自民党の中曽根弘文参院議員が愛子さまについて「結婚する人がいない」などと発言し、波紋を広げている。コラムニストの矢部万紀子さんは「愛子さまに『男性のお子さんを産まなければならないプレッシャーがかかる』と言うなら、それは悠仁さまの将来の結婚相手にも同じようにかかる。男系男子に固執する政治家たちは、その自己矛盾に気づいていないのだろうか」という――。
皇居正門前に架かる「二重橋」
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“男系男子”推しに、女性皇族方を思うと胸が苦しくなる

2026年6月30日午後、政府は臨時閣議を開き、皇族数の確保に向けた皇室典範改正案を決定した。そう伝えるニュースを見た後に空を見上げたら、満月だった。ああ、麻生太郎・自民党副総裁は今、「この世をばわが世とぞ」思って月を見ている。本当にどんよりした。

(参考:衆議院「皇室典範等の一部を改正する法律案要綱」)

「旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎え、女性皇族は結婚後も皇族の身分を保つ」案だ。養子となった男系男子に皇位継承権はないが、養子の子については、皇位継承順位を記した皇室典範2条の適用を「実方(養子の実家)の系統によるものとする」と記述。継承資格があることを明確にした。

一方、女性皇族が一般男性と結婚した場合、住民基本台帳を適用する。天皇、皇族の「皇統譜」とは別にする「二流の皇族」扱いだと指摘されている。しかも配偶者や子の身分についての記載がない。「一般国民のままにする」意志を埋め込んでいると解説されていて、つまりは露骨なまでの男系男子推し。

女性皇族方は今、どんな気持ちでいるだろう。考えると、こちらの胸が苦しくなる。盛り下がりまくりのわが心。少し話を変えてみる。

中曽根氏に「少し落ち着いて考えろ」と言いたい

リリー・フランキーさんと言えば、今や渋くてイケてる俳優だが、その昔はイケてるイラストと文章を書く人だった。その両方が堪能できる名著『日本のみなさんさようなら』は、「ぴあ」で連載していたコラム「あっぱれB級シネマ」をまとめたものだ。

「幽霊屋敷の恐怖・血を吸う人形」というホラー映画はどうにもすごい映画らしく、リリーさんは〈“ちょっとコレはどーゆーことになってるんだ⁉”の嵐〉と書いている。で、こうも書く。

〈まぁ、落ち着け。ちょっとじっくり話しよかと肩をたたきたくなる。殺人鬼も吸血鬼も気持ちは解る。しかし、少し落ち着いて考えろと言いたい〉

おまえのことだよ、中曽根弘文! まぁ、落ち着け。ちょっとじっくり話しよか。男系男子が好きなのは解る。しかし、少し落ち着いて考えろ! そう言いたい。

というわけで、思わず20世紀に読んだ本を思い出したほど、ツッコミどころ満載の中曽根発言についてだ。

富山県高岡市での講演(6月28日)だ。「(愛子さまによる皇位継承は)あり得ないんですよ」「愛子さまが天皇陛下になったら大変です。(愛子さまと)結婚する人がいないですよ。いるかもしれませんけど、基本的には難しい。そして、愛子さまも男性のお子さんを産まなきゃならないっていうすごいプレッシャーがかかる」。と、こんな発言だった。

話の前後から、彼の言いたかったのは「愛子天皇の支持率が7割というが、愛子さまの人気をあおっているマスコミが問題だ。皇位継承は人気投票ではなく法律に則ってやるべきだ」ということのようだ。

(参考:テレ朝NEWS「『結婚する人いない』愛子さま巡る発言“波紋”中曽根氏の真意は?」)

悠仁さまの結婚相手にも「プレッシャーがかかる」

「愛子天皇の支持率」ではなく、「女性天皇を容認する人が7割くらいいる」という話で、これも「まぁ、落ち着け」だ。中曽根さんは、皇族数確保に関する衆参両院の全体会議に出席していた自民党代表者の一人だ。そういう立場の人が、それくらい愛子さま人気を意識している。その証しでもあるだろう。

この発言が報道された翌日、中曽根さんは自民党本部で「皇室典範を根本的に変えれば別だが、今の皇室典範や国会の議論において愛子さまが天皇陛下になることはないということを申し上げた」と釈明したそうだ。え、自民党はこの間、皇室典範を根本的に変えようとしてきましたよね、と7割くらいの人が思ったはずだ。とにかくこの人、天然なのか確信犯なのか、「まぁ、落ち着け。ちょっとじっくり話しよか」のオンパレードなのだ。

自民党本部で記者団の取材に応じる中曽根弘文憲法改正実現本部長=2026年6月29日午後、東京・永田町
写真提供=共同通信社
自民党本部で記者団の取材に応じる中曽根弘文憲法改正実現本部長=2026年6月29日午後、東京・永田町

「結婚する人がいない」への釈明は、「世間の期待が高く、個人的な心配を述べた」のだそうだ。なぜ愛子さまだけが心配なのか、悠仁さまはもとより、旧宮家からの養子だって、「結婚する人がいない」リスクはすごく高いだろう。その理由ははっきりと、「男性のお子さんを産まなきゃならないっていうすごいプレッシャーが(結婚相手に)かかる」から。

悠仁さまも旧宮家からの養子もそこに生まれた男子も、結婚相手にプレッシャーがかかるのは自明で、その根本原因たる「男系男子による皇位継承」を激しく推し進めようとしているのは自分たち。ということがわかってないとしたら、そちらの方が不思議だ。

