離婚時に将来の年金を分ける仕組み
「もう我慢できない! 絶対、別れてやるっ」
結婚している女性なら、そう思ったことが1度や2度はあるのでは!?
もし実行に移すなら、真っ先に考えておきたいのがお金のこと。一般的には収入の少ない女性のほうが、離婚後に厳しい生活を強いられることが多いからです。
離婚したときにもらえる可能性のあるお金としては、夫婦の財産を分ける「財産分与」、離婚原因をつくった側が支払う「慰謝料」、子どもを養育する側が受け取る「養育費」の3つがよく知られています。さらに7年ほど前からは、老後の年金を分割する「年金分割」の制度が加わりました。
「年金分割」は、将来、年金を受け取る権利を夫婦で分割する制度です。ただ、年金制度に共通する特徴として、とっても複雑、とっても難解な仕組みになっています。だから、制度があることは知っていても、内容を誤解している人が少なくありません。
「離婚したら夫の年金を半分もらえるんでしょ?」――そう思っているも多いのでは? 実は、そうではないんです。そこで、いずれ来るかも知れない“Xデー”に向けて、既婚女性が知っておきたい「年金分割」のポイントを説明しましょう。
まずは、「年金分割」の原則を4つ。
原則(1) 分割できるのは会社員と公務員の年金だけ
「年金分割」の対象になるのは、会社員の厚生年金と公務員の共済年金に限られます。厚生年金と共済年金は、「基礎年金」に「報酬比例部分」を上乗せする2階建ての仕組みですが、分割できるのはこの2階にあたる「報酬比例部分」だけ。夫が自営業の場合だと報酬比例部分がないので、「年金分割」はできません。
原則(2) 分割するのは結婚期間の部分だけ
「夫の年金の半分をもらえる」と思っている人は多いのですが、分割の対象になるのは報酬比例部分のうち、結婚していた期間に対応する分だけです。たとえば、夫が22歳で会社員になって30歳で結婚、40歳で離婚した場合だと、分割するのは30歳から40歳の期間の分だけで、結婚前の期間と離婚後の期間は含まれません。また、分割できる年金は、その期間に対応する年金の2分の1が上限です。
原則(3) 分割した年金を受け取るのは65歳から
分割した年金は、本人が年金を受け取るとき(原則65歳から)に上乗せされます。離婚したらすぐにもらえるわけではないので、間違えないで。また、年金をもらうための年金受給資格期間(現在は25年。10年に短縮される予定)を本人が満たしていないと年金自体をもらえないし、分割した部分ももらえません。なお、元配偶者が死亡したり、自分が再婚したとしても、離婚時に分割した年金を受け取る権利はなくなりません。
原則(4) 請求期限は離婚してから2年以内
年金分割は、離婚した日から2年以内に年金事務所で手続きをしないと受け取れません。自動的にもらえるわけではないので、注意が必要です。
専業主婦は問答無用で夫の年金をもらえる
さて、ここまでが「年金分割」の概要です。では、どうやって年金を分割するのか、もう少し詳しく説明しましょう。実は、年金分割には2つの制度があります。
(1)合意分割
夫婦で話し合うか、裁判所の調停や審判で報酬比例部分の分割割合(最大2分の1)を決める方法です。共働きで夫婦とも厚生年金か共済年金に加入しているときは、この方法になります。
(2)3号分割
サラリーマン・公務員家庭の専業主婦(夫)が使える制度がこちら。2008年4月以降に国民年金の第3号被保険者だった期間がある人は、請求すれば、その期間について夫(妻)の報酬比例部分の2分の1が分割されます。この場合、相手の同意は不要です(請求は必須)。ただし、2008年3月以前の結婚期間については、「合意分割」にしなくてはなりません。
なお、第3号被保険者とは、会社員や公務員(第2号被保険者)の配偶者で、専業主婦(夫)の人のこと。第3号被保険者は自分で年金保険料を負担する必要がありません。社会保険に加入していないパート主婦も第3号被保険者にあたります。
もっとも、結婚してすぐに専業主婦になる人は今や少数派。結婚してしばらくは会社勤めを続け、子どもができたら退職して専業主婦になったり、パート勤めに替える、という人が多いでしょう。こうした場合は、結婚期間のうち厚生年金加入期間については夫と報酬比例部分を合算して分割割合を決め、第3号被保険者期間については「3号分割」で夫から2分の1をもらう、という手続きになります。この場合、「合意分割」を申請すれば、「3号分割」の期間についても自動的に分割が行われます。反対に「3号分割」を申請すれば、まず該当する期間の分割をしてから、「合意分割」の分割割合が決まるのを待つことになります。いずれにしても、申請はどちらか一方でOKです。
妻から夫へ年金を分割することも
「年金分割」は、「結婚していた期間の年金保険料は夫婦が共同で支払ったものとして受け取る権利を分割する」という考え方に基づいています。このため、共働き夫婦の場合は、お互いの報酬比例部分を合計して、その分け方を決めることになります。もし妻のほうが収入が多い場合には、妻から夫へ年金を分割することもあり得ます。
また、分割できるのは厚生年金と共済年金だけなので、たとえば夫が自営業で妻が会社員の場合だと、妻から夫へ年金を分割することになる可能性もあります。
そんなときは、あえて「年金分割」のことは口に出さないほうがいい!? 制度を理解していれば、そんな裏ワザだって使えるかもしれません。
「年金分割」は手間もかかるし、将来の年金なんてどうなるかわからない。それなら、今すぐもらえる財産分与や養育費をもらったほうがいい……そう考える人もいるでしょう。でも、約束したからといって、相手が本当に払ってくれるとは限りません。その点、「年金分割」は、いったん決まれば年金を受け取る権利が確定し、将来、必ずもらえるというメリットがあります。特に「3号分割」は、相手の合意なしで否応なしに2分の1をもらえるのだから、年金の少ない女性にとって価値が高いといえるでしょう。
離婚すれば、生活はすべて自分一人の肩にかかってきます。将来のため、安定収入は1円でも多く確保しておきたいですね。
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。