全長11kmのトンネル

NEXCO東日本はご存知の通り、東日本エリアの高速道路の建設や維持管理を行う会社です。2005年の日本道路公団の分割民営化から今年で10年目。私は3年前に「施設担当」の技術職として入社して以来、この新潟支社湯沢管理事務所で働いています。

NEXCO東日本 湯沢管理事務所 高麗 藍さん

施設担当というのは、道路情報板や照明、サービスエリアの建物など高速道路に付随する「施設」の維持管理が仕事です。私はその中でも電気職と呼ばれるエンジニアで、高速道路内で電気が使用されているあらゆるモノを担当しています。

トンネル内の設備は近年、とても複雑化しています。例えば、トンネルの換気システム。そこにはMPVCと呼ばれるものが使われていて、コンピュータ制御によってA地点を通行する車両の数を計測し、数分後のB地点にどれだけの交通量があるかを常に予想しています。そのデータをもとに換気量を自動的に調整しているわけです。これはほんの一例で、トンネル内監視カメラの更新工事や照明のLED化など、その度に最新の技術が加えられています。

その意味で湯沢管理事務所はNEXCO東日本の中でも、特別な意味のある管理事務所だといえるでしょう。関越自動車道の全長11キロメートルに及ぶ日本最長クラスの関越トンネルを管轄しているからです。

このトンネルは今年(2015年)10月に開通30周年を迎え、老朽化でイタチごっこのように設備の不具合が起こる時期に差し掛かっています。発生した故障をお客様への影響が大きいものから優先的に対応すること、さらに中長期的な維持管理計画を作っていくこと。通行止めをせずに道路を生かし続けながら、それらの不具合をきちんと直していくところに、とてもやりがいを感じますね。

冬の準備は8月から

そして、湯沢管理事務所ならではのものと言えばもう1つ、冬になるととても多くの雪が降ることも特徴です。

冬季には除雪車がフル稼働しているのが当たり前で、毎日、「雪氷当番」が決まっています。雪が強く降って通行止めになると、当番の社員が通行止めの対応や道路巡回もしますから、非常に業務の増える期間です。

そうした冬の準備は8月の時点からもう始まっているんです。関越トンネルは金属チェーンを装着しての走行が禁止されているので、トンネルの前後のパーキングエリアでお客様がチェーンを外します。そこからはノーマルタイヤでトンネルに入れるように、道路上に12℃ほどに温めた水を散水しています。水を温かくするための加熱基地がパーキングエリアにはあって、使用する灯油の量は膨大です。その灯油の購入の準備がお盆前には始まります。なので、9月のこの時期はもう冬支度の気分。いよいよ長い冬が始まると気を引き締めています。

ちなみに、初めてここで冬を迎えた1年半前は、2月に関東で大雪が降った年でした。関越自動車道に限らず、首都圏から地方に抜けるほぼすべての高速道路が通行止めになり、私も現場でお客様の対応に当たることになりました。

その日は東京に向かう上り線は湯沢ICまでしか進めず、IC手前の塩沢石打SA内にも雪が積もってクルマが止められないひどい状態。たくさんのお客様がごった返すなか、丸3日通行止めは解除にならず、会社に泊まり込みでの対応でした。

そうした際に実感するのは、道路というのはお客様にとって「通れて当たり前のもの」だということですね。中には怒っている方もいるし、通行止めを早く解除しろとずいぶんと怒鳴られます。でも、私たちは謝ることしかできないのです。

一方でそんなときは、目に見えないところで懸命の除雪作業をしています。また、設備故障や道路補修が必要な場合は、現場を監督する上司がしっかりと見守る中、迅速な復旧作業をします。こうした人たちが道路の安全を守っているんだと、新入社員の私は胸を打たれる気持ちになりました。

この入社1年目の体験から、私は道路というものが本当に公共的な存在なのだということを学んだと思っています。通行止めは仕方のないことですが、道路の維持管理の仕事はお客様の気持ちになって、一刻も早く復旧をしようという使命感がなければ、とても務まらないものだということを知ったからです。

高麗 藍(こうま・あい)
2013年、京都大学大学院理学研究科を卒業後、東日本高速道路入社。同年6月に湯沢管理事務所に配属され、現在に至る。