相続税軽減のために、非課税で生前贈与するメリット

これから、私立中学・高校・大学も受験シーズン佳境となる。受験生はラストスパートの時期だが、インフルエンザが流行ってきたと聞くと、受験生を持つ親は気が気ではない。もうひとつ、親にとっての気がかりは、受験料・入学金・授業料・制服代など、進学のために必要な費用だ。公立でもまとまったお金が出て行くのに、私立となると桁違いの金額が必要になるのが一般的だ。

祖父母など(親、曽祖父母も含む直系尊属)から30歳未満の孫(子、ひ孫も含む)へ教育資金を一括で贈与した場合、1500万円までの贈与税が非課税になるという特例が、2013年4月1日から始まっているのをご存知だろうか。通常、1500万円の贈与を行った場合の贈与税は、470万円かかる(2014年末までの贈与の場合)。しかし、この特例を使えば、贈与税はゼロ。ただし、贈与する相手は30歳未満の孫、ひ孫などに限られ、贈与されたお金の使い道も教育費に限られる。2013年4月1日から2015年12月31日まで限定で適用される制度だ。

2015年1月1日以降の相続分からは相続税の制度変更で基礎控除が引き下げられて課税対象者が増え、相続税は実質増税になる。そのため、相続税がかかりそうな場合は、できるだけ資産を減らしておいたほうが、相続税を軽減できるのだ。祖父母の世代は相続税を減らす目的で孫に教育費を出すことで、親(=祖父母の子ども)世代の教育費負担を減らすことができる。住宅ローンの支払いがあり、教育費がかさみ、自分たちの老後資金がなかなか貯めにくい親世代にはありがたい制度である。

塾や習い事のための教育費は500万円まで

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教育資金の対象となるもの

学校などに直接支払われる入学金・授業料・施設設備費・修学旅行代金・学校で使う教材費などは1500万円まで、学校以外の教育サービスに対して支払われる学習塾や予備校の授業料・テキスト代・習い事の月謝などは500万円までが非課税枠になり、このふたつの合計で1500万円までが非課税になる。授業料の高い私立に小学校から通わせる場合や、大学で医学部に通う場合などは、学校に払う費用だけで1500万円を超えるかもしれないが、一般的にはそれほどかからない場合が多い。どちらかというと、学習塾や習い事の費用のほうがかさみがちになるので、こちらに500万円までの枠を使い、学校教育費に1000万円までの枠を使う場合が多くなりそうだ。

実際にこの制度を利用する場合は、信託銀行の「教育資金贈与信託」か、都市銀行・地方銀行などの教育資金贈与対応預金などを使うことになる。贈与したお金をいずれかの金融機関の専用口座に入金し、金融機関を通して「教育資金非課税申告書」を税務署に提出することで、非課税のメリットが受けられる仕組みだ。教育資金贈与の専用口座は、孫1人につき1口座限定。2つ以上持つことはできない。

専用口座は、教育資金を受け取る孫の名義となり、孫自身か親が教育費がかかるたびに口座からお金を引き出す。その際、学校や学習塾などから発行された領収書が必要になる。

子どもが30歳になるまでに使い切れ!

最初に一括贈与したものを、教育資金を使うたびごとに領収書を提出して引き出していき、孫が30歳に到達したときに口座に残っている分には贈与税がかかることになる。贈与を受ける時点での教育費を使う孫の年齢や、どのような進路を選択するかで使いきれる教育費の額は変わってくる。残ってしまうと贈与税がかかるので、だいたい必要な金額を計算して贈与してもらうのが賢い使い方だろう。

1500万円の範囲内で追加で贈与したい場合は、2015年12月31日までならOK。教育費以外の引き出しは課税対象となる。1人の孫に対して1500万円までなら、複数人が贈与することも可能。

制度の適用期間は2015年12月31日までだが、金融機関で専用口座を作る手続きが必要になるので、ギリギリの申し込みは避けたいところ。相続税対策をしておいたほうがよさそうなら、早めに親に提案してみよう。普段はなかなか話を切り出しにくい相続問題だが、孫への教育資金贈与という前向きな制度を話し合うことがきっかけになって、相続対策を考えることができれば、とても有意義なことである。

制度に振り回されない教育費の使い方を

相続税負担を減らし、親世代の教育費負担を軽くする制度として活用するメリットはあるが、制度自体に振り回されて孫が必要のない教育を無理に受けさせられることにもなりかねない。いくら資金があるといっても、意味のない教育費をかける必要はないということは肝に銘じたい。孫が本当に学びたいことで、将来のためになるお金の使い方ができれば、非課税贈与のメリットも大きい。

また、お金を出すと口も出したくなるのが人の心情である。祖父母の世代、親世代と違う世の中を孫である子どもたちは生きている。自分たちの時代の常識で教育を押し付けるのも、ミスリードの場合が多くなる。年長者としてアドバイスすることは必要だが、この制度で贈与された教育費が、若者の将来を尊重した方向で使われることを願うばかりだ。

フリーライター 生島典子(いくしま・のりこ)
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり。