12月間近のランチタイム。同期の仲良し3人がおしゃべりしています。

A子さん「今度の週末、優待セールに行かない? 招待状もらったんだ」
B美さん「いいわね! 私、ボーナスでコートを買いたいの」
C絵さん「夏の旅行でお金使っちゃったけど……でも、やっぱり行こうかな」

ボーナスの時期が近づくと、なんだか心が弾みますね。そんなうれしいシーズンを前に、ちょっと厳しい数字が発表されたのでお知らせします。

「日本人の3人に1人は貯金ゼロ」

おしゃべりしている3人のうち誰かは貯金ゼロ!? 比率でいえばそうなりますが、普通に貯金している人からみれば、ちょっと驚いてしまいませんか?

「綱渡り状態」の家庭が3割以上

貯蓄広報中央委員会は2015年夏に行ったアンケート調査「家計の金融行動に関する世論調査」(2人以上世帯)の結果を11月5日に発表。その中で、「金融資産を持っていない」と答えた世帯は全体の30.9%(前回30.4%)だったということです。つまり、ほぼ3人に1人の割合です。

ここでいう「金融資産」とは、運用のためや将来に備えるために蓄えているお金のことで、預貯金、生命保険、個人年金、株式、投資信託などの商品が含まれます。ただし、日常的な出し入れなどに使うお金は含みません。となると、「金融資産を持っていない」世帯は、お金にまったく余裕がなく、日々のお金を回しているだけの「綱渡り状態」ということになります。

こうした「綱渡り家庭」は、10年前には全体の2割程度でした。それがどんどん増えて、2013年から3割を超えるようになりました。

年齢に関係なく3割は貯金ゼロ

「でも、若い人には貯金がなくても、年齢が高い人は貯めてるんじゃないの」

そう思いますよね。ところが、貯金のあるなしは、年齢にはあまり関係がないようなのです。年代別に見てみましょう。

<年代別・金融資産を持っていない人の割合>
●20代……36.4%●30代……27.8%●40代……35.7%
●50代……29.1%●60代……30.1%●70代以上……28.6%

お金に余裕がありそうな50代以上でも、約3割は貯金ゼロ。老後生活がどうなるのか、心配になってしまいます。

年収1000万円以上でも1割は貯蓄ゼロ

「でも、収入が少なければ貯金がなくても仕方がないよね」

それはその通りですが、収入が多ければ貯金があるとも限らないようです。

<年収別・金融資産を持っていない人の割合>
●収入なし……47.4%
●300万円未満……42.0%
●300万~500万円未満……31.6%
●500万~750万円未満……20.0%
●750万~1000万円未満……11.2%
●1000万~1200万円未満……13.5%
●1200万円以上……11.8%

年収が1000万円以上ある人でも、1割以上の人が貯金ゼロ。これはもう「貯金をする習慣がない」ということかもしれません。日本人は貯金好きだったはずなのに、いったいどうしちゃったんでしょうか?

貯蓄のない世帯がどんどん増えている

貯蓄広報中央委員会は、政府や日銀、都道府県、民間団体などが協力して、金融に関する広報活動を行う機関で、1952年に活動をスタートしました。この調査はすでに60年以上も行われていて、長期の傾向を見るにはうってつけ。そこで、今回は1963年から約50年間のデータをグラフにしてみました。

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金融資産ゼロ家庭の割合の変化

グラフのように、前回の東京オリンピックの前年にあたる1963年、貯金のない世帯は22%でした。高度経済成長時代にその比率はどんどん下がり、バブル景気のさなかの1987年には、貯金のない世帯は3%ほどしかありません。この時代、確かに「日本人は貯金好き」だったのです。

ところが、バブルが弾けた1990年代ごろから、貯金のない世帯がどんどん増え始めました。1993年には1割を超え、2003年には2割を突破。そして、2013年には3割を超えて、今に至ります。

振り返れば、バブルが弾けた90年代には、企業倒産やリストラが街にあふれました。生活が厳しくなって貯金を取り崩す人も増えたはずです。また、収入が下がってもバブル時代の生活を変えられず、お金を使いすぎてしまう人もたくさんいました。今、50歳代のいわゆる“バブル世代”には、いまだにそんな傾向があるようですね。

さらに、90年代には就職氷河期が到来。この時期に正社員になれず、ずっと非正規雇用で働く人も少なくありません。この世代も今ではすでに40代になっています。

さて、そんな90年代から、急速に勢力を伸ばしたのが消費者金融です。街には消費者金融の看板があふれ、無人貸付機があちこちに設置されました。クレジットカードのキャッシングが普及したのもこの頃からです。簡単にお金を借りられるしくみが広がって、「貯金なんかなくてもなんとかなる」「お金が足りなくなったら借りればいい」――そんな感覚が世の中にできてきたように思います。

貯金する習慣を子ども世代に伝えたい

データに戻ると、貯金ゼロの世帯はどの世代でも約3割に達しています。心配なのは、「貯蓄しない習慣」が、子どもの世代に広がっていかないか、ということ。「貯金なんてしなくていい」という生活を子どもたちが当たり前と思って育てば、貯金ゼロ家庭はこれからもどんどん増えていってしまいそうです。

とはいえ、最近の若い世代は堅実と言われています。データを見ても、30代の貯金ゼロ家庭は約28%で、40代の約36%よりかなり低くなっています。これはちょっと安心材料。それに、年収が300万円以下でも、半数以上の人はちゃんと貯金を持っています。年収300万~500万円になれば、貯金を持っている人が約7割。収入が多くなくても、その気になれば、貯金は必ずできるはずです。

さて、今度のボーナス。買い物や旅行を楽しむのはもちろんOK。でも、もし貯金がゼロなら、この冬はちょっと我慢して、貯金を始めてはどうでしょう。これをきっかけに、来年から少しずつでも貯金を増やせればいいですね。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。