会社の健康診断、毎年きちんと受けていますか? そして、「受けているから大丈夫」と安心してはいませんか? 実は会社の健康診断で、自己負担ゼロで受けられる範囲では、女性が受けるべき検査がカバーされていないことが多いのです。産婦人科専門医の高尾美穂医師(医学博士)に、健康診断を受けるときに知っておきたいチェックポイントを教わりました。

POINT1:受けるべき検査の有無をチェック

「会社の健康診断には、受けるべき検査がすべてカバーされている」と、考えている人が多いのではないでしょうか。しかし、女性活用やワークライフバランスの取り組みで先進的な企業、女性社員が多い企業ですら、女性が受けるべき検査を会社の健康診断でカバーしきれていないことは多いのです。

高尾美穂医師。医学博士・婦人科医・イーク表参道 副院長。東京慈恵会医科大学大学院で卵巣がんの遺伝子変異に関する研究にて医学博士を取得後、慈恵医大附属病院産婦人科、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。アドバイザリードクターとして女性プロアスリートのメディカル、メンタルサポートを行う。また、婦人科の医学的な知識を取り入れた『ヨガイベント Gyne Yoga』を主催。

そもそも男性と女性では、必要な検査の項目が違います。男性では30代で亡くなってしまうような病気にかかる確率は低く、50代以降にがんや生活習慣病が増えます。一方女性は、死に至る可能性のある怖い病気が男性より早い時期にやってきます。乳がんや子宮頸がんなど、婦人系のがんです。これらは30代や40代、早ければ20代でも発症します。ところが日本では、例えば子宮頸がんの検査を受けている女性は、2011年時点で37%に留まります。対してアメリカでは85%が検査を受けています(「OECD health data 2013」より)。婦人系のがんは、早期発見できれば高い確率で助かります。女性向けの健康診断では、これらの病気を早期発見するために婦人科検診や乳腺系の検査を入れるべきです。

しかしそもそも、会社の健康診断にどんな項目が入っているのか、意識していない人も多いのではないでしょうか。婦人科検診や乳腺系の検査は入っていますか? まずは、そこを確認してください。それらの検査が入っている場合は、どういった検査なのか、内容をきちんと確認しましょう。詳しくは、この後ご説明していきます。

POINT2:婦人科検診は、最低2年に1回。内診だけでなく超音波検査も

「女性向けのメニューが入っているから安心」というものではありません。中身もしっかり見てみましょう。企業によっては、婦人科検診をオプションで付けられるところがありますが、内診だけのことが多いようです。もし内診だけならば、超音波の検査もあわせて受けることをお勧めします。

診察台で、見られたくない場所を見せ、腟内に器具や指を入れられる……。内診は気分のいいものではありません。内診について細かく説明する医師は少ないですし、検査を受ける方も質問したりはしませんから、いったい何の検査をされているのか、知らない人が大半だと思います。内診の流れを簡単に説明しましょう。

診察台ではまず、外陰部の皮膚の状態を見ます。できものはできていないか、赤くなっていたり、腫れたりしていないかを確認します。次に、クスコ(腟鏡)という器具を使った「クスコ診」をします。クスコを腟内部に入れ、腟の壁面や子宮の入り口を見て、ポリープなどがないかを確認します。さらにクスコを入れたままで、子宮の入り口から細胞を少しこすりとります。この細胞を、子宮頸がんの検査に回します。

その後、クスコを抜いて「双合診(そうごうしん)」という触診をします。片方の指を腟に入れ、もう片方の手はおなかを触って、両手でおなかを挟むようにしての状態を見ることで、卵巣や子宮が大きくなっていないか、筋腫などがないかを診ます。しかしこれは、あくまでも医師が触った感触で判断するもの。筋腫や腫瘍が正常の倍くらいに腫大していないと指摘できないケースもあります。しかも体型がふくよかだと、おなかが皮下脂肪などで分厚いために、触ってもほぼ何も分かりません。また、緊張しておなかに力が入り過ぎていると診断ができまず、「所見がとれない」という状態になります。これらの「所見がとれない」場合でも、検査結果にはそうは書かれず「異常なし」と書かれることがほとんどです。

一方、超音波による検査だと、卵巣や子宮の大きさや形、筋腫や腫瘍の可能性のあるものが画像で見えます。数ミリの筋腫でも分かりますし、記録が残せます。内診は、診察した医師1人の主観的判断に頼りますが、超音波であれば画像を複数の医師が診て客観的に判断することもできます。

こうした理由から、婦人科検診においては、ぜひ内診だけでなく、超音波の検査を行ってほしいのです。まったく何も問題が見つからなかった人に、翌年突然、かなり進行した腫瘍が見つかることは少ないので、最低2年に1回検査をするとよいでしょう。毎年行えばさらに安心です。超音波の検査は、自費で追加する場合はだいたい1回5000円程度です。検査項目の追加については事前に、会社の健康診断の担当部署や、健康診断を行う医療機関に問い合わせておくといいですね。

POINT3:マンモグラフィーか超音波検査で年に1回乳房をチェック

乳腺系の検査については、マンモグラフィーか超音波の検査、どちらでもよいです。家系に乳がんの人がいる人は、必ず年に1回は受けてください。

がん検診では、がんの疑いがあるかどうかを調べるスクリーニング(ふるい分け)を行いますが、乳がんの検査は、その“ふるい”の目が細かく、ちょっとした疑いでもとらえるようになっています。検査でひっかかったからといって、必ずしもがんとは限りません。マンモグラフィーで疑わしい結果だったら超音波の検査を、超音波の検査で疑わしい結果だったらマンモグラフィーの検査を受けます。両方の検査を受けて、それでも疑わしい場合には、患部の組織を取って調べる「生検」を行います。この段階でも、見逃しを防ぐために“ふるい”の目をかなり細かくしてみているので、生検を受けてもがんではなかったということもよくあります。検査でひっかかったとしても、その時点で心配したり怖がり過ぎたりする必要はありません。

POINT4:会社の健康診断は「必ず」受ける、問診票は正直に

ここまで、会社の健康診断を「受けている」ことを前提にお話ししました。「忙しい」「今元気だから(自覚症状が何もないから)」などの理由で、会社の健康診断を受けないのは本当にもったいないことです。自己負担はゼロなので、あまり価値を感じていないのかもしれませんが、自費で行う人間ドックであれば通常7万円くらいかかる検査を、会社や会社の健康保険組合が負担していることとなります。

健康診断は、「過去2年間の健康に関する成績表」のようなものです。それまでに「どんな生活をしてきたか」が手に取るように分かります。そして結果を踏まえて頑張れば、次の健康診断ではその成果がちゃんと数値に表れます。

健康診断には通常、問診もあります。事前に食生活や運動、体調についての質問に答える問診票は、検査結果とあわせて医師が判断材料にするので、ぜひ構えず、正直に答えてください。検査結果の数値に何らかの異常があり、病気の可能性がある場合に、それが生活習慣によるものなのか、もともとの体質や遺伝の可能性があるのか、などを考える材料にもなるのです。

POINT5:結果は必ず確認して保管、B判定でも安心しない

健康診断の結果が出たら、中身を確認しましょう。あきらかな異常が見つかった場合は気に留めると思いますが、「B判定」などの場合は「問題なし」と自己判断してそのまま放置してはいませんか? B判定の場合も、どれくらい正常値から逸脱しているのか、それはどういう意味を持つのか確認しましょう。分からなければ、職場の産業医に聞いてみるとよいでしょう。また、以前「A判定」だったのが「B判定」になったのであれば、今度は「C判定」になるかもしれません。それを予防するためにできることはないかを考えましょう。

検査結果は、一度確認してすぐ処分したりせず、保管しておくことをお勧めします。前回と同じ医療機関で健診を受けた場合だと、今回の結果とあわせて過去の結果も同じシートに記載してくれることがあります。しかし別の医療機関で健診を受けたのであれば、自分で保管しておくしかありません。

結果を取っておくと、役立つことがたくさんあります。まず、何か病気をしたときです。最近の健康診断の結果があれば、あらためて検査をする必要がなくなる可能性があります。また、過去の健康診断の結果を見ることで、今の病気に関する診断が深められる場合もあります。たとえば、貧血の場合などは、診断する際に経時的な変化を見ることが重要です。いつごろからどのように症状が出てきたのかが分かるので、検査結果があると役立ちます。ほかにも、生命保険に加入する際に、最近受けた健康診断の結果が使える場合もあります。

いろいろお伝えしましたが、まずは会社の健康診断があるのなら、必ず受けることです。受けるだけでなく、健康診断の中身を確認すること。特に、婦人科健診と乳腺の検査(マンモグラフィーまたは超音波検査)があるかを見ること。婦人科健診は、内診だけでなく、超音波検査(エコー)も受けることを強くお勧めします。そして、検査を受けたら、その結果も自分で確認し、保管しておく。働く女性は、自分の健康は自分で守るという意識を持ち、上手に会社の健康診断を活用してください。