経済的に厳しい家庭の子どもに向けた制度

発展途上国では、生活のためのお金を稼がなくてはならない子どもは学校に通うことができず、十分な教育が受けられない。そして、教育が受けられないことでできる仕事にも限界が生じ、経済的になかなか楽にはならないという負の連鎖が起こる。

しかし、日本ではこのような話はあまり聞かない。小・中学校が義務教育で誰でも通えるから、というのが最大の理由だが、さらに「就学援助制度」で、経済的に困っている家庭の子どもには学用品代や給食費なども援助されていることは、意外と知られていない。

就学援助制度は、学齢期の子どもを抱える生活保護受給世帯、またはこれに準ずる程度困窮している世帯の保護者に対して、学用品費、通学費、修学旅行代、クラブ活動代、学校給食費などを支給する制度だ。

公立の小・中学校に通う場合、教科書代や学習補助費は公費で賄われるので、それ以外の学ぶための費用を援助する。

手続きは、新年度が始まったばかりの4月に行うのが一般的。小学校、中学校で申請書が配られるので、該当する保護者は、それに記入して提出する。

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要保護及び準要保護児童生徒数の推移

実は、小・中学生の6人に1人が受けている計算に!

2014年2月に文部科学省が発表した調査データによると、平成24年度に就学援助の対象になった生徒数は、全国で155万2000人で援助率は15.64%。小中学生の6人に1人が就学援助を受けている計算になる。

グラフのように、就学援助の対象となる生徒数は減っているが、全体の生徒数が減っているため、援助率は上がり続けている。よく使われる表現を借りるなら、40人学級のクラスだと、1クラスに6~7人いることになる。

生活保護の給付基準が下がったことと連動して、就学援助も縮小に!

生活保護受給世帯に準じる程度困窮しているとされる「準要保護者世帯」の基準に関しては、自治体ごとに違っている。

ある自治体では、世帯人数4人の場合、認定所得基準額は約300万円程度(借家の場合)となっている。この所得基準は住んでいる自治体のホームページなどで確認できる。

2014年6月に文部科学省は、「生活扶助基準の見直しに伴う影響への対応を直接的には行っていないと回答した自治体が71あった」と発表した。71という数字は、全国の自治体数の4%にしか過ぎない。

これは、政府が生活保護の基準を引き下げる決定をしたときに、「ほかの制度にできる限り影響が及ばないようにする」ことを自治体に要請したため。多くの自治体は、就学援助の所得基準の設定に引き下げ前の生活保護基準を使うなど、極力影響が出ないように配慮した。71自治体についても、経済的に困窮している児童生徒に対する取り組みを実施しており、さまざまな義務教育段階の子どもの貧困対策が行われていることが発表されている。

だが、国が生活保護給付を引き下げ、自治体への十分な福祉財源を渡さなければ、制度を縮小する自治体は今後、増えていくとみられている。

子どもを育てる親として、社会制度に知識と関心を持とう!

そもそも就学援助制度は、学校教育法の第19条で「経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」と定めていることから、実施されている制度。経済的に困っている世帯の子どもには、適切な援助が必要である。経済的な困難さは変わっていないのに、制度上の変更によって、援助が受けられなくなる子どもが出てこないような施策をとってほしいものだ。

就学援助は、制度の条件を満たせば受ける権利がある。今のわが家には関係がないと思っても、このような制度が日本にはあるということを、知っておくのは大事なことだ。自分が困窮したときに子どもたちが教育を受け続けられるように、また、周りに困窮する人が出てきた場合に、情報提供してあげられるように。

子育て世代こそ、このような社会制度には関心を持っていく必要がある。

フリーライター 生島典子(いくしま・のりこ)
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり。