ハロウィンとクリスマスとの間にやってくるものといえば「年末調整」です。会社からそのための書類を提出するように、連絡を受けている人も多いのではありませんか。年末調整はなぜ必要なのでしょうか。社会保険労務士やCFPの資格を持つ経済エッセイストの井戸美枝さんに、基本の「き」から教わります。

年末調整は所得税に関する手続きのひとつ

忘れたころにやってくる「年末調整」に関する書類。人によっては添付しなければならない証明書などもあります。「年末調整」の意味を理解して、期日までに完璧な書類の提出を目指しましょう。

そもそも年末調整とは何のために行うのでしょうか。

個人の所得にかかる税金には、「所得税」と「住民税」の2種類があります。所得税は国へ、住民税は地方へ納める税金です。所得税は、その年の1月1日から12月31日までの1年間の所得が課税の対象です。それに対して、住民税は前年の所得が対象となります。この所得税の納付に関する手続きのひとつに「年末調整」があります。

所得税は、毎月支払われる給料や賞与からあらかじめ天引きされ徴収されています。これを「源泉徴収」といいます。簡単に言うと、所得税を前払いしているようなものです。では、なぜ年末に所得税の調整をする必要があるのでしょうか?

年末調整が必要な4つの理由

なぜ年末に所得を調整する必要があるのか、主なポイントを4つにまとめました。

(1)源泉徴収税額表ではボーナスを5カ月分として計算している

源泉徴収が行われる際に使用されている「源泉徴収税額表」では、賞与が年間5カ月分であるとして計算されています。実際に支給された賞与が年間で5カ月分ぴったりでなければ、調整が必要となります。

(2)月々の給与額は変わらないものとして計算されている

「源泉徴収税額表」は、1年間を通して、給料の額に変動がないものとして計算されています。しかし、実際には残業や休日出勤で時間外手当が発生するなど、月によって変動している場合がほとんどです。

(3)年の途中で家族の構成が変わると……?

控除対象となる配偶者や扶養家族が増えた場合は、「扶養控除等(異動)申告書」に記して会社に提出を。

家族の構成によって、所得税額は変わります。1年の途中で、結婚、家族が死亡するなどの理由により、後述する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」において配偶者の有無や扶養親族の構成が変わった場合、新たな所得税額が適用されます。

例えば、結婚した相手が控除対象配偶者に該当すれば、所得控除が受けられます。逆に、扶養に入れていた親族が、年末になりその対象外と分かるようなケースでは、仮の源泉所得税額より本来納めるべき所得税の方が高く、その差額を年末調整の不足額として払わなければいけない場合があります。

また年の途中で、控除対象となる配偶者や扶養家族が増えた場合、月単位ではなく年単位での控除が受けられます。変動があった場合は、「扶養控除等(異動)申告書」に記して勤務先に提出しましょう。

(4)年末調整でしか受けられない所得控除がある

所得から控除できる項目には、毎月の源泉徴収段階では控除されないものがあります。例えば、配偶者特別控除や生命保険料控除、地震保険料控除のような所得控除、住宅ローン控除などです。給与から天引きによって源泉徴収されている所得税額には、上記のような控除などが反映されていません。年末に会社にこれらの書類を提出し、控除を受けます。

年末調整の対象となる人は?

12月末まで会社に在籍している方が対象となります。中途入社など、入社してからまだ1年を経過していないという人も、12月の年末調整の対象です。ただし、「年間の給与総額が2000万円を超える場合」「災害減免法により源泉徴収の猶予を受けた場合」は対象外となり、別途確定申告を行う必要があります。

会社に提出する書類は?

会社から渡される書類は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と「保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」の2種類です。

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【上】平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、【下】平成27年分 給与所得者の保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書。「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の氏名欄の下には、マイナンバーを記入する「あなたの個人番号」という欄がある。

●給与所得者の扶養控除等(異動)申告書:
配偶者控除、扶養控除などを申告するための書類です。

●保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書:
生命保険料控除や地震保険料控除、社会保険料控除、配偶者特別控除などを申告するための書類です。

これらの申告書に記入し、必要に応じて各種控除証明書の書類を添付し、勤務先に提出します。

(例)
●生命保険や地震保険に加入している人→「保険料控除証明書」
●国民年金に加入している人→「国民年金保険料控除証明書」
●国民年金基金に加入している人→「国民年金基金支払証明書」
●小規模企業共済に加入している人→「小規模企業共済掛金証明書」
●個人型確定拠出年金に加入している人→「掛金納付の証明書」
●住宅ローンがある人→「給与所得者の住宅取得等特別控除申告書」「住宅取得資金に係る借入金の年末調整残高証明書」
●途中入社で前職のある人→前職分の「源泉徴収票」

分からないことがあれば、会社の経理担当者に相談しましょう。

マイナンバーとの関係は?

ところで、2015年末に提出する最新版の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」には「あなたの個人番号」を書く欄があります。個人番号とは、現在通知が行われているマイナンバーのこと。マイナンバー制度の運用開始は2016年からですが、なぜ2015年に提出する書類に個人番号を書く欄があるのでしょうか?

