「新しい価値のある生命保険をつくる」に共感

入社時、ライフネット生命はまだ免許をもらう前の準備会社でしたが、すでにマーケッターが10人ほどいて、岩瀬からは「若くてすごく勢いのあるマーケッターを採用したけど、まとめる人がいないんだ」と誘われました。生命保険のネット販売がない時代に、新しい価値を提供していくという熱い思いに共感しました。振り返ればスターバックスも1杯ずつコーヒーを提供するという新しいスタイルを提供する会社ですし、GABAも従来の英会話スクールのようなグループレッスンではなく、マンツーマンという新しいスタイルを提供する会社です。そういう私のキャリアと岩瀬の思いが共振したんでしょうね。

ライフネット生命 常務取締役 中田華寿子さん

入社したのは開業の1カ月前でした。マーケティングのチームは、前職がヤフーやウェブの広告代理店、メーカー、コンサル、保険代理店など様々な経歴を持った人の集まりでした。私が「この方法でやりましょう」と言っても全く納得してもらえません。それなら部員の今までの経験や知見を活かして伸び伸びと仕事をしてもらったほうが、既存の生命保険会社にないマーケティングが実現するのではないかと考えました。そういう中から、「ハトが選んだ保険に入る」といったユニークな企画なども生まれたのです。

私も保険業界は初めてですから、業界のことを詳しく教えてもらわなければならないし、ウェブマーケティングも私より長けている部員がいましたので、みんなに「どう思う?」「どういうアプローチがある?」とよく尋ねていました。他部署からすると、すごく無駄なおしゃべりをしている部と見られたかもしれませんが、とにかくいろんなことを相談しましたね。

会長、社長の帽子をかぶって考える

役員として大事にしているのはビジョンです。私よりスキルが高かったり、知識の引出しが多い社員がたくさんいるので、そこでは叶いませんが、目指したい姿に対する意志としてのビジョンは誰よりも高い視点を持っていたいと思います。「今はこういう状態だけど、将来はこういう形に持っていきたい。では、今どうしたらいい?」という感じで、いつも議論をしています。そして自分の考え方が間違っているのではないかとか、考えが浅いという自覚があるときは、社員に相談を持ちかけ彼らの意見を取り入れて柔軟に見直し、繰り返しブラッシュアップしています。

ただし、多様性は重んじても、同じ価値観をもって目標を達成しないとブレのないブランドは確立できないので、そこは気をつけています。開業前にみんなで話し合って決めたマニフェストにあるように、「正直に経営し、わかりやすく、安くて、便利」な生命保険をつくっていきたいという理念にはブレがありません。それに対する会長の出口と社長の岩瀬の思いも強く、トップ2人の思いと社員の思いの間にブリッジをかけるのも私の役割です。

また、管理職になって課長、部長と一段ずつステップアップしていくと見える景色も変わってきます。部長会議なら部長会議、役員会議なら役員会議でしか共有されない情報があるんですね。やはり情報を多く持つことは、判断材料が増えることにつながり、自分の判断がビジネスに及ぼす影響力も格段に違ってくるのでやりがいも増します。

今も感じますが、私と会長、社長が持っている情報のレベルには違いがあります。会長や社長と判断が違うとき、見えている景色が違うのだろうなと思うのです。そんなときは「なぜ、この人はこういう判断に至ったのだろう」と、その人の“帽子”をかぶって想像してみます。ライフネット生命に入ってからは、昔のように突っ走るだけでなく、ちょっと引いて経営的目線で業務の意味を考えるようになりました。

キャリアを切り拓くための2つの武器

キャリアを切り開いていくうえで重要なのは、自分の業務に対してオーナーシップを持つことと、コミュニケーションスキルを磨くことだと思います。

管理職でなくても、たとえ入社1年目の方でも担当を任されている業務があると思います。その業務に対して一番のプロは自分自身です。日々こなしていることなので、部長よりもその業務をよく知っているはずです。自分の業務をどのように進めていきたいかを、オーナーシップをもって常に考えて実行していれば、絶対に社内で誰かが見てくれています。「若いけれど責任感のある人だね。次はこれを頼もう」とチャンスも拓けていきます。

手放せない仕事道具:スマホと扇子。ツイッターなどでも積極的に情報発信。扇子は気持ちを落ち着かせるために。

また、どれだけ深く考えていても思っているだけでは伝わらないので、価値観の違う人に自分の意見をどう伝えていくかが大切です。違う景色を見ている人たちに、「そうだよね、あなたの考えていることも一理あるね」と思ってもらえるコミュニケーションスキルが不可欠だと思います。自分にしか見えない景色を語っても、なかなか伝わりません。周りにプレゼンテーションの達人がいれば、それを真似したらいいと思います。ロジックの組み立てでも言葉の使い方、表情でも、「とても共感できるな」と思えれば同じようにやってみます。

社長の岩瀬は聴衆が何を求めているかを瞬時に掴み取って共感できるコミュニケーションがうまく、何度プレゼンを聞いても思わず唸ってしまうことがあります。逆に会長の出口はどこでも同じ話し方で、安定したスピーカーとしてのパーソナリティーが確立しています。私にとってはどちらもいいお手本です。

もし、ある日管理職になるチャンスが来たら、迷わず挑戦すべきです。自分とは異なる考え方の人と仕事をする機会が増えることで、視野が広がります。女性には責任感が強い方も多く、その責任が果たせるかと悩んでしまうかもしれませんが、失敗したら「上司の任命責任だ」くらいに考えて(笑)、自信をもってチャレンジしてみてください。