郵政グループ3社が東京証券取引所に上場

全国に2万4167局ある郵便局。それぞれの建物はひとつですが、その中は、日本郵便株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険と、3つの株式会社に分かれています。実際は日本郵政株式会社が親会社(持ち株会社)で、その子会社として3つの株式会社がある形です。

小泉元首相が、2005年9月11日の総選挙で郵政民営化を国民に問い、自民党が圧勝したのを覚えているでしょうか? 同年10月に郵政民営化法が成立し、郵便局が民営化されて早10年。いよいよ、2015年11月4日、3つの会社が東京証券取引所に上場します。

3つの会社をザックリ紹介

まずは、今回上場する、日本郵政株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険をザックリ紹介します。

日本郵政株式会社は、日本郵便株式会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の親会社(持ち株会社)です。今回、日本郵便株式会社を100%子会社としたまま、親会社が上場します。子会社の日本郵便株式会社の事業内容はご存じの通り、郵便と物流を行っています。ネットの普及により、手紙や封書が減っているのは仕方ないとしても、ネット通販や国際物流の影響で売上高は伸びています。国際物流の面ではM&Aにも積極的で、世界シェア5位になったそうです。

株式会社ゆうちょ銀行は、私たちのいちばん身近にある銀行、といって間違いないでしょう。その貯金残高は177兆7107億円と4期連続で増加だそう(2015年3月期)。いかに日本人が“貯金好き”かがうかがえますね。参考までに、銀行最大手の三菱東京UFJ銀行の預金残高は、同月期で約153兆円。ゆうちょ銀行はメガバンクの上をいく、メガバンクなのです。

株式会社かんぽ生命保険は、「かんぽ」(簡易生命保険)や「学資保険」を主力とした保険会社です。「かんぽ」は年齢を問わず、また審査が簡単な「国民の基礎生活手段を保障」する保険として人気です。契約数が年々落ちているといっても、その保険料収入は5兆9567億円(2015年3月期)で、民間保険会社第1位の第一生命の同月期5兆4000億円を上回る、国内ナンバーワンの生命保険会社です。

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日本郵政グループの概要

上記3社の資産や利益は図にあるとおりです。つまり、どれをとってもスケールの大きな会社であることは間違いありません。従業員もグループ全体で約40万人もいるそう。現在は政府が株を持っていますが、今回の上場を皮切りに、今後、2~3年に1回のペースで計3回に分けて株が売り出されます。政府は合計で総額7兆円、今回分として1兆1854億~1兆4362億円の収入を見込んでいるそうです。

政府放出株の歴史を紐解いてみる

上場して得た資金の使い道が気になりますが、政府は最終的な売却益のうち4兆円を東日本大震災の復興財源に充てることを決めています。つまり、郵政グループ3社の上場は国策なんですね。だから失敗できないという面もあります。ということは、株価を下げないような政府の後方支援が期待できそうです。

国策といえば……、政府放出株の歴史はというと、NTT、JR東日本、日本たばこ産業、JR西日本、JR東海、NTTドコモに続き、郵政グループ3社は「最後にして最大」といわれています。政府保有株の残りは、JR九州と東京メトロでしょうか……。

郵便局が今後、成長していくかどうかは、そこに勤める人にかかってくるでしょう。これからは上場会社として競争の世界にさらされていくので、局員さんからの勧誘も強くなるかもしれませんね。でも、何となくあまりにも巨大な会社であることから動きが鈍く、めぼしい新規事業もないので伸びしろが少ないような……。

ただ、過去の政府放出株の会社で、たとえば日本たばこ産業は、現在は「JT」の名で知られ、たばこだけではなく医療用薬品や加工食品など多角化に成功しています。(残念ながら「桃の天然水」などの飲料部門は撤退)。海外たばこ会社のM&Aも進めています。きっと優秀な人材がいるのでしょう。株価も現在は、上場時の5倍の価値があるとか。

JR東日本も列車を走らせるだけではなく、エキナカ開発や不動産事業、広告事業などを伸ばしています。新駅にできるエキナカの店舗は活況で、広告もデジタルサイネージになって駅全体が華やかです。センスのなかった駅ビルも、ルミネになって百貨店随一の売り上げの伸び率があるそう。株価も現在は、上場時の2.8倍になっています。

郵便局だって上場することで株主の目があれば、きっと変わっていきます。株を買う、買わないは、長い目でみて、郵便局を一民間企業としてみることが重要です。

日本郵政グループ3社の上場株の買い方

日本郵政グループ3社が上場時に売り出す仮条件の株価が10月7日に発表されました。株が欲しい人は郵政株を取り扱う証券会社に申し込みましょう。今回は大手証券からネット証券まで、数多くの証券会社で購入することができます。その申し込み方の流れを説明します。

<仮条件決定>
株の売り出し株価の仮条件が、10月7日に発表されました。
日本郵政:1100~1400円(1単元100株)
ゆうちょ銀行:1250~1450円(1単元100株)
かんぽ生命保険:1900~2200円(1単元100株)
です。

<ブックビルディング(注文期間)>
郵政株を扱っている証券会社へ、ブックビルディング(注文期間)中に、「仮条件の範囲の中で、私は○○○円で買うよ」と注文を出します。申し込む人はみんな欲しいので、オークションと同様に、投資家は日本郵政なら1400円、ゆうちょ銀行なら1450円、かんぽ生命保険なら2200円で注文を出すでしょう。この時、証券口座に株を買うだけのお金がないと申し込めない証券会社もありますので、事前に確認をしましょう。
日本郵政:10月8~23日
ゆうちょ銀行:10月8~16日
かんぽ生命保険:10月8~16日

<売り出し価格決定>
ブックビルディングの結果を集計し、売り出しの株価が正式決定します。
日本郵政:10月26日
ゆうちょ銀行:10月19日
かんぽ生命保険:10月19日

<購入申し込み受付>
ブックビルディングで高い株価をつけた人から順に株が買えるのですが、各証券会社には株数の割当て分があり、それを超える注文があった場合は抽選となります。晴れて当選したら、購入手続きに進むことができます。
日本郵政:10月27~30日
ゆうちょ銀行:10月20~23日
かんぽ生命保険:10月20~23日

<上場日>
2015年11月4日

投資初心者は配当狙いの長期目線がいいかも

新規上場株をIPO株ともいいますが、IPO投資の方法として、上場して、株価が上がったらすぐに売るという方法があります。

過去によく引き合いにだされるNTT株一次放出時のときは(1987年2月)、売り出し価格が119万7000円だったものが、初値で160万円になったことは伝説となっており、NTTドコモも390万円で売り出したものが(1998年10月)、一夜にして初値で460万円になったこともあります。

とはいえ、当時とは株式市場の環境も大きく違います。郵政株の株価がすぐに上がるか、下がるか、予想をする人は多いですが、今の時点で結果は誰にもわかりません。

ただ、長期的な視点では、そう簡単に潰れる会社でないことは間違いないので、株が紙くずになるということはないでしょう。(JALや東京電力の例もあるので、一概にはいえないところがツラいですが……)。

また、3社とも配当は期待できそうです。中でも日本郵政は中期経営計画で配当性向(配当が当期純利益に占める割合)50%をめざすと明記していますので、株主のことを考えている会社かも。さらに株主優待を実施してくれたらうれしいですよね(株主優待を実施するかどうかはまだ未定)。

今回の売り出しでは、国内投資家に8割、うち9割が個人投資家に割り当てられるそうです。最低投資金額も14万~22万円で株主になれるので、利益に税金がかからないNISAの中の範囲で投資ができます。

投資経験のない人も、身近な金融機関で事業内容がわかりやすい郵政株で、投資デビューを飾るのもいいかもしれません。投資してみたい人は、今まさにブックビルディング中なので、申し込みをしましょう!

マネージャーナリスト 坂本君子(さかもと・きみこ)
広告代理店、出版社にてサラリーで働くエディター、ライター、プランナー、コピーライターを経てフリーに。得意分野は投資、住宅関連。大ブレイクはしないけれど、仕事は堅実でハズさない。満を持して2008年に起業。個人投資家としての投資歴は15年選手(ちょっぴりプラス)。