※本稿は、板倉京『女税理士が教える 女性のための自分の資産のつくり方』(BOW BOOKS)の一部を抜粋・再編集したものです。
財産分与のルールが改正された
2026年4月。財産分与にまつわるルールが、見直されました。おもな変更は3点。
①「財産を開示するように」と裁判所が命令できるようになった
これまでは、「財産がもっとあるはず」と思っても、相手がしらを切り通せば、探し出すことが困難でした。それが、新しい法律では、調停や審判といった手続きの中で、家庭裁判所が「財産情報を開示しなさい」と命令を出せるようになりました。
正当な理由なく命令に従わなかったり、事実と違う情報を出したりした場合には、過料という金銭ペナルティの対象になります。
②財産分与の請求期限が「2年→5年」に延びた
離婚協議は、感情的にも体力的にもクタクタになる作業。「とにかく早く終わらせたい」と、財産のことは深く調べないまま判を押してしまう人もいます。
ところが落ち着いてから、「あれ、夫の退職金は?」「あの預金は?」と気づくこともある。これまでは、離婚成立から2年を過ぎたら、財産分与の請求ができませんでした。それが5年に延びました(※)。
※施行日(2026年4月1日)前の離婚は、2年以内のまま。
③「2分の1ルール」が、法律に明記された
「婚姻中に築いた財産は、原則として夫婦で半分ずつ」。これは、判例の積み重ねで定着したルールで、法律で決まっていたわけではありませんでした。
それが改正で、「夫婦の寄与の程度が異なることが明らかでないときは、対等(2分の1ずつ)とする」と、法律に明記されました。
「財産を隠しているな」に使える一言
ただし、こうした新しいルール、とくに①の財産開示命令ができるのは、財産分与の調停や審判を家庭裁判所で行う場合です。話し合いで円満離婚しようというなら、裁判所の開示命令を使う場面にはなりません。
「じゃあ、意味ないじゃない」というわけでもありません。
たとえば、どうも夫が財産を隠しているな、と思った場合、「隠している財産があるなら、家庭裁判所で開示命令してもらうけど、いい?」と言える。実際に裁判所まで行かなくても、「家庭裁判所で開示命令ができる」と知っていること自体が、交渉の場では役に立つわけです。知識は、武器です。
でも、結局いちばん大事なのは、日ごろから夫婦の財産を把握しておくことです。
仲の良いうちから、相手の財産も把握し、記録を残しておく。離婚がちらつくような関係になってからでは、相手の財産把握は難しくなります。今から万が一に備えて、しっかり財産把握をしておきましょう!
夫1700万円、妻300万円の場合
ここで、財産分与のイメージを、数字で見ていきます。
離婚時の財産が、次のようになっていたとします。
夫名義の財産 1700万円
妻名義の財産 300万円
合計すると、夫婦の財産は2000万円。
財産分与で、これを2分の1ずつに分けると、ひとり1000万円。夫から妻に、700万円を渡すと、それぞれ1000万円となります。これが財産分与の考え方です。
基本的に、財産分与に贈与税はかかりません。
妻のほうが稼いでいて、妻名義の財産のほうが多いケースなら、妻から夫に渡すことになります。
余談ですが、妻のほうが稼ぐと、夫がモラ夫化・DV夫化するという話はよく聞きます。私の友人たちにもそのような経験をした人がいますが、「あんなに嫌な思いをさせられたうえに、私の財産を持っていかれるのは我慢できない」と弁護士を入れて戦っていました。
自分の財産を守る「特有財産」
少しでも受け取る金額を増やしたい、渡す金額を抑えたいなら、知っておくべきことがあります。知っているかどうかで、手元に残る金額が何百万円単位で変わることもある。ここからはその話をします。
財産分与の対象になるのは、婚姻期間中に築いた財産だけ。結婚前から持っていた財産や、相続・贈与でもらった財産は「特有財産」といって、原則財産分与の対象になりません。
「そんなこと知っているわ」という人は多いと思います。
でも、知っているだけではダメです。
問題は、いざというとき、「共有財産」だと判断される可能性があることです。「特有財産」であると証明できなければ、財産分与の対象にされてしまうこともあるのです。
結婚前に300万円の預金があった。親から1000万円を相続した。どちらも、本来は特有財産です。
でも、そのお金を普段使っている生活費口座に入れて、給料や生活費と混ぜてしまえば、どこまでが特有財産か、見分けがつかなくなります。
離婚のときに「これは相続したお金です」と言っても、「では今残っている残高のうち、どこまでがその分ですか?」と問われて、証明できなければ財産分与の対象に入りかねません。
株や投資信託も同じ。相続でもらった、結婚前に持っていた、そんな株や投資信託を売って、生活費口座に入れてしまえば、出どころは追えなくなる可能性があります。
「特有財産」を守りたいのなら、婚姻後の生活費口座に混ぜないこと。証明できるように、記録を残して、たどれるようにしておくこと。これが大事です。
「夫から贈与された不動産」が特有財産に
本書で、家事負担分を贈与でもらおうという話をしましたが、夫からの贈与は、基本的には、夫婦の「共有財産」と見なされるそうです。「特有財産」は、夫婦の協力とは無関係に築いた個人の財産を指すので、家事負担分を贈与でもらったのであれば「共有財産」だ、というのも納得です。
ただし、夫婦間で妻(または夫)の専用の財産であると合意した場合は「特有財産」とすることができます。
過去に面白い判例がありましたので、紹介しておきます。
元夫が婚姻期間中に、元妻に贈与した不動産は、実質的な共有財産であると主張したのに対し、元妻はこの贈与は元夫の不貞行為の慰謝料の趣旨でなされたものであるから上記不動産は元妻の特有財産であって財産分与の対象とはならないとして争った件です。
裁判所は、これを「本件贈与は、妻が夫による不貞行為を疑い、現に夫による不貞行為を疑われてもやむを得ない状況が存在した中で、妻の不満を抑える目的でされたものであることからすると、婚姻継続中ではあるものの、確定的にその帰属を決めたもので、清算的要素をもち、そのような場合の当事者の意思は尊重すべきであるから、本件贈与により本件各不動産は妻の特有財産になったと認めるべきである。」(※)とし、財産分与の対象とならないと判断しました。
※大阪高裁平成23年2月1日決定(家庭裁判月報64巻1号80頁)
浮気がバレた夫が、妻に慰謝料代わりに贈与した不動産は、妻の特有財産となったそうです(笑)。
見落としやすい4つの財産
次は、「財産分与の対象だ」と知らずに、見落としやすい財産についてです。
代表的なものを4つ紹介します。
①退職金
離婚したあとに「夫の退職金のことを忘れていた」と気づく。離婚の現場では、よくある話です。退職金は、まだ受け取っていなくても、将来受け取る見込みが高ければ、財産分与の対象になります。
対象になるのは、婚姻期間に対応する部分です。
夫の将来の退職金が2000万円の見込みで、勤続年数の半分が婚姻期間だったとします。婚姻期間に対応する退職金が約1000万円だとすると、その半分の約500万円が、財産分与で請求できる目安です。
退職金は、そもそもの金額が大きいので、忘れてしまうと大損です。
②年金分割
将来もらう年金も、財産分与の対象です。
とはいっても、「夫の年金が半分もらえる」わけではありません。
分割されるのは、婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)の保険料納付記録分だけ。実際に受け取れるのは、自分自身が65歳以降になってからです。
離婚での年金分割が始まったのは、2007年。当時メディアが大きく取り上げ、熟年離婚ブームが起こりました。でも実は、年金分割による増加額は、平均で月約3万円だそう。年間で約36万円。これだけで老後を暮らせる金額ではありません。
メディアに踊らされて離婚してしまった人がいたとしたら、大変な思いをしているのではないでしょうか。
ただ、月3万円だとしても、積み上がれば大きな金額になります。
仮に、65歳から90歳まで25年間受け取れば、月3万円でもトータルで900万円。もらい損ねていい金額ではありません。
請求期限は、離婚後5年以内(2026年3月31日までの離婚は2年以内)。
期限を過ぎると、権利が消滅します。もし、最近離婚したという知り合いがいたら、ぜひ教えてあげてください。
③生命保険
生命保険も、婚姻中に保険料を払っていたなら、離婚時点での解約返戻金相当額が財産分与の対象です。払っていた保険料まで財産だなんて思わなかった、という人もいますが、終身保険や個人年金などの解約返戻金は数百万単位以上になっているものもあります。こちらも忘れずに請求したいところです。
④iDeCo・企業型DC(確定拠出年金)
特に、うっかり見落としやすいのが、これ。
「老後のお金」「年金みたいなもの」という感覚で、財産分与の対象だと意識していない人が多いですが、婚姻中の積立分や運用益は、共有財産。ケースによって扱いは異なりますが、基本、きちんと請求できます。
しつこいようですが、財産分与で、見つけられなかった財産は、なかったのと同じです。
そして、離婚の雰囲気が出てくると、夫の財産を把握するのは難しくなります。
夫がどこに口座を持っているか。どんな保険に入っているか。退職金はいくら見込めるか。iDeCoや企業型DCをやっていないか。
ふだんから把握しておくことが、いざというとき自分を守ってくれます。
