「資産価値の落ちにくさ」は住宅の購入判断をするための必須条件。人生の転機や住み替えなど、いざという時に売り抜けるには、どんな物件を選んでおけばよいのか。資産価値の下落が少ない物件とは? 資産価値を維持する3つの条件を、実例を交えて紹介します。

1.不動産価値を左右する「立地」

資産価値に直結する何よりも大きな要素、それは「立地」である。不動産も他の商品同様、希少性が価値につながるが、動かせない財産であることから、なおさら希少性がその価値を左右することになる。不動産広告に「二度と得難い立地」という言葉はあっても、「二度と得難い建物、間取り、設備」という言葉がないことからも、不動産の資産価値においては立地の希少性が最優先されることが分かる。では希少性を優位にする要素とはなんだろう。4つの要素をみてみよう。

1.交通の利便性

都心に立地すればベストだが、それ以外の場所なら都心、ターミナル駅へのアクセスの良さが「交通の利便性」のポイントになる。もちろん、近ければ近いほど良く、さらに複数路線が利用できる、急行、快速が利用できるなどの場合にはさらにポイントは高くなる。

駅からの距離も大事で、資産価値を考えるのであれば徒歩10分以内は必須。できればより近いほうが良い。たとえば2015年11月現在、築30年ながら専有面積110.86平方メートルの2LDKが2億5000万円で売り出されている「広尾ガーデンヒルズ」は東京メトロ日比谷線広尾駅から徒歩4分。近隣で同じくらいの広さの中古物件を探すと駅から徒歩9分、築6年で2億円を切る例などがあり、駅近の優位性がよく分かる。

また、都心でもブランド力のある立地はさらに価値が落ちにくい。たとえば、東京都内の城南五山といわれる御殿山、島津山、池田山などのエリアにある物件は、建物自体が直床、直天井の安普請でも、同じ会社が分譲した他の地域の物件に比べ、明らかに価値が下落していない。誤解を恐れずに言えば、立地さえ良ければ建物が二流、三流でも価値は落ちにくいのである。

2. 生活の利便性

交通の利便性が良い場所であれば、「生活の利便性」も高いことが多い。商店街やスーパーなどの商業施設、金融機関や病院、学校などが揃っていればいるほど価値は落ちにくい。

3. 居住の快適性

最近は「居住の快適性」もポイントである。これは利便性に似ているが、要求されるものはもう少し高度。たとえば、単に店がある場合は利便性が高いとは評価されるが、居住の快適性といった場合にはそれがファーストフード、ファミリーレストランではダメ。評価の高い、おいしいレストランである必要があるといった具合である。また、街並みの美しさや文化的な生活が楽しめるような施設の有無なども大事な観点だ。

この点に関しては人によって評価が異なるが、一般論として言うと歴史のある街のほうが評価は高くなりやすい。郊外の元々は何もなかった場所に再開発で生まれた街はいくら利便性が高くても、歴史がない分、老舗の味や街の風情などといった快適性に欠けるからである。

4. 安全性

自然災害に強いこと、犯罪が少ないことが「安全性」の高さのポイントに挙げられるが、犯罪については残念ながら、絶対に安全という場所はない。静かな住宅街で突然犯罪が発生することもあるからだ。だが、前者の自然災害については各種防災関連情報が広く公表されるようになってもおり、その気になれば素人でもかなりの調査ができるので、資産価値を気にするなら、まず、調べてみることだ。

一般的には低地よりも高台が安全だが、高台でも斜面を削って造成した場所には危険もある。造成方法次第では弱くなるためだ。逆に安全度が高いのは戦前に開発された分譲地。都内の桜新町、田園調布、洗足や成城学園などを見れば分かるが、この時代の分譲地は高台の、ほとんど造成を要さない土地を選んで開発されている。この観点からも歴史のある街のほうがお薦めである。

2.見逃せない「物件の先進性」

立地以外で資産価値に大きく影響するのは物件の先進性」である。都内の物件を例に、その2つの要素を紹介しよう。

1.広さ

分かりやすいのは専有面積の「広さ」だろう。たとえば、築32年ながら分譲時とほぼ同額で取引されている神奈川県の「パークシティ溝の口」の住戸は2LDKから4LDKまでで、中心となっているのは70平方メートル大の3LDKである。築30年前後のマンションは3LDK、3DKでも専有面積が60平方メートルなどとコンパクトなものが多いのが一般的だが、ここはそれよりも広く、現在の新築物件と比べても遜色がない。

前述した「広尾ガーデンヒルズ」も100平方メートル超えが豊富にあるなど、当時のスタンダードよりはるかに広い。東京・板橋区にある緑と管理の良さで定評のある「サンシティ」も、築37年で専有面積は70平方メートル台中心である。

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三井住友トラスト不動産「不動産マーケット情報」より データ提供:東京カンテイ

ちなみにマンションの専有面積は時々の経済状況に応じて広くなったり、狭くなったりしている。2015年1月時点の不動産専門の情報サービス会社・東京カンテイの調査では、現在の新築マンションの平均専有面積は63.01平方メートル。だが、供給の中心となる3LDKでこの広さの場合、4畳大、5畳大で収納の少ない部屋ができるなどやや使いにくい。資産価値を考えても、目の前の使い勝手という面からも、予算が許すなら70平方メートル以上の部屋を選びたいところだ。

2.設備

「パークシティ溝の口」の外観。敷地内のスーパーは生活動線の強い味方だ。

「パークシティ溝の口」では両面にバルコニーを配した住戸や住戸の真ん中に玄関を配するセンターインなど、各住戸の間取りにも工夫があり「設備」として優れている。また、当時としては珍しく、敷地内にはスーパーを入れた複合開発もある。

歩車分離を取り入れた集中立体駐車場も日本初と言われるなど、当時の平均よりもはるかに進んでいた。そのあたりの工夫が、古くなっても今のニーズに対応できるとして評価され、資産価値維持につながっているのだ。

これらのことから、広さもさることながら、希少性のある良い間取りが用意された、先進性のある物件を選びたいところである。

3.資産価値維持の決め手「管理」のあり方

もう一つ、資産価値維持に強く関係するのは管理である。これは古くなればなるほど重要になるが、残念なことに新築時にはどうなるかが分かりにくい。ご存じのように管理は分譲後、住民が管理組合をつくってコントロールしていくことになる。

管理組合がきちんと機能していれば日常の清掃から大規模修繕にまで目が行き届き、物件の価値は維持されるが、誰もが無関心で、いやいや関与しているような状態では、価値の維持は見込めない。だが、残念ながら後者が多いのが現状。自分の購入した物件の価値を維持したいのであれば、資産管理団体である管理組合には積極的に関わるべきなのである。

(写真上)「パークシティ溝の口」敷地内に設けられた植栽スペース。季節の花々が植えられ生活に彩りを添える。(写真下)同、経年で樹木が大きく育った緑道の様子。

ちなみに管理状況が如実に分かるのは植栽。資産価値が維持されている物件は植栽が見事なのである。ここまででご紹介した「広尾ガーデンヒルズ」「パークシティ溝の口」「サンシティ」はいずれも大規模なマンションで、分譲時に植えられた木々は森のように成長しており、地域でもひときわ目立つ存在。建物は手入れをしても少しずつ劣化するものだが、植栽は経年で良くなる。その意味では植栽は経年変化をカバーする強力なアイテムと言えるだろう。

では、最後にこうしたマンションを見抜くポイントだが、新築時には立地、建物や敷地のプランニングから判断することになる。中古の場合には物件の価格推移を見れば分かるはずだ。今回実名を挙げた以外にも、地域でナンバーワンと目され、価値を維持している物件は意外にあるので、地元の不動産会社に聞いてみると、この街で買うならコレという物件が分かる。

管理に関しては植栽を見るだけでなく、管理組合の役員の任期、活動の状況を確認、継続性を持って熱心に管理に取り組んでいるかどうかを聞いてみるのも手。一般には管理組合の役員は1年交替になっていることが多いが、修繕や建物メンテナンスにまじめに取り組もうとすると、1年は短期すぎる。そのため、意識の高い組合では任期を長くする、修繕に関する委員会を作るなどして対応していることがある。確認してみよう。

中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。11月5日に新刊『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)が発売されたばかりだ。