親の介護で気を付けることは何か。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは「自分らしい老後を過ごしたいなら、自分自身で老後の人生設計を組み立てたい」という――。ライターの吉田潮さんが聞いた――。(第2回/全3回)
太田差惠子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
太田差惠子さん

親の老後資金をくいつぶす子どもの実例

今の高齢者は、持ち家率が他の世代に比べて高いうえ、比較的手厚い額の年金を受給している人も多い。もちろん個人差はあるが、自分らしい老後を送るための選択肢もそれなりにある。ところが、意外な落とし穴もある。

「人生色々あるなと思うのが、自分の老後を考え始めたときに降ってわいてくる“子どもの離婚案件”は聞きます。あるケースでは、息子が離婚することになり、養育費の取り決めの際、元妻から連帯保証人になってほしいと言われました。離婚した息子や娘が幼い子どもを連れて戻ってくるケースもあります」(太田さん、以下同)

頼ってくる子どもを突き放せないのは、親の弱いところでもあり、家族で助け合うのは当たり前という家族主義の弊害とも。親というのは、かくも子どもを突き放せない生き物なのか?

元嫁からの「義母を連帯保証人に」要求

ケース1 息子が離婚、養育費の連帯保証人にさせられた

30代の息子が離婚することになったNさん(60代)。息子に非があり、孫の親権は元嫁となった。幼い孫を可愛がっていたNさんは、今後会えなくなることにショックを受けていた。

離婚届を提示する女性
写真=iStock.com/yamasan
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さらに息子から「連帯保証人になってほしい」と言われたそう。元嫁が養育費を確実に払わせるために、夫の親つまりNさんを連帯保証人にしろと要求してきたのだ。

息子は自分で払うと言いながらも収入は不安定な様子。親馬鹿と思いつつも、Nさんは連帯保証人になり、案の定支払いが遅れた息子の代わりに、養育費を払うはめに。自分の老後のための貯えがどんどん目減りすることに不安しかないと言う。

「孫と会えなくなることは、『耐えられない』と話すシニアは多いです。一方で、予想外の出費は大きな痛手」

毅然とした態度で拒むという方向には行きにくいようで、高額の慰謝料を親が払ったという話もある。金銭的に余裕のない子どもの尻拭いは、余裕のある親がせざるをえない。それは親子の情というよりは「世間体」なのかもしれない。

老後が崩壊した「おふくろのために」

家族やきょうだいの問題で、ときどき浮上するのが長男優先主義の母親である。ひとり暮らし、あるいは結婚していたが離婚してシングルになった息子が突然転がりこんできて、居ついてしまうケースもあるという。

「たいていこういう場合、『おふくろのために戻ってきた』みたいなことを言うんです。『老後の面倒は見るから』と。そのくせ、家事をしない。生活がどんどん浸食されていくものの、おふくろのためなんて言われると受け入れるしかない。それこそ自分の老後の計画をたてようとしても、子どもによって妨げられることがあります」

ケース2 毎日孫の世話で、老後の人生設計が狂い始めた

Fさん(60代)はシングルマザーで息子を育て、定年まで働き詰めの生活だった。これからは旅行にも行きたいし、今までできなかったことにも挑戦したい。貯蓄もそれなりにあって、第二の人生と思っていたら、息子が離婚。幼い孫を連れて家に戻ってきたという。

正直、孫の世話も週1回なら喜んでやるが、毎日はやりたくないと言うのがFさんの本音。老後の人生設計が一気に崩れ、この生活は孫が成人するまで続くのかと思うと、暗澹たる気持ちに……。

自分の許容範囲を超えることを頼まれるのはキツイ。「家族なら当然」という甘えを断ち切り、どこかで線引きしたほうがいい。これは介護にも通じることだ。

70代で600万円のリフォームはありか

親が「したいこと・やりたいこと」を子どもが猛反対するケースも多々ある。親が詐欺にひっかかっているのではないかと心配したうえでの反対もあれば、子どもからすれば無謀や無駄に見えることもある。

ケース3 水回りのリフォームに息子が猛反対

74歳の女性Gさんが、かねてからやりたかったのはキッチンのリフォーム工事だ。「100歳まで生きるとして、あと25年。快適に暮らしたい」という気持ちだった。ところが、離れて暮らす息子(50代)から猛反対されたという。リフォーム代が全部で600万円という点にひっかかったようだ。

