インバウンドツーリズムの盛り上がりで、「民泊」など個人が気軽にオーナーとなれる住宅まわりのサービスが続々登場しています。今回は住宅ローン返済の知恵を含め、投資目的で不動産を買うポイントやリスク軽減策をご紹介。教えるのは不動産関連の著書多数、「住まい」の解説者・中川寛子さんです。
将来値上がりする不動産物件の条件2つ
不動産には購入後、値上がりする物件がある。例えば2015年12月5日号の雑誌「週刊東洋経済」には「首都圏/近畿圏 マンション値上がりベスト40」なる記事が掲載されていた。それによると値上がりのトップは、2008年に品川で分譲されたシティタワー品川。定期借地権の物件だったせいか、分譲価格が不思議なほど安く、業界内では家族の名義でもなんでも使える名義は使って、とにかく申し込めという話が駆け巡っていたことを思い出す。
同物件は例外としても、それ以外の値上がり物件を見てみると共通するのは二つ。
(1)駅近で都心であること
(2)ブランド力のある立地であること
具体的には渋谷、広尾、六本木、人形町、白金高輪、目黒……。また、ここ10年ほどで人気が出た湾岸エリアも含まれている。もう一つ、2000年代前半に竣工した物件が多くランクインしており、同誌は「分譲価格の安かった2000年代前半の竣工物件が目立つ」としている。
つまり、駅に近く、都心などブランド力がある立地、あるいは分譲以降に人気の出た立地で安く分譲された物件が値上がりしているというわけである。では現在も当時のような将来値上がりを期待できる物件はあるのだろうか。残念ながら2000年代と違い、現在の物件価格はかなり上がってしまっている。
例えば、2006年9月に分譲された豊洲駅1分の、豊洲シエルタワーの当時の分譲価格は2380~6720万円。間取りは45平方メートルの1LDKから100平方メートルの4LDKまで。これに対して2016年2月から分譲が開始される予定の、豊洲駅から5分のパークホームズ豊洲ザ レジデンスの予定価格帯は5000万円台~1億400万円台となっており、間取りは2DLK~4LDK。専有面積は56.37平方メートル~86.68平方メートルとなっており、この10年ほどの分譲価格の上昇が分かる。
これから買う人は既に上がってしまった価格で買うことになるわけで、それがさらに上がる可能性がどの程度あるものか。今後の日本経済の動向次第だろうが、上がり続けるシナリオはないではないものの、無邪気に信じるわけにはいかないのが現実だろう。
中古物件価格サイトで、気になる「我が家」の売値診断
2000年代前半の物件のように、売って差益が出ることは難しいとしても、次善の策は売却すればローンが完済できる、売っても残債が残るような事態にならない物件を買うことである。そのためには購入前に購入を予定するエリアで、類似した分譲物件の中古価格を調べてみること。築5年、築10年時などにおおよそいくらで売れるかが分かれば、その時点で売却した際に残債がどの程度出るかが分かるからである。
中古価格を調べるためには実際に市場に出ている中古物件の価格をチェックするのが一般的だが、最近では「HOME'S プライスマップ」、「HOW MA」など売却した場合の参考価格、相場などを地図上に例示してくれるサービスも登場しており、一般の人でも探しやすくなっている。後者の「HOW MA」は一戸建ての相場も表示してくれる。
ちなみに一戸建ての場合、値上がりはほとんど期待できない。新築時には[土地代+建物代]を払って購入するものの、中古になると建物代がかなり大きく減少する。そのため、土地代が建物代以上に値上がりしなければ、新築時並みの価格にはならない。バブル時ならいざ知らず、現状でそこまで土地代が値上がりすることは考えにくい。一戸建てを買いたい人は他のリスク軽減策を考えるべきだろう。
http://www.homes.co.jp/price-map/
■一戸建ての中古価格も簡単査定「HOW MA」
https://www.how-ma.com/
不動産購入リスク軽減策(1)「何を建てるか」
賃貸併用住宅で安定収入
本連載の第2回でお伝えしたように「貸す」ことが、また前ページまでに検証したように現在は「売る」ことが住宅購入後のリスク軽減としてあまり機能しないのだとしたら、他に何か手はないか。考えられることは二つある。
一つは一戸建てにしか使えないが、あらかじめ賃貸併用住宅にしておくという手である。自分が住むだけでなく、他人にも住んでもらい、その賃料収入をローン返済に充てるのである。
