容姿が恋愛や就職、収入に影響することが知られている。拓殖大学教授の佐藤一磨さんは「1万6000人を28年にわたって追跡した最新の研究によると、容姿の影響は恋愛や年収にとどまらず、寿命にまで及ぶ可能性が見えてきた。見た目で人を判断してしまう社会のあり方を見直すべきだ」という――。
メイクをする女性
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容姿と昇進、生涯年収の関係

私たちは普段、「人は見た目ではなく中身が大切だ」と教えられてきました。

ところが現実には、「見た目」が人生を大きく左右していることを示す研究が数多く報告されています。

例えば恋愛です。容姿に恵まれた人ほど交際相手を見つけやすく、結婚もしやすいことが知られています。

さらに、その影響は恋愛だけではありません。

これまで経済学や社会学の研究では、容姿の良い人ほど高い賃金を得やすく、生涯年収も高くなる傾向が報告されてきました(*1)。また、中国の地方自治体を対象とした研究では、容姿が上位20%の美形の人は、平均的な人の約1.7倍昇進しやすいことも明らかになっています(*2)。これらの現象は「ビューティー・プレミアム」と呼ばれています。

一方で、容姿が平均より低く評価された人は、能力とは無関係に低い評価を受けたり、賃金面で不利益を被ったりすることも明らかになっています。

つまり、見た目は恋愛や仕事だけでなく、人生そのものに大きな影響を与えているのです。

影響はさらに先の領域へ

ところが近年、この「見た目格差」はさらに深刻な領域にまで及んでいることが分かってきました。

それは、「寿命」です。

最新の研究では、若い頃の容姿評価と約30年後の死亡リスクとの間に、無視できない関連が確認されました。

なぜ見た目が寿命にまで影響するのでしょうか。

今回は、約1万6000人を28年間追跡した最新研究を解説します。

28年間追跡した大規模研究

この疑問に挑んだのが、ポーランド科学アカデミー哲学・社会学研究所の社会学者グジェゴシュ・ブルチャク博士です(*3)

博士が用いたのは、米国政府が実施している全米規模の長期追跡調査です。調査は1994〜95年、思春期の中高生を対象に始まり、2022年まで実に28年間にわたって追跡が続けられました。

分析対象は約1万6000人。この間に亡くなった人の記録と、若い頃の容姿評価を照らし合わせることで、「見た目」と死亡リスクとの関係を検証しています。なお、ここでの死亡は死因を区別しない「全死亡」を対象としています。

この研究の特徴は、「自分で評価した容姿」を使っていない点です。

家庭訪問を行った訓練済みの調査員が、対象者の容姿を5段階で評価しており、「社会からどのように見られていたか」を反映した客観的な指標が用いられています。

自己評価には「自分を実際より魅力的だと思う人」や「必要以上に低く評価してしまう人」が含まれますが、この研究ではそうした心理的な偏りをできる限り排除しています。

では、その結果はどうだったのでしょうか。

容姿と死亡率の関係

分析結果は、多くの人の予想を上回るものでした。

思春期(平均15〜16歳)に「容姿が魅力的でない」と評価された人は、「魅力的」と評価された人に比べて、28年間(40代前半)で死亡するリスクがおよそ1.6倍に達していたのです。分析期間中に死亡してしまった方は全体で706名だったのですが、そこに容姿の影響があったわけです。

鏡で自分の姿をチェックする女性
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一方で、「平均的な容姿」と評価された人と「魅力的」と評価された人との間には、統計的に明確な差は確認されませんでした。

つまり「容姿が魅力的だから長生きする」のではありません。

むしろ、一定の水準より低く評価された人だけが、大きな健康上の不利益を受けている可能性が浮かび上がったのです。

これに加えて、論文ではさらにもう一歩踏み込んだ分析を行っています。

本当に死亡リスクが高かった属性

ブルチャク博士は、男女を分けて分析したところ、さらに意外な事実を発見しました。

外見と寿命の関係がはっきり確認されたのは、「女性だけ」だったのです。

容姿が「魅力的でない」と評価された女性は、「魅力的」と評価された女性に比べ、死亡リスクが1.91〜1.98倍と約2倍に達しました。

一方、男性ではまったく異なる結果となりました。見た目の良し悪しと死亡リスクとの間には、統計的に意味のある違いは確認されなかったのです。

つまり、この研究では、男性は容姿だけで寿命が左右されるとは言えませんでした。

「見た目」が寿命を左右する2つの背景

ブルチャク博士の分析が示すように、見た目が魅力的ではない人の死亡リスクが高く、この影響は特に女性で顕著であることがわかりました。

このような差はなぜ生まれたのでしょうか。

ブルチャク博士は、この点に関して大きく二つの理由が考えられると説明しています。

① 見た目が健康状態を反映

一つ目は、見た目そのものが健康状態を映し出している可能性です。

ブルチャク博士によれば、外見の魅力は単なる好みの問題ではありません。

思春期の外見には、ホルモンバランスや免疫機能、慢性的な炎症など、その人の体の状態がある程度反映されている可能性があります。

つまり、「魅力的でない」と評価される背景には、まだ病気として診断されるほどではないものの、健康上の不具合が隠れているかもしれないというのです。

もしこの仮説が正しければ、見た目は単なる顔立ちではなく、「健康状態のサイン」の一つということになります。

② 社会から受けるストレス

しかし、それだけでは女性だけ死亡リスクが高かった理由は説明できません。

そこで二つ目の理由として考えられるのが「社会から受けるストレス」です。

心理学には「ハロー効果」と呼ばれる現象があります。外見の良い相手に対して、「仕事もできそう」「誠実そう」「健康そう」といった好意的な印象まで無意識に抱いてしまう心理現象です。

この結果、学校や就職、職場、人間関係など、人生のさまざまな場面で外見の良い人は有利な扱いを受けやすくなります。

学校の教室の席でスマホを使用する女子学生
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反対に、そうでない人は、冷たい態度や拒絶、不当な低評価を繰り返し経験することがあります。

こうしたストレスが何年、何十年と積み重なると、体内ではストレスホルモンであるコルチゾールが慢性的に分泌されます。

その結果、炎症が続き、高血圧や糖尿病、心血管疾患、さらにはうつ病などのリスクを高め、寿命を縮める可能性があるのです。

特に女性は、男性以上に「美しさ」を求められる場面が多く、外見への評価も厳しくなりがちです。だからこそ、外見によるストレスがより深刻になり、それが死亡リスクの差として現れた可能性があると考えられます。

【図表1】「見た目」が寿命を左右する2つの背景
グジェゴシュ・ブルチャク氏の研究を基にClaudeを用いて編集部作成

「美しくなるための行動」が健康を損なう

ここまで読んで、「それなら美容整形やダイエット、化粧で見た目を良くすれば、死亡リスクも下げられるのではないか」と思った人もいるかもしれません。

しかし、ブルチャク博士は、その発想そのものに警鐘を鳴らしています。

論文では、極端なダイエットや危険な美容整形、不適切なサプリメントやステロイドの使用など、「美しくなるため」の行動が、かえって健康を損ない、寿命を縮める可能性があると指摘しています。

また、時代によって「美しさ」の基準は大きく変化してきました。

かつては豊かさの象徴だった体形が、現代では健康リスクと見なされることもあります。逆に、極端な細さや過度な筋肉も、医学的には必ずしも健康的とは言えません。

つまり、「社会が求める美しさ」に自分を無理に合わせようとすること自体が新たな健康リスクを生み出してしまう可能性があるのです。

見た目を変えようとして、かえって寿命を縮めてしまっては本末転倒でしょう。

本当に変えるべきものは何か

ブルチャク博士の研究は、「見た目が悪い人は早死にする」と単純な結論を導くものではありません。

この研究が示しているのは、外見によって受ける評価やストレスが、長い年月をかけて健康や寿命にまで影響を及ぼしている可能性です。

もしそうだとすれば、本当に見直すべきなのは、「見た目」で人を判断してしまう社会のあり方ではないでしょうか。

〈参考文献〉
(*1) Hamermesh, D. S. (2011). Beauty pays: Why attractive people are more successful. Mobius, M. M., & Rosenblat, T. S. (2006). Why beauty matters. American Economic Review.
(*2) Ling, L., Luo, D., & SHE, G. (2019). Judging a book by its cover: The influence of physical attractiveness on the promotion of regional leaders. Journal of Economic Behavior & Organization, 158, 1–14.
(*3) Bulczak, G. (2026). Physical Unattractiveness and Mortality in the United States. Applied Research Quality, Life