通勤ラッシュとは無縁。地方で働くという選択肢

2015年11月4日に厚生労働省が発表したデータによると、非正規労働者の割合が4割まで増えたということ。非正規労働者に含まれるのは、パート、契約社員、派遣社員など。正社員に比べて賃金が低いことと、雇用が不安定なことが問題です。社会に出る際に正社員になれず、非正規労働者として就職すると、その後はなかなか正社員になりにくいという実態もあるようです。

先日、20~30代の若い世代の経営者が立ち上げたプロデュース会社のイベントに参加しました。その際に、「東京の朝の通勤電車は異常。いちばんエネルギッシュであるはずの時間にみんなイライラしていて不機嫌だ。朝の通勤電車を明るく元気にしたい」という話を聞きました。その通り。都市部の満員電車に乗るサラリーマンは、毎朝、苦行に耐える僧侶のよう。しかし、実際に通勤している人にとっては、それがあたりまえの日常です。

もし、都市部の労働事情に閉塞感を感じている人がいれば、「地方への移住・転職という選択肢もある」ということを提案します。実はこれ、「地方創生」を掲げている国も提案・支援している就労スタイルなのです。

「少しのんびり働きたい」「人の役に立ちたい」「自然のなかで暮らしたい」「子どもをのびのび育てたい」……。そんな思いを抱いている人は、地方へ目を向けてみてはどうでしょうか。環境を変えれば、現在の閉塞感への打開策が見えてくるかもしれません。

国も地方への移住・転職を進めていて、助成金が出る場合も

内閣府が中心となって進めている「地方創生」事業。東京一極集中を是正し、人口減少に歯止めをかけるため、2015~2019年度の5カ年で、総合戦略を行う計画です。計画の内容は、地方における安定した雇用の創出と地方への新しいひとの流れをつくること、若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶えること、となっています。

内閣府の「まち・ひと・しごと創生本部」のホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/)からは、いろいろなリンク先に飛ぶことができます。

一般社団法人 移住・交流推進機構が運営する「ニッポン移住・交流ナビ」では、「知らないと損する全国自治体支援制度 5910」を掲載(https://www.iju-join.jp/feature/file/019/)。

40歳未満で中学生以下の子どもがいる世帯が20年間住んだら、土地・住宅を無償で譲渡してもらえる宮城県七ヶ宿町、保育所から中学生までの子どもの給食費が無料の和歌山県高野町、一定の要件を満たす新規就農者に研修費として最大月額15万円を1~2年以内の期間支給する高知県高知市など、さまざまな情報が紹介されています。

認定NPO法人 ふるさと回帰支援センターのホームページ(http://www.furusatokaiki.net/)も、移住・転職情報が満載。各地の自治体が実施する移住セミナー、体験ツアー、ちょい住み体験なども随時アップされています。

「地域おこし協力隊」で6割の隊員が定住

そして、総務省が取り組んでいるのが、「地域おこし協力隊」という制度です(http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/)。隊員は、都市地域から過疎地域等に生活の拠点を移し、一定期間、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PRなどの地域おこしの支援や、農林水産業への従事を行いながら、その地域への定住・定着を図るという取り組みです。1~3年の活動期間中は、活動の報酬と経費の合計で、隊員1人あたり400万円を上限とした財政支援があります。

平成26年度の隊員数は1511名、実施自治体数は444団体と、実績は年々増えていっています。隊員の約8割が20代、30代で、任期終了後、約6割が同じ地域に定住するという成果を生んでいます。

40歳以上の地方転職者に最大200万円の支援金も

さらに、中小企業庁では、40代以上を対象としたシニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業の一環として、「移住に伴う支援金」を実施。

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中小企業庁が実施するシニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業「移住に伴う支援金等」の内容

おおむね40歳代以上の都市部に居住または勤務している人で、1つの専門分野でおおむね10年以上の職歴を持つ方または大手企業のOBが、都市部以外の地域の中小企業に就職し、移住した場合に以下の支援金が受けられます。お試し期間支援金最大5万円、住居費最大60万円、転居費最大20万円、研修受講費最大15万円、生活支援費用最大100万円。今年度分の書類締め切りは、平成28年2月15日となっています(図表参照)。「シニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業」のホームページは、(http://www.iju-senior.com/index.html)。

地方に移住すると、収入は減るが、住居費は確実に安くなる

地方に移住・転職する場合のメリット、デメリットを考えてみましょう。仕事に関しては、都市部より収入は減りますが、勤務時間は短くなる傾向ですし、通勤時間も短くなり、自分の時間が増えるはず。農林水産業などを希望する方は、地域性をよく見て、自分が携わりたい一次産業がある場所を選択しましょう。看護師、保育士、介護関係の資格を持っている人などは、どこに移住しても一定のニーズがある仕事です。

住まいに関しては、都市部よりかなり安い家賃で広いスペースに住むことができます。移住の場合は、住居費に補助金がでる自治体も多いので、調べてみましょう。地方では車での移動が基本になりますが、駐車場代もあまりかかりません。

農作物や海産物の生産地が近い分、食費は若干低くなりますが、衣類や日用品費は都市部とあまり変わりません。近所の人から野菜などのおすそ分けをもらったり、自分で家庭菜園を始めれば、食費も節約できます。

子どもがいる場合に大きく変わるのは、教育費。小学生のうちから塾へ通わせたり、私立中学受験をすることは少ないので、その分を大学進学費用に回しましょう。

定年後の移住なら、会社にしばられずに考えられる

最初から移住してしまうと、予想外の事態に対処できないので、まずは、体験ツアーやちょい住み体験で、お試ししてみましょう。地域性がわかってから移住・転職したほうがうまくいきます。

退職後に移住を考えている場合も、今のうちから体験ツアーなどに行って現地の人と交流を始めておくと、スムーズに移住できるかもしれません。定年後の移住なら、あまり仕事にとらわれずに場所が選べます。

都市部にマイホームがある人は、それを貸して賃料収入を得ながら地方に住むと、その差額分収入アップになります。老後に年金収入で暮らしていくことを考えると、やはり生活コストが安くなる地方は魅力です。

20~30代も、退職後の世代も、何が何でも都市部に住むという志向を辞めて、もっと柔軟な発想で地方への転職・移住の可能性を考えてみましょう。新たな働き方に出会えて、新たな人生が始まるかもしれません。

フリーライター 生島典子(いくしま・のりこ)
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり。