雑誌『VOGUE』の表紙やさまざまなハリウッド女優、さらにはあのヒラリー・クリントン氏のメイクも手がける吉川康雄さんは、素顔を生かし、「生まれつき美人」に見せるメイク術が持ち味。きれいになりたい人、エイジングが気になる大人の女性を想定して、メイクのポイントを教わった。

2016年のアメリカ大統領選挙が近づいている。立候補者の中で、日本で最も有名なのはヒラリー・クリントン氏だが、そのヒラリー氏の選挙ポスターに使われている写真で、メイクアップを担当しているのが日本人男性だということをご存じだろうか。

ヒラリー氏のメイクを担当している日本人男性、それが吉川康雄さんだ。1959年生まれ、56歳。1995年に渡米し、雑誌『VOGUE』の撮影に急遽代役として呼ばれたのをきっかけにチャンスをつかんだ。その後も『VOGUE』など雑誌のカバー撮影だけでなく、ファッション、広告、コレクション、セレブリティのポートレイトなど、さまざまなジャンルで幅広く活躍。ファッション写真の大家であるリチャード・アヴェドンとの仕事も経験したというメイクアップアーティストだ。

メイクアップアーティストの吉川康雄さん

現在日本と米国を行き来しながら活動している吉川さんだが、日本に帰ってくるたびに、街で見かける日本人女性のメイクが気になるのだという。「もっと魅力的になれるのに、もったいない」と。

吉川さんの薦めるメイクとは? きれいになりたい人、時間がない人、エイジングが気になる大人の女性を想定して、メイクのポイントを教わった。

カチッとしたスーツには、柔らかい女性らしいメイクを合わせよう

これまでに何度もヒラリー氏のメイクをしている吉川さん。初めて彼女に会ったときのことをこう話す。「すごくナチュラルな人で、細かい注文をすることもなく、言われたのは一言『私のこときれいにしてね』とだけ。満足してくれたのでしょう、その後も声がかかるようになりました。2回目に会ったときも『今日はスキンケアからやってね』と言われただけで、全て任せてくれました。それ以降も、毎回そんな感じです」

取材中、吉川さんがメイクを手がけ、ヒラリー氏自身も気に入っているという写真を見せてもらったところ、それは普段着姿の彼女が椅子に座り、優しくほほえんでいるカットだった。政治家というより普通の女性の笑顔で、女らしさや母性を感じる写真だ。「ヒラリー・クリントンがものすごく仕事がデキる女性だなんていうことは、世界中誰もが知っているわけです。そんな彼女の、優しさとか柔らかい美しさが出ていたから気に入ってくれたんじゃないかな」

プレジデントウーマンオンラインの読者の中心である働く女性向けに、スーツに似合うメイクについてたずねてみた。吉川さんの答えは「カチッとしたスーツでも、柔らかくて女性らしいメイクがいいよ。自分に似合う、自分の素材を生かしたメイクをするべき」。

自分の顔をよく見て、素材を知ることが「きれい」への近道

どうやってメイクをしたらきれいになれますか? という問いに、吉川さんはこう答える。「時間があるときに、自分の顔をよく見て、素材を知る。そして自分の素材を否定しないことが大切。持って生まれたものをありがたいと思って楽しまないと。きれいになりたいなら、まずはポジティブになってください」

とはいえ、肌が黒いとか目が細くて一重だとか、肌のシミが気になるとかほうれい線があるとか、誰でも自分の顔のパーツで気に入らない、あるいはコンプレックスになっている部分があるのではないか。「目が一重か二重とか関係ない。コンプレックスの多くは、その人自身の個性です。肌が黒いのがダメだなんて誰が言いました? 健康的な肌は白くても黒くてもきれいです。大切なのはいきいきとした肌の質感。シミ隠しのために厚塗りするとかはダメ。あと、ほうれい線を隠したいなら、厚塗りよりも“笑顔”が一番効きますよ」

きれいにメイクしたいが、朝はいつも時間がなくて……という人も多いだろう。忙しい人向けのメイクのポイントについても聞いてみた。「毎日洋服は違うのに、同じメイク、同じ顔はもったいない。その日のファッションや気分に合わせてメイクをしてほしい。そして(時間がないなら)、いろいろやらないでメイクのポイントを1つに絞り込む。例えば『今日は赤リップの気分』だったら、赤リップをポイントにするなど」

吉川さんのメイクの極意は「素顔を生かし、コンプレックスも個性に変えて“生まれつき美人”に見せる」こと。もともとの顔のパーツを生かすので、自分に似合うメイクなのはもちろん、きちんとメイクしても素顔っぽさがあり、厚化粧に見えづらいのが特徴だ。

自分に似合うメイクとは? 雑誌のメイク特集などにはよく、まるで別人になるような“作りこむ”タイプのメイク方法が出てくるが、吉川さん流のメイクはこれとは真逆だ。いかに自分が生まれ持った魅力を引き出すか、「生まれつき美人」に見せるかがポイントである。以下、具体的なメイクテクニックについて聞いていこう。

目指すべきは「艶(つや)肌」

吉川さんのメイクで最も特徴的なのが「肌」の作り方だ。重視しているのはずばり、艶(ツヤ)。ツヤがある肌は美しい、天性のツヤ肌を目指すべき、と説く。

「今でこそ雑誌でも『ツヤ肌の作り方』という解説を載せるようになったけど、以前はツヤのある肌が良いという概念はなかったんですよ。『テカリ』と言って悪者扱いでした。2008年くらいだったかな、当時はマット肌の全盛期。日本に帰ってきたとき、街の女性たちが変に白くて厚化粧感がある、疲れた顔をしているのを見て『これは良くない!』と思ったんです」

とはいえ、昔から「色の白いは七難隠す」というではないか。筆者などもやはり、できることなら肌は色白に仕上げたいと思ってしまう。なぜ白く塗ってはダメなんですか? と聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。

「男性と女性と一緒に写真を撮ったとき、特にフラッシュをたくと顕著なんだけど、男性は普通に見たままに写っているのに、女性だけ妙に白く、厚化粧っぽく写ることがあるでしょう? あれはパウダーファンデーションで顔だけ白く粉っぽく仕上げちゃうから、厚化粧感が出るんです」

では、厚化粧感のないツヤ肌にするためにはどうしたらいいのか。まず、ファンデーション選びについて。「ファンデーションはオイルベースが絶対にお薦めです。僕はオイルにファンデーションを混ぜて、自作のオイルベースファンデーションを作り、使っていました」

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ファンデーションを選ぶとき、首の色に合わせて色を決めるのが大きなポイント。普段使っているファンデーションより少し暗めの色になるかもしれないが、確かに自然に見える

とはいえ、普通の人が自分でファンデーションを自作するのは難しすぎる。「水分がゼロでほとんど油分でできている『ソリッドファンデーション』というのがあります。大切なのは、肌表面を油分で覆い、乾燥させないこと。パウダーやリキッドファンデーションの粉の部分は肌の油分を吸い込んで、化粧崩れの原因になる上、肌をパサパサにしてしまいます。しかし本来、肌というのは24時間皮脂を出して肌を潤わせているもの。オイルベースのファンデーションは肌表面を常に『濡れている』状態にできるので、日中も肌への負担や乾燥を防げます」

色選びにも特徴がある。「ファンデーションの色は、デコルテ(首から胸元にかけて)に合わせて選びます。なぜデコルテかというと、人がパッと見て厚化粧だなと思うのは、顔とデコルテの色がそろっていないときだからです。デコルテに比べて顔がやけに白かったり黒かったりすると、厚化粧に見えます」

チークは色がにじみ出るようにつける

チークの付け方も大切だという。「目指すのは内側からにじみ出てきたような色。全力でチークをつけるのではなく、じんわりと浮いて出ているように、5分の2しかつかないような発色を心がけます。チークの質感はファンデーションと合わせて、ツヤ肌にはツヤ感のあるチークをのせてください」

アイホールのシャドウも同じく“5分の2発色”で。くっきりした色ではなく、ほんのり薄めに重ねるのが吉川流。目のきわに入れるアイシャドウは、アイホールの色とつながる色にすると優しい雰囲気に。アイシャドウを付けるときは、チップではなくブラシがおすすめだそう。

くちびるは“濡れている”感を

「くちびるにはいつもツヤがあるべき」と吉川さん。「まずリップクリームやバームでくちびるをつやつやにしておくこと。その上から口紅を塗ります。口紅もやっぱり“5分の2発色”。普通の口紅の5分の2くらいの薄い色を重ねて直塗りすればどんな色でも似合うはず。いきなり塗ると口紅が濃く付きすぎるので、くちびるにポンポンとのせるように塗ると、薄く色づきます。ビギナーにおすすめなのは、赤みのあるベージュです」

吉川さんのテクニックを自分で実践できる「CHICCA」

吉川さんは「CHICCA(キッカ)」という化粧品ブランドをプロデュースしている。CHICCAは2008年スタート、吉川さんのメイク術を素人でも実現できるような製品ラインナップが特徴だ。

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吉川さんがプロデュースする化粧品ブランドが、カネボウの「CHICCA(キッカ)」。写真は銀座三越地下一階の店舗

最も特徴的なのはやはり、ツヤ肌を実現できるファンデーション2種(ソリッド/パウダー)。それぞれのファンデーションに合わせたチークも揃えている。アイメイク、口紅やグロスはほんのり薄づきで、自然と“5分の2発色”が実現できるのがポイントとなっている。

『褒められて嬉しくなる キレイの引き出し方』(宝島社)。吉川康雄さんのメイクテクニックがやさしく解説されている。

筆者も実際にCHICCAでメイクをしてみたが、ファンデーション、特にソリッドファンデーションの仕上がりはまさに初体験だった。素肌っぽい自然な仕上がりなのだが、うっすらオイルでも塗ったようなつやつやの質感で、何度か試すうちにクセになる。もう一つ非常に気に入ったのがリップスティック。見た目の色よりも塗ったときの発色が控えめで、しかもオイルがたっぷりと含まれているのか、非常に伸びが良くて塗り心地がいい。

なお、吉川さんのメイク哲学は、著書『褒められて嬉しくなる キレイの引き出し方』(宝島社、10月26日発売)に詳しい。本記事では駆け足で紹介したが、詳細が気になる方は本を読んでいただくともっとよく分かるはずだ。