私事で恐縮ですが、このお盆休み、海外で財布をすられました。

実際にスリにあったのは夫ですが、場所はドイツで、夫婦揃ってドイツ語力ゼロ、しかも英語力は中学生並みです。そんな情けない状況で、なんとか警察で盗難証明書をもらい、カードの使用停止手続きをした経緯をご報告します。私たちのような海外旅行初心者の方は、どうぞご参考に。

スリ集団はオバサン達でした

スリにあったのは、フランクフルトから電車で20分程度の郊外都市です。のんびりライン川を眺め、お昼に名物のアップルワインを飲んで、ごきげんの帰り道。駅に着いた電車に私が先に乗って席を確保しましたが、夫がなかなかやってきません。見ると、大きなオバサン達に囲まれて、なにやら揉めている気配です。

電車が走り出し、あっけにとられた顔で席にやってきた夫は「財布をすられた」と言いました。1人のオバサンが前に立ちはだかり、仲間の1人がジーパンの後ポケットにあった財布を抜き取ったようです。すぐ気がついて振り向くと、後にいたオバサンが向こうにいる男性を指差して「あいつが盗んだ」と言ったそう。そちらに気をとられている間にオバサン達は電車を降りて、ドアが閉まってしまいました。

財布に入っていたのは、銀行で引き出したばかりの現金約500ユーロ(7万円強)とクレジットカード2枚、銀行のキャッシュカード1枚です。「後ポケットに入れてちゃダメでしょ」と言いたいところをぐっと押さえ、対策を協議しました。

現金やカードは旅行保険の対象外

まず頭に浮かんだのは旅行保険。出かける前にネットで海外旅行保険に加入しています。でも、この保険では、現金やクレジットカードは対象外のはず。現金はあきらめるとしても、心配なのはカードが不正に使われる場合です。

「盗まれたカードが使われても、クレカって補償があるんだよね」

「銀行のキャッシュカードも補償があるはずよ」

「それじゃ、カード会社と銀行に連絡してストップすればいいのかな」

いま待て、しばし。もし盗まれたカードが使われたとき、警察に届けていないと補償が受けられないのでは? 暗証番号が分からなくても不正使用はあり得るし、ここは早く警察に行こう。私たちは次の駅で電車を降り、元の駅に戻ることにしました。

カタコト英語で盗難証明書をゲット

駅員に聞いたところ、駅の隣に警察署があるそう。さっそく向かいましたが、建物には看板もなく、人影もなくて、ドアは閉まったまま。しばらくウロウロした後、ドアの脇にインターフォンがあるのに気づきました。ボタンを押して「財布を盗まれたので開けてください」と言うと、ドアが開きました。

中には制服警察官が3人ほど。しばらくはお互い、カタコト英語でやりとり。でも、すぐに英語のできる警察官を呼んでくれました。

現れた若い警察官に聞かれて、どの電車に乗ったときに財布をすられたか、すられたときの状況、財布に入っていた中身などを説明し、パスポートを提示。彼はその場でVISAに電話して、日本語のわかる担当者を呼び出してくれました。カードを使用停止にしてもらい、電話を切ってから、「盗難証明書を発行してほしい」と頼みました。英語で「盗難証明書」を何と言う? 急いでスマホで調べると、「ポリスレポート」でいいみたい。夫は「プリーズ・ギブミー・ポリスレポート」などと言いながら、ガイドブックを開いて「会話編・盗難にあったとき」のページを指差しています。

盗難証明書を作るには、盗まれたときの状況を英語で書く必要があるそうです。夫はスマホでスペルを調べながら英作文。20行ほど書いて見せたら「OK」とのこと。その場ですぐに盗難証明書を作って渡してくれました。私はこの間、金髪で青い目のイケメン警察官にみとれていました。

カード会社と銀行に連絡して即刻使用停止に

再び電車に乗ってフランクフルトのホテルに戻り、残りのカードの使用停止手続きを開始。クレジットカードはVISAのほかJCB、キャッシュカードはみずほ銀行でマスターが付いています。それぞれ海外対応の紛失・盗難受付窓口をスマホで検索して電話しました。

