女性エンジニアの採用はここだけだった
石油・天然ガスの探鉱・開発を行うこの会社の中で、私はリザーバーエンジニアという仕事をしてきました。
石油や天然ガスは、地下の岩石と岩石の隙間に存在しています。私たちは井戸を掘ってそれをくみ上げるわけですが、リザーバーとはその「油層」を意味する言葉。地下で流体がどのように動いているか、どのように吸い上げれば効率が良いかなどを、データから解析する技術職です。
私がエンジニア(技術者)として合併前の帝国石油に入社したのは、就職氷河期の真っ只中の1999年でした。大学院で石油工学を専攻し、その知識を活かせる企業を探したわけですが、当時は不景気で採用が少ない上に、数社ある石油開発企業で女性エンジニアの募集があったのが帝国石油だけだったんです。
面接では専門分野に関する質問だけでなく、「結婚したらどうするのか」「出産後も働き続けるのか」といった質問も。そんな時代です。当時、女性の夜勤を可能とする労働基準法の改正直後だったため、女性エンジニアがほとんどいない状況でした。
トイレは共用、更衣室なしの現場
石油・天然ガス開発の業界は昔から異動が付き物。海外での開発となれば、それこそ道路を作ることから始まり、現地に街を築いてしまうようなこともある仕事です。エンジニアもその国や地域に年単位で暮らすことになるので、女性には厳しいというイメージもありました。さらに、私が就職した当時はこの業界を志す女性エンジニアは数えるほどで、実際、研修で国内の掘削現場に行くと、トイレは共用でしたし、女性用更衣室もありませんでした。
それでもこの業界に惹かれたのは、石油開発という地球規模のビジネスのスケールの大きさや、目に見えない地下の世界と格闘する面白さに魅力を感じたからです。
油田は大きいもので数十キロ×厚さ数十メートル、さらには数百メートルという単位のものまであります。でも、地上で得られる情報はとても限られていて、リザーバーエンジニアは、とてつもない費用をかけて得られた限定的なデータを数学的な手法を用いて解析し、地下の地図を作るように油田の全容を明らかにしようとしていきます。まずは井戸を掘り、そこから取り出した水や少量の油などを分析して、広大な地下の世界を解釈していくんですね。
夜勤をさせてもらえない焦り
学生の頃、石油開発企業の先生や実際のエンジニアの人たちから話を聞いていると、一本の井戸を掘ることから始まる石油開発の現場にロマンを感じました。井戸から実際に油が出た瞬間のエピソードなどは、聞きながらとてもわくわくとした気持ちになったものです。
ただ、実際に就職してみると、最初はいろいろと不安になることもありました。
採掘の現場は365日24時間、三交替で動いています。でも、どの現場に行っても女性は私ただ一人。そして現場研修では、「夜勤に大竹さんは入れられない」と言われていました。
実際に現場に出ると、大学院で学べることはこの世界のほんの一部で、やはり現場の経験がなければ使い物にならないことを痛感します。ですから、同期の男性社員が夜勤をしている最中、自分の得られる経験や知識が彼らより少なくなってしまう、と焦ったこともありました。結果的に、上司に懇願して夜勤にも入れることになりましたが、当時は私を受け入れる現場の側にも戸惑いや試行錯誤があったのだと思います。
研修を終えた後は新潟の鉱業所に配属が決まり、油田の管理を主に担当することになりました。どのように生産すればより多くの油が効率的に得られるかを、企画・検討していく仕事です。
油田をくみ上げる生産井は、油を取り続けているとだんだん元気がなくなってくるんです。また、一本一本の井戸には全て癖があって、ガスを入れる深度を最適化したり、ときには穴をあけ直したり。現場でデータ採取に立ち会い、くみ上げた水や油の成分を見ながら、地下がどんな状況になっているのかを把握していきます。体のレントゲンをとって中を見るのと似ています。
そうした鉱業所での仕事環境が一変したのは、結婚して出産した入社3年目のことでした。子供が産まれたことで、これまでのように夜勤での監督や夜通しの仕事に出られなくなり、仕事のやり方を根本的に変える必要が出てきたんです。
1999年(旧)帝国石油入社。国内油ガス田の管理を経験の後、本社技術企画部に異動し、各種シミュレーションスタディを担当。アメリカ・アフリカ事業本部にてプロジェクト管理業務を経験の後、2015年より技術基盤ユニット教育研修グループマネージャー。