高市首相がX投稿で“弱気な釈明”
去る9月5日、高市早苗首相が「皇室典範改正法」についてXに投稿した。先の国会で皇室典範の実質をともなう初めての改正をなしとげた手柄(?)を誇る内容かと思ったら、それとは正反対だった。典範改正への批判に対する懸命な言い訳だ。
一言でいえば「今回の皇室典範の改正で『女性天皇への道』は閉ざしていません! 誤解しないでください」という内容だった。だから、強気の「反論」というより、弱気な「弁解」の性格が強い。
私はこれまで、先ごろの皇室典範の改正は手順も中身も最低・最悪だったが、その内部に「女性天皇」「愛子天皇」につながる希望の種が埋め込まれている、と主張してきた。このたびの高市氏の投稿は、結果的に私の主張の正しさを裏付けてくれるメッセージにもなっている。
先月閉会した国会で成立した『皇室典範改正法』について「女性天皇への道を閉ざした」といったご意見を始め、様々なお声を頂いています。
— 高市早苗 (@takaichi_sanae) September 5, 2026
今回の『皇室典範』の改正が、「何を目的として行われ、何を変え、何を変えなかったのか」、改めてご説明したいと思います。…
「女性天皇への道を閉ざした」批判が痛かった
高市氏はまず「『皇室典範改正法』について『女性天皇への道を閉ざした』といったご意見を始め、様々なお声を頂いています」と書き始める。これは、典範改正(改悪)に多くの批判が寄せられた中でも、高市氏にとって「女性天皇への道を閉ざした!」という批判が、最も“痛かった”ことを示す。
強気で人の意見に耳を傾けないとされる高市氏も、女性天皇への国民の期待の高さは、さすがに無視できなかったようだ。
改正後の各種の世論調査でも、改正を「評価しない」という声や、引き続き「女性天皇」を求める声が多かった。
メディアも足並みを揃えて批判した(例外は産経新聞と世界日報ぐらいか)。何より典範改正を経て、内閣支持率の下落も目に見える形で表れた。
党内基盤が弱く世論の追い風だけが頼りの高市氏としては、事態を放置できなくなったのだろう。
しかし、高市氏が反論ないし釈明するのであれば、記者会見を開いて記者たちの質問にも答えながら、堂々と説明するのが筋だったはずだ。ところが例によって、Xへの投稿だけでお茶を濁した。この一方通行なやり方からは、記者たちが納得ゆくまで説明できる自信がなかった内心も、透けて見える。
釈明投稿のアウトライン
高市氏の釈明投稿のアウトラインは以下の通り。
②今回の改正の前提は「次世代の悠仁親王殿下までの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」ということ。そこに変更を加えない範囲内の検討にとどめた。
③有識者会議の報告書を受けて、国会において衆参正副議長のもとで、立法府として「議論のとりまとめ」がなされた。
④政府はその「立法府の方針」に従って、「皇位継承のあり方」については切り離し、もっぱら「皇族数の確保」を図ることを目的として、皇室典範改正に臨んだ。
⑤「女性天皇」は、切り離した「皇位継承のあり方」についての課題なので、今回は検討していない。しかし、未婚の女性皇族が婚姻後も身分を保持する制度を創設できたことは、養子制度とともに「大変重要な方策」だ。
⑥改正法では、附則第6条に見直し規定を設けたので、今後も「状況を踏まえて、必要な検討や見直しがなされる」
皇位継承は悠仁さままで「確定」しているのか
高市氏はいきなり①から大きくつまずいている。ここは重要な部分なので、全文を引用する。
高市氏は、「悠仁親王殿下までの皇位継承」が「既に確定している」と言う。その根拠は2つ。
(1)「立皇嗣の礼」と(2)皇室典範だ。
しかし、残念ながらどちらも根拠になり得ない。
傍系の「皇嗣」は暫定的
(1)立皇嗣の礼は、菅義偉政権当時、内閣の意思=助言と承認によって行われた国事行為だ(令和2年[2020年]11月8日)。これは、秋篠宮殿下が傍系の「皇嗣」でいらっしゃる事実を、改めて内外に宣明するだけの儀式だ。
次の天皇として即位されることが確定している直系の「皇太子」とは異なり、傍系の皇嗣はあくまで“その時点”で皇位継承が第1位という、暫定的・相対的な立場にすぎない(園部逸夫『皇室法入門』令和2年[2020年]、ちくま新書)。男系男子の制約があっても、直系の男子が生まれたら、傍系なので直ちに皇嗣でなくなる。
そのため、皇太子の時に行う「立太子の礼」のような儀式は、もともと挙行しないことになっていた(美濃部達吉『憲法撮要』改訂第5版、昭和7年[1932年])。
それなのに、政府は立皇嗣の礼という前代未聞のセレモニーを、わざわざ新しく作り出した。これはなぜか。
それによって、暫定的な皇嗣にすぎない秋篠宮殿下が、あたかも次の天皇として「確定」したかのような印象操作を狙ったから、としか考えられない。そのようなイメージを広く植え付ければ、女性天皇への期待感は遠ざかると見たのだろう。
しかし実態は、このセレモニーによって、何か秋篠宮殿下のお立場に変更があったわけではない。
「立皇嗣の礼」でも立場は変わらない
驚いたことに、立皇嗣の礼で天皇陛下が“秋篠宮殿下が次の天皇である”と宣言された、などと平気で虚偽を言いふらす者も現れた。だが、そんな事実はもちろんない(立皇嗣の礼での天皇陛下のおことばは宮内庁のホームページ参照)。
そこでは、傍系の皇嗣という暫定的・相対的な立場を確認したにとどまる。
そもそも近代以降の皇室制度では、何か儀式や手続きを経ることで「天皇」とか「皇太子」の地位につかれる、という仕組みにはなっていない。そうではなく、皇室典範(や“それと一体”の特例法)の規定に基づいて、遅滞なくそれらの地位につかれる。
したがって立皇嗣の礼についても、この儀式を経て、秋篠宮殿下が初めて皇嗣になられたわけではない。秋篠宮殿下は、この儀式が行われる前から皇嗣という暫定的・相対的なお立場であり、儀式の後も同じだ。
だから、立皇嗣の礼によって「皇位継承」が「既に確定している」という高市氏の言い分は、二重の意味で間違いだ。
皇位継承順序は皇室典範の改正次第
高市氏は別に、「悠仁親王殿下までの皇位継承」が「既に確定している」根拠として、(2)皇室典範を挙げている。これは首相である以前に、1人の国会議員の発言としても、あまりにもお粗末ではないか。
改めて言うまでもなく、皇室典範は法律だ。法律であれば、憲法に抵触しない限り、いかなる改正も可能だし、国会が将来それを改正する範囲を、あらかじめ限定することもできない。当たり前だ。
だから、憲法の「皇位は世襲」(第2条)という範囲内であれば、典範を改正して女性天皇を認めることも、女系天皇を認めることも、可能だ(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集(2)』平成29年[2017年])。
現在、側室不在の一夫一婦制で少子化なのに皇位継承資格を「男系男子」だけに限定するという、昭和戦後の皇室典範で“初めて”採用された、およそ伝統とも無縁で、持続可能性を期待できない無理なルールがある(典範第1条)。しかし、国会が良識を発揮すれば、いつでもその限定を解除できる。
それが解除されれば、典範の「直系長子」最優先ルール(第2条)によって、天皇皇后両陛下のご長女、敬宮(愛子内親王)殿下が皇位継承順位第1位、つまり皇嗣たる皇子=皇太子になられる(秋篠宮殿下は第2位に)。だから国会で自由な立法が行われる限り、悠仁殿下までの皇位継承が「既に確定」などとは、決して言えない。
高市氏の投稿の矛盾点
高市氏は投稿で、今回の典範改正は「次世代の悠仁親王殿下までの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないこと」を前提とした、と述べている。これは有識者会議報告書の論旨を紹介した部分だ。
しかし、「してはならない」というのは、言うまでもなく意思、主観的な価値判断を示す言い回しだ。客観的な事実として、皇位継承の流れが「既に確定」しており、もはやそれを変更することが不可能(できない)ならば、そこに「してはならない」という意思や価値判断を持ち込む余地はないはずだ。
高市氏が言っていることは、明らかに矛盾している。おそらく、「悠仁親王殿下までの皇位継承は……既に確定している」という部分は、政府の立場を逸脱して、本人の個人的な“思い込み”を書き込んでしまったのだろう。
しかし、「ゆるがせにしてはならない」という報告書の論旨を肯定的に紹介している以上、先の「確定」論は自ら撤回したに等しい。
施行前から「再改正」を示唆
このたびの皇室典範改正について、「男系男子」の原則を守った、と評価する人たちも少数ながらいる。しかし投稿を見ると、高市氏のスタンスは少し違う。
投稿では、今回は女性天皇について検討できなかったが、その手前の「『女性皇族が婚姻後も身分を保持する道』を初めて開くことができました」と胸を張っている。
