「不妊治療の名医」たちでも、得意とする治療法、医療に対する考え方は分かれます。本記事では「卵子を育てる技術」「採卵する技術」「心のケア」を切り口に、4人の先生に詳しく聞いてみました。

卵子を育てる技術

●患者さんごとに、育て方も異なる

セントマザー産婦人科医院・院長 田中温先生

卵子の若返り(細胞質置換)や無精子症男性の精子培養などに実績を持つ、北九州市の折尾にあるセントマザー産婦人科医院院長の田中温(あつし)先生。

田中先生は、「卵巣の活動を活発にし、卵子を育てるプロセスが大切だ」と話します。

「受精する力、育つ力、着床する力。その多くが卵子の状態にかかっているのです。だから、元気な卵子を育てるところに、全力投球が必要でしょう。そのためには、いくつかの排卵誘発剤や超音波刺激などを組み合わせるのですが、レシピに沿った一律な処置では、だめですね。患者さんの体調、体質、体格で排卵誘発に使う薬や刺激を変えねばなりません。

イラスト=Takayo Akiyama

その昔、成功率が低かったのは、欧米の研究結果をそのまま取り入れていたからでしょう。欧米人と日本人では異なる部分が多いのです。また、同じ人でも、体調や加齢により、それこそ、排卵周期が1回異なるだけで、処置も変えねばなりません」

体格、年齢、FMH値、AMH値、体質などと治療成果のデータを集め、分析により、より成功率の高い施術を同院では実現。その結果、40歳で人工授精を試みた場合の出産率が13%まで高まり、通常(7.7%)よりも格段に良い成績を挙げているといいます。

採卵する技術

●未成熟卵での体外受精も

IVF大阪クリニック 福田愛作院長

生殖補助医療で定評があり、日本産科婦人科学会でPGS(着床前受精卵遺伝子スクリーニング)に関する小委員会の委員も務めるIVF大阪クリニック院長の福田愛作先生は、卵子を取り出す(採卵)技術も重要といいます。

「女性の卵子の数は、年齢とともに減ってきますから、40代になれば、いくら強い刺激を与えても1回で取れる卵子は少なくなります。全く採卵できない、という患者さんも多いのです。高年齢の患者さんに対しては、我々は軽い排卵誘発を行う自然周期に近い形で採取します。過去の手術などにより卵巣の位置がずれていて採卵が難しいケースでも、エコーで卵巣や血管の状態を見きわめ、経験に根ざした技術で採卵が可能です」

イラスト=Takayo Akiyama

IVF大阪クリニックでは未成熟卵の体外受精の実績もあります。

「未成熟卵の体外受精も選択肢に入っているのは、私ならではといえるでしょう。卵胞の発育の悪い方でも、小さな卵胞から未成熟卵を採取、培養し受精までもってゆきます。いろいろな方法を駆使して受精卵(胚)を凍結保存します。4個集まったところで一気に融解し、その中の元気な胚を子宮に戻す。このようにして治療成果を挙げています」

心のケア

●ワクワクしながら頑張る

ミオ・ファティリティ・クリニック 見尾保幸院長

ミオ・ファティリティ・クリニック院長の見尾先生は言います。

「事情はさまざまですが、高齢でお子さんを望まれる女性には、まずはご自身の体の現状を受け止めていただくことが重要と考えています。時計軸を逆回しできない以上、年齢が高くなれば当然、卵子が減り、その質も低下します。しかし大切なポイントは、卵子は無くならないのです。閉経後でもわずかに残っています。残っていれば、その中に質の高い卵子に出会えるチャンスもあり、それを活かして、赤ちゃんに出会える確率を上げる努力が我々の生業です。

イラスト=Takayo Akiyama

私が2013年の厚労省『不妊に悩む方への特定治療支援事業等のあり方に関する検討会』に提示した成績では、40歳を超えても、受精卵を繰り返し胚移植すれば、その80%近い女性が妊娠できています。厳しい条件でも、反復胚移植で赤ちゃんの夢は叶うのです。悪条件では、とかくネガティブに考えがちですが、夢の実現に努力することは楽しいはずですので、ご夫婦が未来志向でアドレナリンを体に貯め、ワクワクしながらがんばることが何より肝心ではないでしょうか」

ミオ・ファティリティ・クリニックでは、こうして治療を続け、25回目の胚移植で妊娠された45 歳の女性もいます。出産する頃は46歳になるそうです。

●がんばりすぎないで

ウイメンズクリニック南青山 小杉好紀院長

『卵子はよみがえる』など不妊治療に関する著書を多数発表している、ウイメンズクリニック南青山院長の小杉好紀先生は、見尾先生と同じことを、印象的な言葉で語ってくれました。

「もうそろそろ、あなたを許してあげてもいいのではないですか。不妊に悩む人は、一生懸命がんばりすぎるきらいがあります。

逆に、40代でも自然妊娠するタイプは、あっけらかんとしていて、マイペース。がんばりすぎれば、体全体のバランスが崩れてしまいます。不妊というのは、そのひとつの表れであり、それ以外にも体のいたるところで問題が起きているのです。がんばりすぎの人は、自分に対して条件付きの愛しか持てなくなっています。周囲の期待に応えるべく、高い目標を持ち、それができたときだけ、自分をほめる。達成しなければ、悩み悔やむ。不妊もまさにそうでしょう。そんな、条件付きの愛はやめ、代償を求めない愛で、自分を受け入れる。最新治療はもちろん重要ですが、その前に、あなた自身を許してあげることが重要です」

冒頭に書いたように、スワジランドでは今でも40代女性が平均0.90人の子どもを産みます。リベリアやサモアでもその数字は0.50人に迫る。大正時代の日本も同様に0.43人を産んでいた。それは、現代の日本よりも、無理せず自然に生きていける社会だったからこそ、可能なのかもしれません。

田中温(たなか・あつし)
セントマザー産婦人科医院院長。1976年順天堂大学医学部卒業。85年、国内で初めてGIFT法による妊娠・出産に成功した、高度生殖医療の第一人者。卵細胞質置換(卵子の若返り法)の臨床への応用を目指して研究中。
福田愛作
IVF大阪クリニック院長。1989年京都大学医学博士取得。米国東テネシー州立大学体外受精ラボディレクターを務める。日本人として初めて米国バイオアナリスト協会(ABB)IVF培養室長資格(HCLD)を取得。
見尾保幸
ミオ・ファティリティ・クリニック院長。1974年鳥取大学医学部卒業。97年、クラインフェルター症候群患者に対するICSIによる妊娠、出産に日本で初めて成功。現在、JISARTの理事長を務める。
小杉好紀
ウイメンズクリニック南青山院長。1995年東京医科大学大学院修了。生命科学と医学の橋渡しをするトランスレーショナルリサーチを専門とする。都内のクリニックを拠点に、心と体すべてを対象とした統合医療を実践。