母親が働かねばならないときの子どもの預け先がない!?
2014年3月にベビーシッターに預けた2歳の子どもが亡くなるという、ショッキングな事件が起きた。20代のシングルマザーが、ベビーシッターのマッチングサイトで探した男性シッターに2歳と8カ月の子どもの泊りがけの保育を依頼。ところがお迎えの日時になっても連絡がつかず、警察が捜索したところ、マンションの一室で2歳の子どもが亡くなっていたのだ(8カ月の子は保護)。
世間を驚かせたのは、母親がネットを通して知り合った見ず知らずの人物に子どもを預けていたことだった。そんな人物に子どもを預けたということで、母親への非難の声も起こった。しかし、そうまでして子どもを預けなければならない事情もまた、あったはずだ。この事件は、母親が働かねばならないときの子どもの預け先が本当に不足していることが、世間に表出したものとなった。
働く母がいちばんに頼れるのは、保育園
まず、母親が働こうとしたときにいちばん頼れるのは、保育園だ。
私も保育園に3人の子どもを預けながら働いてきた。
認可保育園の場合、月曜から土曜日の7時30分~18時30分(延長保育を行っているところで朝7時から、または夜20時までというところもある)の間に預けられ、保育料は、保護者の所得や児童の年齢によって、0~8万円(月額)の範囲で決められる。保育料が保護者の所得によって変わるので、比較的無理のない負担額となっている。ただし、日曜、祝日、夜間の対応はしていないところがほとんどだ。
認可保育園のいちばんの問題点は、待機児童が多い地域ではなかなか入所が難しい点。すぐに入れなくても、登録しておいてアキを待つことが重要だ。また、入所基準があるので、定期的に仕事をしていないと入れない。働き方の多様化もあり、日曜、祝日、夜間に働く母親も増えてきていて、認可保育園のサービスではカバーできない部分も出てきている。
認可外保育園の場合は、24時間保育や、日曜、祝日に預かってくれるところもあり、時間的な融通はきくが、所得に関係なく一律の保育料で、国や市区町村からの補助がない場合が多いので、認可保育園よりは高めになる。
民間のベビーシッターは、保育料が高め
保育園ではカバーできない時間に頼みたい、保育園に入っていない子どもを預けたい、という場合には、ベビーシッターを頼む方法がある。今回の事件の例は、個人でおこなっているベビーシッターだったが、一般的にベビーシッターサービスは、民間の企業が運営している場合が多い。利用する前に会員登録し、1時間あたり1500~2000円くらい、最低で2~3時間以上から頼め、プラス交通費が実費でかかる。
しかし、キチンとしているところほど、会員登録の際に入会金がかかったり、何日前までに予約をしないといけなかったり、保育料が高かったりということがある。急に入った仕事にはなかなか対応できないのである。
今回の事件のベビーシッターは、個人で行っているが、ベビーシッターのマッチングサイトに登録することで、利用者を獲得していた。ベビーシッター会社に依頼するよりも、安価で融通がきいたのではないかと思う。
会社員の場合は、ベビーシッター料金の割引が受けられる制度も
パパかママが厚生年金を納めている会社員の場合は、厚生労働省の助成事業で、こども未来財団が発行している「ベビーシッター育児支援割引券」が使える。これは、夫婦共働きの場合、自宅でベビーシッターを利用した料金が割引になる制度(対象は小学校3年生まで)。財団と契約したベビーシッター業者に頼む場合に限られるが、1日につき1700円の割引が受けられる。
割引券を利用したい場合は、まず、勤務先の会社がこども未来財団の認定を受けているかどうかを確認。割引券の申し込みは、個人ではなく、勤務先の会社が行うことになっている。認定後に申し込むと、割引券が勤務先に発券されるので、それを提示して利用する。
割引券は1日1家庭1回使用可能。1カ月に24枚まで、1年間に280枚までが上限。
この割引券は、厚生年金を納めている会社員でないと利用できないし、ベビーシッター業者も限られている。しかし、1日3時間程度民間のベビーシッターを頼むと5000~6000円かかるところ、1700円引きになるのは大きい。自分の場合は利用できないか調べてみよう。
自治体が行っているファミリー・サポート、ショートステイ
調べてほしいのが、自治体で実施している「ファミリー・サポート」だ。市区町村が主体となって設立する「ファミリー・サポート・センター」というところが、厚生労働省からの助成を受けて行っている。育児や介護などの援助を受けたい人と援助できる人が登録しておき、援助を受けたい人が利用を申し込むと近所のサポートできる人を紹介してくれる仕組み。
地域の助け合いが基本精神になっているので、民間のベビーシッターよりも保育料は安く、1時間あたり700~900円くらい。
この制度の問題点は、援助を受けたい人が圧倒的に多く、援助できる人が少ないため、利用したいときに確実に利用できるかどうかわからない点。さらに、自治体によっては設置されていない場合もあるということだ。
宿泊を伴う保育が必要な場合は、自治体が指定した施設で「ショートステイ」を実施している場合もある。ショートステイは、保護者が病気、出産、冠婚葬祭、出張などの理由で子どもの保育ができない場合に、一時的に預かり、食事、通園、通学などの援助をするものだ。原則として、年間7日以内としている自治体が多い。
これは、イレギュラーな場合を想定して作られた制度なので、定期的に夜に働く親向けにはできていない。
シングルマザーが困った時に頼れる母子生活支援施設
今回の事件のように、シングルマザーがひとりで子育てをしながら、家計を支えていくのは非常に困難だ。本当に困ったら、自治体へ相談してみよう。母子ともに入居できる母子生活支援施設に入所すること、子どもだけでも一時預かりしてくれる児童養護施設、シングルマザーへの生活費の貸付、割安な公営住宅への入居など、何か生活の問題を解決できる術がみつかるかもしれない。
頼れるのは、祖父母、兄弟などの親戚
子どもの預け先として頼れるのは、祖父母、兄弟などの近親者である。しかし、親子の断絶、核家族化の進行、祖父母の就業などの理由から、支援を望めないことも多い。もし、頼れる近親者がいるのなら、頼れる部分は頼り、同時に自分も手伝えるときには役に立とうという姿勢を持とう。
厚生労働省も、この事件を受けて、「ベビーシッターなどを利用するときの留意点」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/babysitter/)を発表した。このようなものにも目を通して、我が子の預け先は慎重に選びたいものである。
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり。