今夏の国会で成立した改正皇室典範が、10月24日に施行される。皇室史に詳しい島田裕巳さんは「その改正法はあまりに不備が多く、すでに再改正の必要性も指摘されている」という――。

地方公務で注目を集める愛子さま

改正された皇室典範が、10月24日に施行される。だが、その内容にはあまりに不備が多く、再改正の必要も叫ばれている。

再改正されたとき、果たして愛子内親王の天皇即位への道は開かれるのだろうか。今回は、それについて考えてみたい。

まず注目したいのが、愛子内親王の公務の広がりである。地方での公務が目立って増えている。その動きを順に見ていこう。

かつては「国体」の略称で親しまれた国民スポーツ大会が、今年、青森県で開催された。天皇をはじめ各皇族が大会の競技を観戦に訪れており、愛子内親王も10月12日から13日にかけて青森県を訪れ、軟式野球やフェンシング競技を観戦している。

その際には、八戸市埋蔵文化財センター是川これかわ縄文館を訪れ、父である今上天皇も観覧したことがある国宝の「合掌土偶がっしょうどぐう」を鑑賞している。ほかにもいくつかの場所を視察している。

水族館「とっとり賀露かにっこ館」に到着された天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2026年10月19日、鳥取市[代表撮影]
写真=時事通信フォト
水族館「とっとり賀露かにっこ館」に到着された天皇、皇后両陛下の長女愛子さま=2026年10月19日、鳥取市[代表撮影]

和やかな会話が広がる愛子さまの公務

さらに10月17日から19日にかけては、「防災推進国民大会」への出席などのため、今度は鳥取県を訪れている。短い間隔で続く地方公務である。倉吉市の鳥取県立美術館では、「ぼうさいこくたい」の一環として、災害時の避難所運営を考えるワークショップにも参加している。

鳥取砂丘も訪れ、鳥取の工芸品である「はこた人形」の工房にも立ち寄っている。そこでは、人形の絵付けも体験している。

ニュース映像では、その際に筆を使って細かな作業を行っているところが紹介された。眉毛が太くなりすぎたようで、担当者とのあいだでは、「眉毛のズレた部分はどうすれば良いですか?」「これはこれでオリジナルと思って頂ければ」「本当ですか? すごく無理をしてフォローしてくださってませんか?」といった和やかな会話がくり広げられた(BSS山陰放送、10月18日)。

どこの親でも感じるところだが、子どもが就職し、仕事で出張にでも行くようになると、一人前の社会人になったものだと感心するようになってくる。

今上天皇夫妻も、愛子内親王の地方公務の様子を知るにつれ、そうした思いにかられるであろう。

約1000人が空港で愛子さまを歓迎

たしかに、愛子内親王の最近の活躍はめざましい。11月には単独でのシンガポール訪問も予定されている。

愛子内親王が多くの公務をこなしているのは、皇族の数が全体として減少していることも一因になっているであろう。なにしろ愛子内親王は、皇族のなかで秋篠宮家の悠仁親王に次いで若い。公務において、さまざまな体験をすることは、若い世代にとって新鮮なことで、そこに喜びも見いだしやすい。

伊勢神宮参拝のため宇治山田駅に到着した悠仁さま(2025年9月7日)
伊勢神宮参拝のため宇治山田駅に到着した悠仁さま(2025年9月7日)(写真=リニー1佐/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

しかも、愛子内親王は各地で大歓迎を受けている。現代の皇室は、国民の広範な支持によって支えられている。鳥取空港では、約1000人がその到着を歓迎したという。

娘はしっかりと成長し、自分の後を託すことのできる人材に育っている。それ以外に父としての天皇が望むとしたら、娘を慈しんでくれる結婚相手が現れることであろう。これも親なら誰もが思うところである。

改正皇室典範が生む「親子の壁」

今回施行される改正皇室典範によって、令和の時代の皇室は、これまでにない新たな状況を迎えることになる。

しかし、今上天皇としては、今回の法改正について複雑な思いを抱かざるを得ないであろう。

愛子内親王が結婚した後、皇族としての身分を保ち続けたとしても、配偶者となる男性は、一般国民のままで皇族になるわけではないからである。現在の天皇の場合、皇太子であった時代に結婚しているが、配偶者となった現在の雅子皇后は、それを機に皇族となり、それからは、皇室の一員として数々の活動を展開してきている。

現代における結婚は、たとえ皇族であったとしても、結婚する当人同士に愛情がなければ難しい。ただ、皇太子の立場にあれば、皇太子妃を得ることで、その活動の幅を広げたい。併せてその思いもあったことだろう。

ところが、愛子内親王が結婚し、配偶者を得ても、そうはならない。さらには、その間に生まれた子どもも、父親と同様に、皇族にはなれないのだ。そこに生じるのは「親子の壁」である。

そんな中途半端な結婚を、娘にさせていいものかどうか。天皇としては深く悩むことであろう。実際にそうした事態になってみなければ、どういうことになるのかわからない。それについての国民の受け取り方も未知数である。

明らかな女性差別である改正皇室典範

いったい娘の配偶者にどう接していいのか。孫が生まれた場合、どう育てていいのか。これまで、代々の皇室が経験したことのない奇妙な「壁」が、そこに生まれることは避けられない。

天皇陛下の即位を披露する「祝賀御列の儀」で手を振られる天皇皇后両陛下(2019年11月10日)
天皇陛下の即位を披露する「祝賀御列の儀」で手を振られる天皇皇后両陛下(2019年11月10日)(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

当初、議論の対象になっていたように、配偶者や子どもにも皇族の身分を認める「女性宮家」の創設ということであれば、状況はわかりやすい。配偶者も子どもも皇族になり、皇室の一員として活動できる。天皇やほかの皇族としても、新しいメンバーとの接し方は、皇室に嫁いできた女性に対するものと同じになるだろう。

ところが、女性皇族の結婚後の身分保持のあり方は、明らかな女性差別になっている。それは、旧宮家からの養子が男性に限られているところにも示されている。今回改正された皇室典範は、徹底した“女性差別の産物”なのである。

この改正皇室典範に実質的な効果があるかどうかは、施行前からかなり疑問視されてきた。天皇も皇嗣こうしである秋篠宮も改正に疑問を持っているかのような発言をしており、そうした状況のなかで、他の宮家が養親となることは難しい。

まして、一般国民として生活してきた旧宮家の人間が養子になると手を挙げることは、事実上困難である。おそらく、養子は実現しない。多くの国民もそのように考えているはずだ。

早期の「再改正」が求められる可能性

内親王や女王の立場からしても、それまで皇族としての活動を積み重ねてきたわけで、結婚後もそれを続けることに生きがいを見いだしたいという思いはあるだろう。

しかし結婚後、皇室に留まったとしても、その立場はひどく不安定で中途半端である。ならば、結婚後は皇室を去り、一般国民として生活したほうがいい。そんな選択がなされても、一向に不思議ではない。

たしかに、戦後一度もなされなかった皇室典範の実質的な改正が実現したことは画期的である。だが、その内容にはあまりにも問題が多い。

改正の主眼となってしまった旧宮家からの養子が現れないことが、今後はっきりしたら、その再改正を求める声は、今以上に高まっていくはずだ。このままでは、皇室がなくなるかもしれない。そうした危機意識が共有されれば、政治家も再改正にむけて動くしかなくなる。

改正法の附則には、皇族数確保の状況などを勘案し、必要があると認められるときは、30年ごとに見直す規定が置かれている。ただし、30年を待たなければ見直せないわけではない。養子制度が機能せず、皇族数の減少を食い止められなければ、早期の見直しが求められることになるだろう。

「再改正」で愛子さまの即位は可能か

今回の改正では、現在の上皇が退位したときに問題になった、譲位の規定も盛り込まれず、十分な検討さえされなかった。再改正を行うとすれば、そうしたことも含め抜本的に見直さなければならない。

最も重要なのは、皇位の継承を男系男子に限るのではなく、「長子優先」に改めることである。

その際に、二つの考え方がある。一つは、今上天皇の後、秋篠宮から悠仁親王へという現状の皇位継承の順については変えず、その後の世代からそれを適用するという方法である。もう一つは、今の世代から適用する方法である。

つまり、制度を改める際には、現在の皇位継承順位を維持するかどうかが問題となる。現在の順位を維持し、新制度を次の世代から適用するのであれば、愛子内親王の即位への道は開かれない。

ここに「法の不遡及」という考え方がある。これは、「法の効力は施行前の事実にさかのぼって適用されない」という原則である。ただし、すでに誕生している皇族の将来の継承順位を変更することが、直ちにこの原則に反するわけではない。新制度をどの世代から適用し、現在の継承順位をどこまで維持するかは、改正内容や経過措置によって定めることになる。

だから「愛子天皇」も、可能なのだ。

弟から姉へと継承順位を変えた国の決断

実際、1980年にスウェーデンでいち早く、男女を問わず長子が王位を継承する「絶対的長子相続制」が導入されたときには、すでに誕生していた王女ヴィクトリアにも新制度が適用された。それまで継承順位第1位だった弟のカール・フィリップに代わり、姉のヴィクトリアが第1位となった。

息子が王太子の地位を失うことに、国王カール16世グスタフは異議を唱えたものの、王位継承にも男女平等を取り入れる形で、絶対的長子相続制へと改正された。国王もその後の声明で、娘のヴィクトリアが自らの後継者であることへの支持を明言している。

結婚パレードでのヴィクトリア王太子とダニエル王子(2010年6月19日、スウェーデン)
結婚パレードでのヴィクトリア王太子とダニエル王子(2010年6月19日、スウェーデン)(写真=Holger Motzkau/Papa Lima Whiskey/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

スウェーデンでは、王位継承のあり方は、憲法を構成する基本法の一つである王位継承法によって定められており、その変更は議会の議決によって行われる。王家が決めるわけではないのだ。

日本でも、皇位継承が憲法と法律によって定められる点は共通している。天皇の地位は憲法によって定められたもので、国民の総意に基づくとされる。皇位の継承についても、国会の議決した皇室典範の定めによるとされている。

実はそこに、先例さえある。

改正皇室典範に潜む「愛子天皇」の兆し

実際、これは悠仁親王の誕生前のことになるが、小泉純一郎内閣のもとで2005年にまとめられた有識者会議報告も、「女性・女系天皇」を認め、皇位継承順位を「長子優先」とするよう提言していた。この考え方が実現していれば、現在の天皇の次に、愛子内親王が継承する道が開かれていたことになる。

つまり、すでに誕生している皇族にも新たな継承原則を適用するという考え方は、当時の有識者会議でも示されていたのである。しかし、この提言に沿った皇室典範の改正は、実現しなかった。

今回の皇室典範の改正は、なんとしても愛子内親王の天皇への即位を阻むことを第一の目的としていたといえよう。そう考えると、「愛子天皇」の実現は遠のいたかのように見える。

しかし、養子案が不調に終わることは目に見えており、再改正は必須である。その点で、改正皇室典範の施行は、むしろ「愛子天皇」実現を促す可能性を秘めているのである。

天皇皇后両陛下と愛子内親王殿下(2022年12月23日)
天皇皇后両陛下と愛子内親王殿下(2022年12月23日)(写真=外務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)