高市政権はガン無視、維新もあっさり合意

ただし私の中で、中曽根さんがMVPになるかもしれないという期待もあった。愛子さまという一人の若い女性(24歳だ)の結婚について相手がいるだのいないだの、何の関係もない一人の老人(80歳だ)が口を出す。余計なお世話を通り越し、失礼極まりないから国民の怒りも爆発し、さすがの高市政権も皇室典範改正をためらったりするのでは、と思ったのだ。

SNS上では「中曽根議員は辞職すべき」といった投稿も飛び交い、国民の怒りは爆発していた。が、高市政権はガン無視で、唯一の波乱要因は自民と連立を組む日本維新の会だった。

「養子の年齢は15歳以上」という改正案に反対、「制限をなくすべき」と主張していると報じられていた。「どっちにしたって養子案はあり得ないけど、身内同士でゴタゴタしているうちに改正案が流れちゃう?」と夢想したりしていた。が、麻生さん(と小林鷹之政調会長)と会談した維新の藤田文武共同代表はあっさり「15歳以上」に同意、30日午後には閣議決定されてしまった。ボスに呼ばれたら、すぐ改心。維新、へなちょこすぎる。

(参考:朝日新聞「皇室典範改正案を今夕閣議決定へ 麻生氏と藤田氏が原案どおりで合意」)

中曽根氏の父・康弘さんは「女性天皇容認だった」

中曽根発言後のSNS投稿を見ていたら、名古屋大学大学院教授の河西秀哉さんが「父親の中曽根康弘は女性天皇容認だったのですよね」と投稿していた。最近書いた論文で言及したそうだ。調べてみたら、愛子さまが生まれた翌日、2001年12月2日の朝日新聞が「与野党から女帝論再浮上 皇室典範の改正求める声」と報じていた。中にこうあった。

〈自民党の中曽根康弘元首相は、東京都内のホテルで記者団に「現代は男女共同参画社会で、憲法上も男女平等だ。(男性天皇に)こだわる必要はない。私は前から女帝も認めたらどうかと言っている」と述べ、国会の憲法調査会で具体的に検討するよう求めた〉
中曽根康弘氏
中曽根康弘氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

悠仁さまが生まれる前の話だ、と弘文さんは言うかもしれない。だけど今だから、この発言のまっとうさが際立つ。側室制度を否定して男系男子による皇位継承を維持するのは、しょせん無理なのだ。だけど政府も国会も、悠仁さまが生まれたことにあぐらをかいてきた。そして選挙で自民党が圧勝するや否や、「旧宮家の男系男子養子案」を強引に進めた。そんなの「国民の総意」ではない、というのが国民の総意だろう。当時、康弘さんは83歳。今の弘文さんより3つ上だ。

「これからも女性は下です」という宣言になる

冒頭で政府は「皇族数の確保に向けた皇室典範改正案」を決定したと書いたが、事実上「男系男子絶対!」方向での皇位継承改正案だ。いつの間にか、ぬるっと進める自民党。卑怯なり!

先述した河西さんが原武史・明治学院大学名誉教授と改正案について語っている(「週刊ポスト」7月10日号)。閣議決定前の対談だが、河西さんが世論調査で7、8割が女性天皇を容認していることについてこう語っていた。

〈その根底には、「首相が女性なのになぜ女性天皇はだめなのか」という疑問を持つ人が増えていることがあると思います。女性が天皇になれない今の皇室制度は男尊女卑の象徴のように見えるのかもしれません〉

全くその通りだと思うと同時に、この感覚、今を生きる女性皇族方も持っていると思うのだ。女性を下に見ることがわかっている組織で、愛子さまをはじめ女性皇族方は懸命に働いてきた。この国会で皇室典範が改正されるということは、「はい、これからも女性は下です」と内外に宣言することになる。

皇室典範改正法案の要綱を見ると、必要があると認められるときは「三十年ごとに見直しが行われるものとする」と書かれている。30年後? 愛子さまは54歳、佳子さまは61歳になっている。それまでずっと「女性は下」の組織に残れって?

国民統合の象徴ではなくなってしまう、不幸な法律案

もし仮に、これが私の所属する組織での動きだったら、「冗談じゃない、さようなら」と退職の準備を進めるだろう。だが、女性皇族方にそういう選択ができるだろうか。経過措置として、今の女性皇族方は結婚と同時に皇族の身分を離れることもできると要綱にはある。無理して働いているのなら、そういう選択肢もあるかもしれない。が、河西さんは対談でこんなふうに語っている。

〈娘も含めた親子3人で活動するのが令和のスタイルであり、愛子内親王もその一部として歩んでいく覚悟を持っているのではないでしょうか〉

弘文さんは「皇位継承は人気投票ではない」と言っていた。が、愛子さまの「覚悟」が伝わってくるから、愛子さまは人気があるのだ。天皇にふさわしいと判断しているのだ。それなのに、わざわざ「女性は下ですよ」と決めようとしている。本当に胸が苦しくなる。

愛子内親王殿下(2022年12月23日撮影)
愛子内親王殿下(写真=外務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

この対談の最後、原さんはこの改正案が成立すれば、即位できない愛子内親王が悲劇のヒロインになる可能性があると指摘、こう語った。

〈そうなれば、国民の分断がさらに進み、天皇が国民統合の象徴ではなくなってしまう。ものすごく不幸な法律案と言えます〉

政府はあくまでも今国会での成立を目指しているという。まぁ、落ち着け。ちょっとじっくり話しよか。全国会議員に、リリーさんの言葉を伝えたい。声を限りに叫びたい。