台所で昼食の準備をしているアジアの女性
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「いまさら新しくしてどうする? ムダでは?」と責められたものの、別に息子に負担させるわけでもなく、自分で払うのだから関係ないと、敢行。結果、長年の不便や不具合が解消され、心が晴れ晴れしたという。

「長く住んできた家の水回りは、確実にリフォームが必要になります。自分で立てた人生設計を、自分のお金で行うことに、何の問題があるでしょう。

それで使い勝手や生活動線がよくなって、QOLが上がるのなら、賢明な判断だと思います。ただし、子どもにお金を出させるようなことは絶対NGです」

家族・子どもには期待しない

予期せぬ養育費の連帯保証人、不本意な同居は、一見すればトラブルの元であり、家族不和に発展しかねない。だが、それでも受け入れてしまうのは、親の心のどこかで自分の老後を子どもに期待しているからではないだろうか。

太田さんの印象では、シングルの人や子どもがいない人のほうが自分介護をしっかり考えている傾向があるそう。やはり、介護に関してはどこか子どもに期待してしまっている親世代の存在が浮かび上がる。

「『もし、寝たきりのような状態が長く続いたとき、どのようにしたいか』という東京都の調査(※)があるのですが、施設入所や介護サービスの利用を希望する意見は女性で多いのに対し、男性は『家で家族だけで世話をしてもらいたい』という意見が、女性の2倍以上もあります。

家族は助け合い、支え合うもの。そんな家族の“幻想”を押しつけようとしても、うまくいきません。そもそも家族だけで介護は無理です」

※東京都健康長寿医療センター「中高年者の健康と生活」

太田差惠子さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
太田差惠子さん

ましてや老後は長い。その間に、子の人生にもさまざまなことが起きる。

「いま配偶者やパートナーがいても、将来的には、どちらかが先に逝きます。子どもがいても、遠方だったり、現在の同居家族のさまざまな事情を抱えているかもしれません。病気や離婚、リストラなどで、親のことどころではなくなるケースもあるでしょう。『子どもがなんとかしてくれる』と楽観せず、公的な支援、サービスをうまく使いこなしていくことを自分なりに考えておきましょう。あてにすると、子どもは逃げ腰になる。適度な距離を保つことが双方の幸せにつながることもあります」

「できる・できない」を共有しておく

では、親としては何をしておいたほうがいいのか。

「自分介護と言っても、もちろん全部自分でできるわけではないし、できることを自分でやって、できないところを誰にお願いするか考えておくことが大切です。

まずは介護保険制度の基礎知識を知り、サービス利用を前向きに捉えましょう。いまの80代後半以上の世代は、サービスを利用することに後ろ向きです。結果、家族だけで介護を行い、子どもが病気になったり、介護離職になったりするケースもあります」

車いすを押す介護者
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親としては、子から「サービスを使って」とは、あなり言われたくないセリフだろう。

「その気持ちもわからないわけではありません。子から言われたくないなら、自分で情報を入手して、どうしたいかを考えておきたいものです」

調べない限り情報は手に入らない

「介護に関する情報はとにかく“知らない”ことが多い。情報を取りに行かない限り、誰も教えてくれません。問題に直面したときに初めて知ることも多く、『これを知っておけばよかった』という後悔の声もよく聞きます。特に行政のサービスは自分で調べて申請なり手続きをしないと、受けることができません。知らないと損をすることもたくさんあるんです」

太田差惠子『ひとりでも大丈夫! 私らしく生きるための「自分介護」』(PHP研究所)
太田差惠子『ひとりでも大丈夫! 私らしく生きるための「自分介護」』(PHP研究所)

たとえば、単身高齢者向けの緊急通報システム。ボタンひとつでつながり、緊急時に対応してもらえるシステムだが、自治体によっては無料あるいは低額で利用できるという。

65歳以上であれば、一度地域包括支援センターを訪れてみてはどうか。さまざまな情報を入手できるはずだ。

「一部の社会福祉協議会では、頼れる親族のいないシニア向けに死後準備などの総合的な支援を行っています。2027年には国の制度として『終身サポート』が始まる予定です。

ひとり暮らしのシニアの日常生活支援や身元保証、死後事務など、無料や低額の行政サービスも今後増えていくでしょう。また、高齢者施設にも種類があって、サービス内容や入居条件もさまざま。興味と関心をもって調べない限り、情報は手に入りません。

まずは“知る”こと。そこから自分介護は始まります」