多くの働き盛りの人たちが被害に……

穏やかな秋晴れ、絶好の登山びよりの週末。やっと着いた山頂で昼食を始めたときに突然の噴石と火砕流……御嶽山の噴火は、自然の厳しさを今回も私たちに突きつけました。被害に遭われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。

ニュースを見ると、今回亡くなった方々には30代、40代といった働き盛りの世代が多いように感じました。読者の世代にも近いのではないでしょうか。ご家族の悲しみを思うと、本当に心が痛みます。

「噴火」は保険金支払いの対象外!?

こんなときにこそ、役立ってほしいのが保険です。でも、保険には気がかりなことがあります。それは、今回の災害が「噴火」だということ。台風など自然災害による被害では保険金が支払われますが、「地震・噴火・津波」による被害は例外扱い。大規模災害になることのある「地震・噴火・津波」による被害は、生命保険でも損害保険でも、保険契約の中で「免責」とされていることが多いのです。

「免責(めんせき)」とは、「こんな場合は保険金を支払いません」という決まりのこと。保険は契約ですから、あらかじめ「こんな場合は払います」「こんな場合は払いません」といった約束が決められているのです。「免責」とは、保険会社の側からみて、支払う「責任」を「免れる」といった意味でしょうか。

となると、今回の噴火の被害では保険金が支払われない? 実際はどうなのか、専門家に聞いてみました。

今回のケースでは生命保険は支払われる

まずは、気になる生命保険の死亡保障や医療保障から。答えてくれたのは、生命保険に詳しいファイナンシャルプランナーの内藤真弓さんです。

「今回のケースでは、医療保険も含め、生命保険の保険金は支払われますのでご安心ください」

生命保険の死亡保険金には、普通保険金と災害保険金の2種類があり、免責の条件がついているのは災害保険金だけとのこと。たとえば、死亡保険金が「病気死亡1000万円、災害死亡3000万円」となっている場合、1000万円が普通保険金、災害死亡時に上乗せされる2000万円が災害保険金です。

普通保険金は、被保険者が亡くなった場合、原因に関係なく支払われます。一方の災害保険金では「地震・噴火・津波による場合は免責や減額の可能性がある」などと定められていますが、これは、災害の規模が非常に大きくて、保険会社の経営が成り立たなくなるような場合に限られます。医療特約や医療保険についても、災害保険金と同様の扱いです。

「東日本大震災のときも、生命保険の保険金は全額支払われました。今回の噴火についても、免責の規定を適用せずに全額支払うことを、すでに生命保険協会が発表しています」(内藤さん)

もっとも、東日本大震災を超えるような大規模な災害が起きたとしたら、保険金が支払われない場合も出てくるかもしれません。それは頭に入れておいたほうがよさそうです。

損害保険の保険金は支払われない

生命保険のほか、損害保険にも災害による死亡やケガを補償する商品があります。たとえば傷害保険や旅行保険、レジャー保険など。こうした保険では、今回の噴火で保険金を受け取ることができるでしょうか?

「残念ですが、損害保険では、今回の噴火の被害で保険金を受け取るのは難しいと思います」

と言うのは、損害保険に詳しいファイナンシャルプランナーの清水香さん。傷害保険、旅行保険、レジャー保険などを含め、損害保険商品の契約には「地震・噴火またはこれらによる津波による損害は免責」と明記されていて、こうした場合に保険金を支払うことは想定していないようです。例外として「地震・噴火・津波による損害も補償する」といった特約をつけている場合には保険金が支払われます。

なお、「地震・噴火・津波」による損害が免責になるのは国内の場合で、海外の「地震・噴火・津波」による損害は補償されるとのこと。

「国内における地震・噴火・津波のリスクがいかに高いかを示している、と考えてください」(清水さん)

自動車の被害も補償の対象外

今回の噴火では、登山口に停めた自動車が被害を受けた、といったケースもありそうです。こうした被害を補償するのは自動車保険のうち車両保険の役割ですが、これも噴火による損害は免責となり、保険金は受け取れません。

保険会社によっては車両保険に「地震・噴火・津波による損害に一時金を支払う」特約があり、こうした特約を付けていれば車の全損時に限り一時金が支払われます。ただし一時金は最大でも50万円。一方、保険料は年5000円と高めです。

家の被害は地震保険でカバー

今回の噴火では、山梨県にまで火山灰が降ったそう。噴火では火山灰や噴石、火砕流などで住宅や家財に損害が出ることが考えられます。災害による住宅や家財の損害を補償するのは火災保険の役割ですが、自動車保険と同様、噴火による場合には保険金は支払われません。

噴火による損害を補償するのは地震保険です。地震保険は東日本大震災をきっかけに注目を集めましたが、地震だけでなく噴火による損害を補償する役目もあります。地震保険は火災保険とセットで加入するもので、保険金額は火災保険の50%まで。とはいえ地震保険は、地震等による住宅被害に備えるほぼ唯一の手段です。リスクの高い地域に住んでいるなら、ぜひ加入を検討したいところです。

「火山に関しては、被害を予測したハザードマップが多くの地域で作成されています。ぜひ確認して、備えをすすめてほしいと思います」(清水さん)

予想できるリスクへの準備を進めよう

今回の御嶽山の噴火では、予測がいかに難しいかを思い知らされました。それは、地震の予測も同様です。だからこそ、少なくとも現時点で分かっているリスクに対しては、可能な限り被害を抑える準備をしておきたいところです。

8月には広島土砂災害が起きるなど、今年は大規模な災害が多いように感じます。ハザードマップは火山に限らず、洪水や地震などの災害による被害を予想したものなどが各自治体で作られています。自治体のホームページを見たり問い合わせたりして、ぜひ一度は確認してほしいと思います。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。