この夏、考えたい「相続」のこと

8月のお盆に、久しぶりに実家に帰る人も多いことでしょう。ご両親は今、おいくつでしょうか? もしあなたが30代なら、ご両親はまだまだ元気で、「相続」なんて言われてもピンとこないかもしれません。

「縁起でもない」「まだまだ早い」と思っても、この夏はちょっとだけ相続のことを考えてほしい――というのには、いくつかの理由があります。

来年から相続税が増税される

図を拡大
2015年から相続税の非課税枠(基礎控除)が縮小される

まず、来年(2015年)初めから相続税が増税になります。相続税には「財産がこれ以下なら相続税はかかりませんよ」という“非課税枠”がありますが、制度の改正でこの非課税枠が2015年から6割に縮小されます。そうなると、今なら相続税がかからない人でも、増税後には相続税がかかる可能性があるのです。

たとえば、父親が亡くなって、財産を母親と子ども2人で相続するケース。図のように、現在の非課税枠は8000万円です。つまり、財産が8000万円までなら相続税はかからないということ。この非課税枠が、増税後には4800万円に下がります。都内でごく普通の一戸建てに住み、老後資金として退職金を貯めているようなケースでも、増税後には相続税がかかる可能性があるので、注意が必要です。

もし相続税がかかりそうなら、何か対策を考えておきたいところ。相続税を減らす対策には、子どもや孫に少しずつお金を贈与したり、二世帯住宅を建てたりする方法などがありますが、いずれにしても時間をかけて、慎重に進めなければなりません。だからこそ、「まだ早いんじゃない?」というぐらいの時期から親子でよく話し合って、対策をスタートしたほうがいいのです。

相続税より財産の分け方のほうが大切

といっても、現在、相続税がかかるのは亡くなった人全体の4%程度。増税後にはそれが6%程度に増えるといわれていますが、それでも大多数の人には相続税がかかりません。でも、「なんだ、それなら安心」と思うのは間違い。相続には、税金よりずっと大切なことがあります。それは、「財産を家族でどう分けるか」という問題です。

「うちには大した財産なんてないから、関係ないじゃない?」と思う人もいるでしょう。でも、実は、財産が少ないほうが相続で揉めるケースが多いのです。

これは、少し考えてみればわかります。財産がたくさんあったら、家族全員が納得する分け方もできるでしょう。でも、財産が自宅1件のほか預貯金が少しだけだったら? もし兄弟のうち1人が自宅をもらってしまえば、ほかの兄弟と大きな差がついてしまいます。「それじゃ不公平!」といって兄弟ゲンカに発展する――そんなケースがとても多いのです。

将来、自宅をどうするかは本当に難しい問題です。今後10年、20年経ったとき、親の面倒を誰が見るか? そんなことも合わせて考えなくてはなりません。

30代にもなれば、兄弟姉妹がみんな離れて暮らしていることも多いでしょう。会って話す機会もあまりないかもしれません。お盆に実家で家族みんなが顔を合わせたときは、家族で将来のことを話し合ういいチャンスです。

親の“まさか”も考えておこう

30代のうちから相続を意識してほしい理由はもう一つあります。あまり考えたくないことですが、もし今、親に万一のことが起きたら――

私の友人の父親は、64歳のときゴルフ場で突然倒れ、そのまま亡くなりました。母親は財産の管理をすべて父親に任せていて、何も把握していなかったそうです。一人娘の友人が実家を必死で探しても、預金通帳や不動産の権利証などが見つからず、自宅と地方の実家を何度も往復して大変だった……と嘆いていました。

「うちの親はまだ若くて元気そのもの。まさかそんなこと起きるはずない」と思う人も多いでしょう。でも、何の準備もないままに、その「まさか」が起きたときこそ、一番大変です。

そんな「まさか」に備えるには、実家の財産をある程度、把握しておくことが大切。といっても、親に向かって「うちの財産、どうなってるの?」なんて聞きづらいですよね。

この夏は、そんな話をさりげなく始める絶好のチャンスです。「お父さん、来年から相続税が上がるんだってね」と切り出してみましょう。そこで「そうらしいね」といった反応があれば、お金の話に持っていきやすいはず。このほか、資産運用や地価上昇の話、オレオレ詐欺の話などからお金の話を始め、チャンスを見て「ところで、うちはどうなってるの?」という話につなげる、という作戦です。

この夏、実家に帰ったら、家族でお金の話をしてみてはどうでしょう。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。