プレゼン終盤、説明を終えたからと気を緩めるべからず。質疑応答で投げられた質問に感謝を示し余裕を持って回答できれば、プレゼンを完璧な余韻とともにしめることができます。元IBMのコンサルタント、清水久三子さんがそのワザを伝受します。
プレゼンテーションの資料やリハーサルをしっかりとやる人でも、意外と準備していないのが質疑応答。質疑応答の時間を想定せずに時間いっぱいに話してしまったり、質問されてもしどろもどろになってしまった経験はありませんか?
質疑応答は、理解を深めるためにプレゼンには必須のものなのです。苦手意識を払拭し、「待ってました!」と質問に華麗に対応していきましょう。
質疑応答は「ツッコミ」ではなく「チャンス」
質疑応答はプレゼンテーションの信頼性を高める絶好の機会ですが、苦手な方が多いのはもちろん、折角上手く引き込めていたのに、言い訳がましい説明をして相手をうんざりさせてしまうなど、マイナスにしてしまう人も多いようです。これは質問を「ツッコミ」や「あら探し」と認識していることが原因です。
聞き手はプレゼンテーションに興味関心があり、理解を深めたいと思って質問するのだと考えましょう。過剰に身構えるのではなく、プレゼンテーションの理解浸透と、総括の機会として効果的に使うと決めて、準備していきます。
(1)質疑応答の時間をとる
例えば、持ち時間が1時間であれば、10分間、少なくとも5分間は質疑応答の時間にします。
(2)想定問答集を作る
相手が抱きそうな疑問を徹底的に洗い出して、その回答を考えておきます。備えあれば憂いなしです。
質問を仕分ける -確認、検証、反論-
とはいえ、とっさに言われると何を聞かれているのか理解しにくいのも事実です。質問されたら3つのタイプに仕分けてください。
(1)確認の質問:本質的なメッセージの意味や意義を聞き手が確認したい
(2)検証の質問:確からしさや真偽、具体性、詳細などを検証したい
(3)反論の質問:一見質問に見せかけて、実は内容に対して異議を唱えたい
次ページで3タイプの例を、具体的に紹介しましょう。
(1)「確認の質問」と回答例
「XXXという理解でよいですか?」、「XXXになるという意味ですか?」。このようなキーワードが出てきた時は、メッセージを確認する質問です。回答の仕方としては、まずはYes/Noを明確に答えてください。YesかNoかを明言するのは勇気がいりますが、相手は白黒はっきりつけたいので質問しているのです。長々説明が始まると相手はイライラしはじめます。「おっしゃるとおりです。違う点があるとすれば……」、「残念ながら違います。ただしXXXの場合は……」など、まずはYes/Noを明確にしてから補足説明しましょう。
(2)「検証の質問」と回答例
検証の質問の場合には、詳細に対して事細かに答えるだけではなく、原理原則や伝えたい基本的なことに立ち戻って回答をしましょう。「おっしゃっているケースでは○○です。つまり、△△という基本はここでも変わりません」いう具合に「個別ケースへの回答+原理原則」形式で回答しましょう。
また、自分の興味のままに細かいことを質問する人がいますが、他の聞き手が興味がない内容の場合には「その質問には終了後に別途回答させてください」と別の回答時間をとったほうが、質問者も他の聞き手も満足するでしょう。
(3)「反論の質問」と回答例
反論の質問を受けるとつい感情的になってしまったり、固まってしまったり、否定的な言葉で返したくなってしまうこともありますね。しかし、これはむしろ信頼を得るチャンスです。
聞き手が何らかの不安を抱えていると考えて、真意を聞き出すような質問を返しましょう。例えば「もしかして、XXXを心配されていますか?」というふうに相手の立場を思いやった質問をこちらからした上で、「ごもっともです。ただし……」と相手の懸念も当然理解していることを示します。
他の聞き手もこのやりとりを通じて、あなたの度量を推し量っています。ここで固まってしまったり、言い訳めいたことを長々と話さずに、相手への誠意のある対応や余裕が見せられれば、ぐっと株が上がります。
答えられない場合、困った質問はどうするか?
とはいえ、とっさに答えられない質問ももちろんありますね。この場合のさばき方もいくつかのテクニックを知っておけば恐るるに足らずです。
(1)質問の意図を確認しながら回答を考える
質問を再度繰り返したり、別の言い方をして意図を確認し、その間に回答を考えます。「確認させてください」。「質問を整理させてください。今おっしゃったのはXXXということでしょうか? それとも……」と言いながら、回答を考えます。
(2)他の人に振ってみる
(1)をやっても回答が思い浮かばない場合には、他の参加者に「皆さんはどうですか?」などと聞いて反応をみます。また自社や同じチームのメンバーが同席している場合には「○○さん、どうですか?」と振ってみて、上手く答えてくれればよしとし、答えが的はずれだった場合には、それを修正したり補足していきます。
(3)宿題にする
(1)でも(2)でも答えられない場合には、無理やり話しても逆効果ですので、正直に「この質問は宿題とさせてください。○日までに回答いたします」と持ち帰りましょう。その期日より前に回答することで誠意を見せるとよいでしょう。
質疑応答の鉄則:ツカミとオチ 「感謝とまとめ」
さて、質疑応答の鉄則の一つ目のツカミとして、まずは「感謝」で質問をつかんでください。すぐに回答するのではなく「ご質問ありがとうございます」、鋭い質問の場合には狼狽を見せずに、「いい視点のご質問をいただきました」と、感謝で質問を受け止め、相手を上げてください。質問をした方も気分がよくなりますし、余裕のある自分を印象づける効果もあります。「つっこまれた!」と思わずに、理解浸透の機会を与えてくれたことに感謝しましょう。
オチとしては、回答が終わったら、相手が答えに納得しているかどうかを確認しましょう。「納得いただけましたか?」「ご質問の答えになっていますか?」と聞いて確認します。時間内にどうしても納得してもらえなさそうだと判断した場合には終了後に個別に話すと伝えてもよいでしょう。
最後はまとめとして、質問と回答を要約して、伝えたいメッセージの原則に戻ります。
「今のご質問はXXのケースでしたが、基本は○○だとご理解ください」というふうに重要なキーワードやメッセージに立ち戻ってまとめましょう。回答だけで終わるとプレゼンテーションの印象として、メッセージよりも回答のほうが残ってしまいます。流れとしては、「感謝→回答→腹落ち確認→まとめ」という順を意識すると完璧です。
質疑応答を避けたり、過剰反応してしまう方もいますが、ここまでがプレゼンだと「込み」で考えておきましょう。不安であれば、リハーサルの中で質問をしてもらうと、余裕がでてきます。試してみてください。
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。