それは2015年末に提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は「平成28年(2016年)分」であるからです。そのため個人番号を書く欄がありますが、2015年の年末調整では記入する必要はありません。ただし、会社の判断により記入させることもできます(国税庁webサイト、「国税分野におけるFAQ」Q2‐11より。https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/FAQ/04kokuzeikankei.htm)。実際の運用としては、2015年の年末調整については、「マイナンバーの記入は不要」と社員に伝えている企業も見られます。

では、なぜ2015年に「平成28年(2016年)分」の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなければならないのでしょうか? それは「平成28年(2016年)の最初の給与の支払いを受ける前日までに、給与の支払者に提出する」という決まりがあるからです。どういうことかと言うと、会社は毎月、給与を支払うときに所得税を源泉徴収しますが、その計算時に扶養控除の有無や金額を知る必要があるのです。そのため例えば、毎月25日が給料日の人は、1月24日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しなければならないのです。

ちなみに、一方の「保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」は、今年1年間の保険料などの控除を申請するものなので、今年提出するものは「平成27年(2015年)分」です。2枚同時に提出していますが、実は別の年が書かれているのですね。そのため、こちらにはまだ個人番号を書く欄がないのです。

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「個人番号カード 総合サイト」にある「通知カードの郵便局への差出し状況」のページでは、市区町村ごとの郵便局への通知カード差出し状況が確認できる。

また、マイナンバーがまだ届いていないという方は、まずは「個人番号カード 総合サイト」にある「通知カードの郵便局への差出し状況」のページで、住民票がある市区町村の状況を確認してみることをおすすめします(https://www.kojinbango-card.go.jp/cgi-bin/tsuchicard/jokyo.cgi#pref13)。

年末調整では控除できないものがある

一方、年末調整で処理できない所得控除もあります。「雑損控除」「医療費控除」「寄附金控除」です。こちらの所得控除に該当する人は、別途、確定申告を行う必要があります。

【雑損控除】

雑損控除とは、現金や家・家財といった生活に必要な動産が災害・盗難・横領などで被害に遭ったときに受けられる控除です。

雑損控除では、被害の規模が大きかった場合、翌年に控除を繰り越すことができます。例えば、火事に遭って家が焼失し、その人の1年間の所得金額以上の損失が生じてしまった場合、雑損失の「繰越控除」が可能です。つまり、1年間の所得金額から差し引きできない損失は翌年以降3年間、その損失を持ち越して翌年や翌々年の所得控除として再利用できます。

【医療費控除】

基本的に、治療や診療のための通院や薬の購入であれば、医療費控除の対象になります。同じ通院でも、美容目的や人間ドックを受診するだけの通院では医療費控除の対象になりません。人間ドックを受診し、重大な疾病が発見されて治療した場合は、その人間ドック費用も控除の対象になります。

また医療費は、自分の分だけではなく、家族の分も合算できます。

医療費控除の額は、「支出した医療費の額-保険金等の額-(『課税標準の合計額×5%』、もしくは『10万円』のうち少ない方)」という計算式で求められます。「医療費が10万円を超えないと、控除の対象にならない」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、会社員の場合、年収が311万6000円未満であれば『課税標準の合計額×5%』が適用されるため、医療費が10万円を超えなくても医療費控除を受けられます。

【寄附金控除】

寄附金控除とは、国や地方公共団体など特定の団体に寄附(以下、特定寄附金という)をした場合、所得控除を受けられる仕組みです。近年人気が高まっているふるさと納税も、この寄附金控除に該当します。

話題の「ふるさと納税」は、寄附金控除に当てはまります。

ふるさと納税を「住民税の納付先を自由に選べる」と誤解している人もいるようですが、実はそうではありません。援助したいと思うふるさと、つまりは地方公共団体に寄附することで所得控除が適用され、その年の所得税と翌年の住民税が軽減されるというものです。またふるさと納税の寄付金控除は、2015年4月より寄附先が5カ所までで要件を満たす場合は確定申告が不要になりました。

もしも書類を出すのが遅れたら……?

ここまでお話した通り、源泉徴収は概算による所得税額であるため、年末に正しい所得税額を算出して精算するのが「年末調整」です。控除などを含めた正しい税額よりも先に収めた源泉徴収額が多かった場合は、税金が戻ってきます。逆に源泉徴収額が少なかった場合は、さらに税金を納めることになります。

この年末調整に関する書類を提出するのが遅れてしまった場合は、源泉徴収票が配布される翌年1月末日まで、やり直しができます。ただし、源泉所得税の過不足金の再計算だけではなく、法定調書の合計表や給与支払報告書の作成、報告……といった事務処理もやり直すことになり、経理担当者からは歓迎されないでしょう。

さらに遅れてしまった場合は、自分で確定申告するしかありません。確定申告の期限は3月15日です。面倒に感じられる年末調整も、確定申告をすることと比べれば、はるかに手間がかからないのです。年末に向けて仕事が忙しくなる時期ですが、会社ごとに決められた提出日に遅れないように、年末調整に関する書類を作りましょう。

井戸美枝(いど・みえ)

社会保険労務士、CFP。
神戸生まれ。関西大学社会学部卒業。社会保険労務士、CFP、社会保障審議会企業年金部会委員。経済エッセイストとしても活動。関西と東京に事務所を持ち、年50回以上搭乗するフリークエント・フライヤー。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、ライフプランや資産運用などについて分かりやすくアドバイスしている。