あらかじめ検討課題から女性天皇を外したことについては、“皇位継承のあり方”というテーマをひとまず横に置いて、「急いで『皇族数の確保』を図らなければならない」という事情があったため、と言い訳している。つまり、積極的に女性天皇を排除する意図があったわけではない、と。
これは逆に言うと、改めて「皇位継承のあり方」を正面に据えて“急がずに”検討すれば、女性天皇という選択肢もあり得ることを、ロジックとしては否定していない。
とくに、投稿の最後に改正法の見直し規定(附則第6条)にわざわざ触れて、「必要な見直しがなされること」を強調しているのは注目に値する。「女性天皇への道を閉ざした」という批判に対する釈明を目的とする、今回の投稿全体の文脈に照らせば、「必要な見直し」は女性天皇を可能にする制度改正と受け取るのが自然だ。
改正法が10月24日に施行される前から、首相自身が早々と「再改正」を示唆せざるを得なかった事実は、今後の見通しに希望を抱かせる。
裏側に「男系男子」へのこだわり
ただし、高市氏の言い訳をいちいち真に受けるわけにはいかない。
内親王・女王方が婚姻後も皇室にとどまられた場合、改正法では配偶者もお子さまも「国民」とされる。夫婦も親子も身分が違う、皇室にも民間にも類例がない“異例の家族”を強制される。
本当に「皇族数の確保」が目的ならば、ご家族も皆さま「皇族」とするのが当然のはずだ。
一方の養子制度は、果たして適切な該当者(養親と養子)が現れるか不透明だ。それだけに、内親王・女王のご家族をあえて皇族に“しない”制度設計は、不自然すぎる。裏側に「男系男子」へのこだわりがあることは隠せない。
それでも、女性天皇を望む民意の高まりによって、高市氏は釈明を余儀なくされた。その釈明の中では、本心かどうかはともかく、女性天皇の可能性を示唆するほかなかった。
直系継承で「国民と苦楽を共に」
女性天皇への期待感については、上皇陛下が平成時代に「ゆくゆくは愛子(内親王殿下)に天皇になってほしい」とおっしゃっていたことが知られている(奥野修司氏『天皇の憂鬱』平成31年[2019年])。これは、単に孫が可愛いという、個人的な心情によるものではない。「国民と苦楽を共にする」という皇室にとって大切な精神が、確かに将来へと受け継がれるためには、“直系”による継承が最も望ましい、という皇室の方々の合意が背景にあるだろう。
9月2日に報じられた上皇陛下が葬儀の簡素化を望まれるお気持ちも、国民生活への影響を極力小さくしたいと配慮されてのことだ(読売新聞オンラインなど)。それも、ずっと以前からのお考えを踏まえたものだ(宮内庁は平成25年[2013年]11月14日に「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」を発表)。
天皇陛下は自ら敬宮殿下の「手本」となられ、また様々なご活動をご一緒されることで、自覚的に最高の“帝王学”を授けておられる(今年の天皇誕生日に際しての記者会見でのご発言など)。そのことが、敬宮殿下ご本人のお気持ちを前提としていることは、疑う余地がない。
皇室の合意は「愛子天皇」
秋篠宮殿下は平成から令和に時代がうつる時に、天皇ご一家と上皇上皇后両陛下により構成される「内廷」に加わって、直系に準じた位置付けになることを控えられた。傍系の表示である「秋篠宮」という宮号を、あえてそのまま維持されている。
この事実が端的に示すように、天皇陛下にお子さまがおられる以上、男女の性別に関わりなく直系による皇位継承を望んでおられると拝察できる。
現にこれまで、悠仁親王殿下の皇位継承を自明視した質問には、一度も正面から回答されていない。9月6日の悠仁殿下の20歳のお誕生日に際しても、宮内庁が「成年皇族としての自覚を持ち、皇室の一員としての役割をしっかり果たしていきたいという思いを新たにされたようだ」と発表したにとどまる。
そのほか、皇室の方々は上皇陛下の弟宮の常陸宮殿下も、寛仁親王妃の信子殿下も、高円宮家の久子妃殿下も、皆さま直系による継承を望んでおられるご様子が伝わる。
高市氏の思い込みによる「確定」論も、それと矛盾する主観的な「ゆるがせにしてはならない」論も、秋篠宮殿下ご本人をはじめ皇室の方々のお気持ちとは、かけ離れている。
今後、天皇ご一家のご活動を通じて敬宮殿下への人々の共感がさらに広がる一方、養子制度が“空振り”に終わったり、それへの違和感や反発がより強まったりすれば、「女性天皇」「愛子天皇」への期待はますます高まる。
皇室典範の再改正も、すでに高市氏本人が示唆したように、意外と早く視野に入ってくるかもしれない。