実例を見てみよう。渋谷区内で予算6000万円で新築建売一戸建てを買おうとしていたS氏はそこに1000万円を追加、幡ヶ谷駅徒歩10分ほどの旗竿地を購入、全5室の賃貸併用住宅を建てた。借入額は7020万円で、毎月返済額は30万5800円。これに対して家賃収入は36万円で残りは約5万4000円。実際には税金その他もかかってくるので、投資として考えると全く利益が出ていない状態だが、ローン返済をラクにしてくれるという意味では大きく役に立っている。
ただし、当然ながら借りてくれる人がいなければこの手は使えない。そのため、立地、物件にはこだわる必要があり、S氏の物件は立地の良さに加え、建物にもこだわったいわゆるデザイナーズ物件である。評判は上々だそうだ。
また、都心近くで利便性の良い場所に住みたいファミリー向けに賃貸併用住宅を使った投資指南をしている中村友春氏が勧めるのは、目黒区、世田谷区。人気の地域限定で確実に入居者を得ることで、安定した返済をするためである。
普通に一戸建てを建設するより借入額が増えるため、躊躇(ちゅうちょ)する人も多いだろうが、単独あるいは収入合算で年収が1000万円以上あり、頭金として1000万円程度貯蓄がある人なら不可能ではない。後は踏み切れるかどうか、だろう。土地価格、建設費が高騰している現在、この手も絶対とは言えないが、検討の余地はある。詳しいやり方、必要なノウハウなどについては拙著『不動産投資成功しました』(翔泳社刊)にまとめてあるので、ご参照いただければ幸いである。
不動産購入リスク軽減策(2)「どこを貸すか」
民泊、軒先ビジネスなど新サービス続々
もう一つは購入後、我が家を貸すことで収益を生むという手である。例えば、最近話題の「airbnb(エアビーアンドビー)」に代表される民泊。我が家を、空いている一部屋からでも貸すことができ、都心近くであれば1人1泊数千円から1万円程度にはなる。目黒区で友人と2人で3LDKマンションに住むIさんによると、1カ月のうち、2週間程度宿泊者がいれば16万円ほどの家賃は賄え、それ以上利用されれば収益になるとのこと。都心近く、駅近くの物件であれば、借りてもらいやすく、宿泊料金も高く設定できるそうである。
しかも、これまでグレーな存在とされてきた民泊を一定の条件を付しながらも認める条例が2015年10月に大阪府、同12月に大田区で可決されており、豊島区も検討に入るなど容認の動きが広がっている。元々戦略特区内では可とされてきた民泊だが、詳細は条例で定めることとしていたことが、グレーのままになっていた要因のようだ。
先例となる条例が登場したことで、続く自治体が出るはずで、近いうちには首都圏の多くの自治体で可能になるのではなかろうか。また、11月には特区方式とは別に国土交通省と厚生労働省が有識者会議を立ち上げ、全国を対象にしたルールづくりを始めてもいる。
ただし、マンションの場合には資産価値が落ちる、防犯上問題があるなどとして管理規約で民泊を不可としようという動きもあり、条例その他で民泊が可能になったとしても、そこで阻まれる可能性がある。
一戸建ての場合にも大田区では近隣住民への事前の周知が必要としており、いくら我が家とはいえ、好き勝手にやって良いというものではない。自分が住みにくくならないよう、マナーのある貸し方をするべきだろう。
一戸建ての場合には庭や軒先、空いている部屋などを短期貸しするという手もある。そんな場所が貸せるのかと思う人もいるが、これが意外に使われている。人通りがある軒先なら弁当や野菜などの販売に、空いている1室なら教室やセミナーにと活用方法は多岐に渡る。こちらも民泊同様、立地が決め手で、都心に近い、駅に近い、人通りが多いなどといった場所がよく利用されており、中には週日はほぼ利用されているような場所も。
軒先ビジネス、スペースマーケットといった、スペースシェアを促進するサイトを見ると、借りてもらいやすい条件が分かるはずだ。それほど大きな収益は見込めないにしても、こうした工夫でローンを多少でも補えれば、住宅購入後のリスクもさほど大きくならずに済むのではなかろうか。
https://www.airbnb.jp/
■もったいないスペースをシェアする「軒先」
http://www.nokisaki.com/
■ユニークなレンタルスペースを簡単に貸し借り「スペースマーケット」
https://spacemarket.com/
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。2015年11月には『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)が発売されたばかり。