広く群集から知恵やマンパワーを募る「クラウドソーシング」

「ライターやデザイナーとして独立したいけれど、営業力がなくて……」。そう思っているクリエイターは多いと思います。はたまた子育て中の女性や定年退職をした人で、「自宅にいながら、ネットを使った簡単な事務系の仕事はないだろうか……」という人も多そうです。

そこで「クラウドソーシング」の登場です。

クラウド(crowd=群集)ソーシング(sourcing=業務委託)とは、個人や企業の仕事をネット上で不特定多数の人に仲介するサービスです。現在、仲介を専門としている会社がいくつかあり、仕事が欲しい人は登録をし、仕事が成立したら仲介会社に手数料を払うという仕組みです。

専門性の高い業務を企業がアウトソーシングすることは昔からありました。今はクラウドのおかげでひと握りの専門家に頼むのではなく、広く群衆から知恵やマンパワーを求めることができるようになったのです。

仕事を依頼したい「発注者」と、仕事が欲しい「受注者」をマッチングするシステムは、双方にメリットがあり、受注者としては好きな時間に好きなだけ、自宅でも働けることから、新しい稼ぎ方として注目を浴びています。

※総務省・ICTが拓く未来社会
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc243120.html

「クラウドソーシング」成立までの流れ

一般的なクラウドソーシングの流れを説明しましょう。

まずは仕事を依頼したい企業である「発注者」が、クラウドソーシングの仲介をする会社に委託したい仕事を「○○円でやってくれる人を見つけたい」と依頼します。仕事のオリエンテーションにあたる内容も伝えます。

仲介会社は委託された仕事を自社のサイト上に掲載し、「受注者」を募ります。このとき仕事内容と金額も提示します。

受注者はサイトに登録をします。登録料は無料です。このとき自分のスキルや資格、経験や実績なども登録をします。掲載された仕事の内容や金額などを閲覧し、やりたい仕事に応募します。

発注者は、「この人なら……」と思う人に発注をします。受注者にはこれまで受けた仕事のレビューもついており、受注者を選択するのに大いに役立ちます。

仕事が動いている間のやりとりやさまざまな管理、支払いは仲介会社が行います。大半がネット上でのやりとりとなり、打ち合わせが必要ならスカイプなども駆使します。小さな仕事なら、発注者と受注者が直接顔を合わせるのはごくまれです。

受注者は仕事を納品します。このとき、発注者に直接納品するか、あるいは仲介会社を通して納品するかは仲介会社やその仕事の契約によります。ギャランティは仲介会社から一定の手数料を除いた分が支払われます。

たとえばカフェの店主とデザイナーをマッチング

これではまだよく理解できませんよね。ではこの一般的な流れを、あるカフェの店主がお店のロゴマークを作って欲しい具体例に合わせて見ましょう。

新しくカフェをオープンする店主は、看板にも使うオシャレなロゴマークが欲しいと思っています。とはいえデザインは苦手だし、優秀なデザイナーにロゴマークを頼むだけの資金もありません。そこで、店主はクラウドソーシングの仲介会社にロゴマークを依頼しました。

仲介会社はカフェの店主が欲しいイメージを聞き出し、デザイン料や納期も確認し、「ロゴマークを5万円で作ってくれる人募集」と自社のマッチングサイト上に掲載。デザイナーからの応募を募ります。

このカフェのロゴを作ってみたいと思ったデザイナーは応募をします。このとき、複数のデザイナーから応募を募り、店主が気に入ったものを選べる「コンペ型」と、カフェの店主がデザイナーのこれまでの作品をみて、この人に頼んでみたいという「指名型」があります。

カフェの店主は「コンペ型」を選び、広くロゴマークのデザインを募集することにしました。多数の応募があり、その中から自分がピンときた1点を選びました。

デザイナーはデザインを納品します。カフェの店主はサイト上に掲載された料金を仲介会社に支払い、仲介会社は一定の仲介料を抜いた分をデザイナーに支払います。

結果、カフェの店主は気に入ったロゴマークを手に入れることができ、デザイナーは、営業をすることなく仕事を手に入れることができました。

その後、カフェの店主は看板やメニュー、ランチョンマット、箸袋のデザインも同じデザイナーに依頼。もちろん、デザインが統一されたホームページも依頼しました。このとき仲介会社を通すか、あるいはカフェの店主とデザイナーの直接のやりとりになるかは契約によります。実際のところ、直接やりとりをしたければ、仲介会社はそれを止めることはできないそうです。

レビューが信頼に繋がるフェアな世界

「クラウドソーシング」にしても最初から仕事がゲットできるわけではなく、実績を積み、レビューを増やすことで発注が増えていくのはリアルな世界と同じです。コンペ形式は採用にならないと料金が発生しないので、骨折り損になってしまうかもしれません。

しかし、ネットの世界にはたくさんの仕事があり、小さくて細かい仕事は数限りなくあります。たとえばネット通販を取り上げて見ても商品の名前やロゴはそれぞれにあり、店主はネーミングやロゴを考えるのも一苦労です。また、商品には仕様のスペックがあり、それをデータとして打ち込み、商品説明の文章を書き、整理するのも大切な仕事です。さらにはサイト制作までクラウドソーシングで発注されています。

これらの状況を発注者側からみると、クラウドを使うことにより業務に最適な人材を広範囲から求められるようになり、必ずしも社員として雇用をしなくてよくなります。

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クラウド時代の未来はこうなる!?

自社サーバーを持たずにASPやクラウドサービスになったのと同様に、マンパワーもクラウドソーシングへの移行が徐々に進んでいます。今後、社員を雇わない、そのため事業所も必要としない「もたざる経営」を目指す経営者が増加する可能性もあるでしょう。

受注者の登録は無料。複数の仲介会社に登録してもOK

ここでいくつかの会社を紹介しましょう。

大手仲介会社であるクラウドワークス(東証マザーズ上場 http://crowdworks.jp/)のこれまでの依頼件数は80万件、依頼総額は約660億円で、141カテゴリの仕事がライナップされています。

ランサーズ(http://www.lancers.jp/)の「発注者」登録数は11万社、「受注者」登録数は76万人います。最近の仕事として、経済産業省新規事業のロゴマーク(8万円)をコンペ形式で発注し、143提案あったそうです。

他にも翻訳専門、士業専門、家事代行専門、アンケートの回答やデータ入力などの事務が主体の仲介会社もあり、クラウドソーシングの世界は日々進化しています。クラウドのおかげで、自分のスキルが活かせる仕事が必ずどこかにある…、そんな様相になってきました。

クラウドソーシングは「自宅にての内職」「小遣い稼ぎ」のイメージもあり、日本ではこれだけで生計をたてている人はまだまだ少ないのが現実です。しかし欧米ではあたりまえの仕組みであり、特に米国では多額の報酬を得ている人も少なくありません。ネットは世界中、瞬時に繋がることができるので、クラウドソーシングで海外の仕事を受注する人が出てくるのは時間の問題です。

実力と実績が勝負、料金も明確でフェアな世界のクラウドソーシングは、近い将来、起業や経営、働き方を大きく変えるひとつの要因になりそうです。

マネージャーナリスト 坂本君子(さかもと・きみこ)
広告代理店、出版社にてサラリーで働くエディター、ライター、プランナー、コピーライターを経てフリーに。得意分野は投資、住宅関連。大ブレイクはしないけれど、仕事は堅実でハズさない。満を持して2008年に起業。個人投資家としての投資歴は15年選手(ちょっぴりプラス)。