カードを盗まれると番号がわかりません。でも、受付窓口で名前と生年月日、住所などを伝えれば調べてくれます。夫の持っていたJCBは「ビックカメラSuica」で、カード発行会社はビューカード。この場合は、JCBとビューカードのどちらに連絡しても大丈夫ですが、発行会社に連絡したほうがスムーズです。クレジットカードは、その電話で再発行の依頼もできました。みずほ銀行のキャッシュカードについては、預金を引き出される可能性は低そうですが、銀行に使用停止を依頼して、マスターも使用停止にしました。再発行は日本に帰ってから店頭で手続きします。

なかなか電話がつながらないところもありましたが、30分程度で連絡はすべて終了。現地でできるのはここまでです。町に出て、夫はカバンに入れていた別のカードで現金を引き出し、予定どおり美術館に行きました。その後、しこたまビールを飲んだのは言うまでもありません。

帰国してから2週間。今、新しいカードが着々と届きつつあります。クレジットカードの利用履歴をネットで調べると、とりあえず不正使用された様子はなく、ひとまず安心。貯まったポイントやSuicaの残高もそのままです。ただ、クレジットカードを再発行すると番号が変わるので、公共料金などでカード引き落としになっているものは番号変更の手続きをする必要があります。

カードを盗まれたときの補償を再確認

さて、この機会に、盗難にあったときの海外旅行保険とカードの補償を再確認してみました。

海外旅行保険については、やはり現金やクレジットカードは補償の対象外です。ただ、財布は携行品として補償の対象。今回は安物の古い財布でしたが、もし盗まれたのが高価なブランド財布だったら、請求する価値がありそう。また、海外サポートデスクでは盗難にあったときの対応をアドバイスしてくれるので、電話してみればよかったかも。万一パスポートを盗まれたようなときは、心強いと思います。

クレジットカードについては、国内でも海外でも盗まれたカードが不正使用された場合には、会員に「故意」や「過失」がなければ、カード会社へ届け出た日から60日前(カードによって違う場合もある)に遡って損害が補償されます。「故意」はともかく「過失」にあたるのは、たとえばクレジットカードの裏面に本人署名がなかったときや、他人に暗証番号を教えたり、暗証番号がカードに書いてあったりしたときなど。また、暗証番号が誕生日や電話番号など推測しやすいものだったりすると、過失と判断される場合もあるので要注意です。また、サインも暗証番号も使わないインターネット取引は補償の対象外になるケースもあるようです。こうした基準はカード会社によって違うので、あらかじめ確認しておきたいところです。

銀行のキャッシュカードが盗まれて預金が不正に引き出された場合も、クレジットカードと同様、預金者に「故意」や「過失」がなければ損害が補償されます。ただし、盗難にあってから30日以内に銀行に届け出なければなりません。また、暗証番号がカードに書いてあったり、推測しやすい番号にしていたときなどは「過失」とみなされ、補償が受けられなかったり、減額される場合があります。

海外旅行保険、クレジットカード、銀行キャッシュカードのいずれも、補償を受けるには警察に届け出ることが原則です。ただ、海外で盗難証明書をもらう場合は、今回のようにその場で受け取れるとは限らず、数日かかったり、国によってはもっとかかることもあるようです。間に合わないようなら、すぐに保険会社やカード会社の受付窓口に電話して、どうすればいいか相談するといいでしょう。

海外旅行で油断は大敵! 盗難への備えをいつも頭に

今回、私が得た教訓は次のようなことです。海外に慣れている人なら当たり前すぎて、笑われてしまいそうですが。

(1)クレジットカードは海外受付窓口の電話番号をメモして行こう
→今回はスマホで検索しましたが、リストがあればもっと早く手続きできるはず。
(2)持って行くカードの枚数を減らし、分散して持っておこう
(3)持ち歩く現金は最小限にしよう
(4)何かあったら海外旅行保険のサポートデスクを活用しよう
(5)盗難に遭ったら、恐れずに警察へ行こう
→今回は対応がよくてラッキーでしたが、もし言葉が通じなくても不親切でも、そのときに考えればヨシ。

何より、盗難に遭わない注意が第一。今回はのどかな郊外都市だったので夫も油断したようですが、尻ポケットに財布は論外です。一目で観光客に見えるのは仕方ないし、巧妙なプロの手口には勝てないとしても、極力、スキを見せないことが大切だと実感しました。

それでもめげずに、「次はどこに行こうかな」と考えています。みなさんもスリには十分注意して、海外旅行を目一杯楽しんでくださいね。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。