「我々の持っている知恵と経験を次世代に還元しよう」――女性活躍推進を後押しせんと日本に集結した各国の女性リーダーたち。彼女たちをメンターに迎え、東京で開催されたメンタリング・プログラム。熱気に満ちたその模様をレポートします。
次世代女性のために道を拓こう
「今こそ、女性にとって動き出せる時が来たのです。リーダーとして動き出せる時。経済活動のパワーとして動き出せる時。日本にとっての歴史的な時なのです」――ヒラリー・クリントンが1997年に設立した女性のための非政府組織「ヴァイタル・ヴォイス・グローバル・パートナーシップ(以下ヴァイタル・ヴォイス)」代表のアリース・ネルソンは、日本の女性たちに強いエールを送った。
これは2015年10月、東京で開催された「グローバル・アンバサダー・プログラム」という世界的なメンタリング・プログラムの最終日に行われた、一般公開フォーラムでのひとコマ。グローバル・アンバサダー・プログラムとは、女性のリーダーシップと経済的エンパワメントの加速を目的に、「ヴァイタル・ヴォイス」と、その想いを共にする「バンクオブアメリカ・メリルリンチ」が協働運営する、各国の女性たちにメンタリングを提供するプログラムだ。
ヴァイタル・ヴォイスは、世界中の卓越した女性たちを見出し、研修やメンタリングを提供することで、彼女たちがリーダーシップを発揮し、地域や社会に変革をもたらすことを目的にグローバルで活動をしている。バンクオブアメリカ・メリルリンチとの協働も回を重ね、これまでにブラジル、カタール、シンガポールなど既に10カ国で実行され、今回開催の日本は11カ国目となる。日本でのプログラムの内容は、さまざまな分野の若手女性リーダーのための講義と、メンター制度を組み合わせたものだ。
キャロライン・ケネディ駐日米国大使はフォーラムの基調講演で、「経済も政治も、女性の力は非常に重要。それなのに、女性がなかなか活躍できないという社会的問題は、アメリカをはじめ世界各国が抱えています。その解決のために、政治や社会の変革が必要で、その実現には女性リーダーの存在は欠かせません。社会的に何かを変えようとする“今”が一番大変な時かもしれません。女性が地位を築いてきた、過去から学ぶことは多くあります。互いに助け合い、次世代の女性のために道を拓いていきましょう」と語り、今こそ日本の女性たちが活躍できる追い風が吹いていると、激励のメッセージを送った。
世界的に活躍する女性リーダーがメンターとして集結
公開フォーラム直前に、1週間にわたって行われた「グローバル・アンバサダー・プログラム」。プログラムのメーンとなるのは、すでにさまざまな業界で実績のあるリーディングウーマンである女性リーダーが “メンター(指導役)”となり、多数の応募から選出された若手の女性社会起業家が “メンティ(学び役)”として1対1でペアを組むメンター制度だ。
アメリカでは既に浸透しているメンター制度だが、日本ではまだ普及していない。メンティの悩みに対して気付きを与え導いていく、そんな心強い存在がメンターだ。前出のアリース・ネルソンは言う。「メンター制度から次世代のリーダーが生まれると言って過言ではありません。このメンタリング・プログラムでは、メンターたちの時間、能力、経験をメンティに共有してもらいます。それによって彼女たちのキャリアパスをサポートしたいのです」
今回メンターとなるは、それぞれの業界を牽引しているトップリーダーの女性11人。第一線で活躍する彼女たちの直接指導が得られるとあって、70を超える応募があったという。講義やプレゼン、課題提出などがすべて英語でこなせること、事業が一定規模にあること、社会的影響力があること、などさまざまな応募条件があったにも関わらず、だ。その中から選び抜かれたのが、今回メンティとなった注目の女性社会起業家11人だ。「マドレボニータ」の吉岡マコ代表、「かものはしプロジェクト」の村田早耶香共同代表、「Waris」の田中美和代表など、その活躍が注目されている人ばかりだ。
これら11組のマッチングされたペアで、経営やブランディングなど多岐に渡る講義や、今後のビジョンなどについての意見交換が行われた。
「大きな事前告知がなかったにも関わらず、たくさんの応募があり、日本の女性たちの湧きあふれるパワーを感じました。女性たちは、リーダーとして活躍していけるだけのパワーを既に溜めていたんだと思います」
と話すのは、前出のアリースと長年運営を共にしてきたバンクオブアメリカのインターナショナルCSR統括のリナ・デ・シストだ。日本で開催した意義は非常に大きかったと感じていると言う。「メンティの皆さんの意欲も非常に高く、互いに高め合っているのを感じました。メンターからも『今回の経験で私の方が学ぶことが多かった』と言う声も聞いています。このプログラムが、今日本で起こっている変化の一部になればといい。メンター制度が今後日本で、さらに浸透していくといいですね」
管理職への挑戦~「自信」をバネにチャンスをつかむ
せっかくキャリアアップのチャンスがあっても、しり込みをしてしまう女性は多い。公開フォーラムの中では、女性管理職が少ない頃からマネジメントの立場にあった女性たちによるパネルディスカッションもあった。
「女性が管理職になりたくないと思うのは、日頃から見聞きしている管理職のイメージがよくないのでは」とANAホールディングスの小林いずみ社外取締役(サントリーホールディングス、三井物産の社外取締役も兼任)は話す。「上に立ちたくないという女性が多いのは、これまで苦労話をする管理職が多かったからかもしれません。でも、実際にその立場になるととても楽しい! マネジメントがいかにいい仕事かもっとみんな話すべきですよ」
そして、女性自身ももっと自信を持ってキャリアアップに臨むべきだと伊藤忠商事の茅野みつる執行役員はこうアドバイスする。「女性自身が自分の力を信じ切っていないこともあります。自分を客観的に見ることが大事ですね」
日米両方の状況を知る、在日米国商工会議所のジェイ・ポナゼッキ会頭は、「日本の女性は上に上がる準備ができています。失敗してもがっかりせず、その都度仮説を立ててトライしてみてください。自分に制約をつくらず、挑戦し続けることが大事なのです。もっともっと面白い仕事をして、日本を変えていってください」とメッセージを伝えた。
リーダーとなる女性たちをもっと増やし、社会を変えていこう。そんな力みなぎる公開フォーラムだった。
では実際、狭き門を突破して「グローバル・アンバサダー・プログラム」を受講したメンティ達は、どんなことを学んだのだろうか。次週から2回に分けてお届けする。