く」というのが固定金利の原則ですから、これは仕方がありません。ただ、年1.5~2%といった金利で借りている人や、金利の大幅優遇期間が終わって適用金利が上がるような人は、ローンを借り換えることで得するケースもあるでしょう。ただし、ローンの借り換えには数十万円もの手数料がかかりますから、それだけ払っても借り換えたほうが得かどうか、金融機関で試算してもらうといいでしょう。

変動金利で借りている人の金利は下がる?

さて、住宅ローンを借りている人は、変動金利型を利用していることが多いと思います。適用金利の見直しは通常年2回、4月と10月に行われるのが普通です。「それなら4月から金利が下がるのでは?」と期待してしまいますね。でも、結論からいえば、それはちょっと微妙なよう。

「なぜ!?」と思う人のために、ちょっと面倒ですが、変動金利型ローンの適用金利の決まり方を説明しましょう。変動金利型ローンの金利は、まず、その銀行の短期プライムレート(略して短プラ。優良企業に貸し出すときの最も低い金利のこと)を基準に決まります。実際の適用金利が決まるまでの流れは次のとおりです。

(1)経済状況などによってその銀行の短期プライムレートが決まる
(2)短期プライムレートに1%程度を上乗せして変動金利型ローンの店頭金利(基準になる金利)が決まる
(3)そこから優遇金利(金利割引のこと。借り手の条件によって違う)を差し引いて、適用金利が決まる

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変動金利型ローンの適用金利は3段階で決まる

日本銀行の資料によれば、(1)の短期プライムレートは現在1.475%(最も多くの銀行が採用する金利)。ある大手銀行の例では、この1.475%に1%を上乗せした2.475%が(2)の店頭金利で、ここから最大1.85%の優遇を引いた0.625%が(3)の適用金利になる、という具合です。ややこしいですね!

変動金利を決める短期プライムレートは7年間変化なし

さて、この短期プライムレートはなんと2009年1月からずっと1.475%のまま、今に至っています。この間、新規借り入れの適用金利はどんどん下がりましたが、それは(3)の優遇金利幅が増えた、ということ。これは、銀行が新規顧客の獲得競争に励んだ結果でしょう。優遇金利は借りる時点で決まるので、短期プライムレートが下がらない限り、すでに借りた人の適用金利は下がらない、ということになります。

では、短期プライムレートはここから下がるか? 銀行としては、これを下げるとローンを借りている人の適用金利を下げなくてはならず、そうなると利益が減ってしまいます。「できれば下げたくない」というのが本音ではないでしょうか。これまで7年以上も変えなかったものをここで引き下げに踏み切るかどうか、注目したいところです。ちなみに、すでに新規借り入れの10年固定型金利を引き下げた三井住友銀行の場合、変動金利型の金利については0.625%のまま据え置いています。

変動金利型ローンの特徴を知っておこう

マイホームを購入するとき、勧められるままに変動金利型ローンを選んだ人も多いと思います。この機会に、変動金利型ローンの特徴をおさらいしてみましょう。

(1)金利が変わっても返済額は5年間変わらない(5年ルール)
適用金利は半年に一度見直されますが、返済額は5年に1度しか変わらないのが普通です。この間にもし適用金利が下がれば、返済額のうち利息の割合が減って、元本を多く返せます。反対にもし適用金利が上がれば、返済額のうち利息の割合が増え、元本がなかなか減らないことになります。

(2)返済額が上がるときも1.25倍まで(1.25倍ルール)
多くの金融機関では、もし金利が上がって返済額が上がる場合も、返済額はそれまでの1.25倍を上限に決めています。一見、安心なようですが、こんなときは返済額のうち利息の割合が大きく増えているので要注意。もしも利息が返済額を上回るようなら、「未払い利息」が発生して、返しても元本が減らず、払うべき利息がどんどん増えていく状態に。これが変動金利型の最大のリスクといえるでしょう。

(3)変動金利型→固定金利型への乗り換えは難しい
上のようなリスクに対し、「金利が上がり始めたら変動金利から固定金利に借り換えよう」と考える人も多いはず。ただ、前述のように変動金利型ローンの金利は短期プライムレートの影響を受けますが、固定金利型の金利は、10年国債金利などの長期金利に影響されます。金利が変動するときは、こうした長期金利は短期金利に先がけて動き始める性質があります。このため、金利上昇時に借り換えようと思っても、固定金利型の金利はすでに上昇しているでしょう。都合よく借り換えるのは、かなり困難と考えるべきです。

超低金利のなか、返済額が少なくて済む変動金利は固定金利より有利な状況が続いています。景気がなかなか回復しない今、今後もしばらく金利上昇は考えにくいと思います。でも、住宅ローンは20年、30年も続きます。金利が急上昇するときがないとはいえません。景気が回復しない中で金利が急上昇を始めるのが最悪のケース。変動金利の水準が固定金利を上回ることもあり得ます。

変動金利型ローンを借りている人は、こうしたリスクを頭に入れておくことが大切です。返済額が少なくて済むからといってお金を使ってしまわずに、手持ち資金を増やしておくよう心がけましょう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。