先進国で進む「結婚離れ」の本当の理由
いま、先進国で共通して起きているのが「結婚する人の減少」です。
OECD加盟国の平均婚姻率は、1990年には人口1000人あたり6.7件でしたが、2022年には4.35件にまで低下しました(*1)。日本でも同様に、この30年で結婚する人が減り、未婚者は増え続けています。
なぜこのように結婚する人は減っているのでしょうか。この点に関して近年、注目されているのが次の仮説です。
「女性から見ていい男が減ったからではないか。」
少し刺激的な言い方ですが、この「いい男不足」という視点は、データによって裏付けられつつあります。
未婚女性が思う「いい男」をデータから再現
この問題を分析したのがアメリカのコーネル大学のダニエル・リヒター教授らの研究チームです(*2)。
彼らは「結婚したくない人が増えた」という説明ではなく、「いい男に出会えない構造」があるのではないかと考えました。研究では、アメリカ人口の約4%にあたる大規模データを使い、次のような方法が取られました。
未婚女性一人ひとりについて、年齢・学歴・所得などが似ている既婚女性を見つけ、その夫の特徴をもとに、「もし結婚していたら、この未婚女性はどんな男性と結婚していたか」を推計したのです。
つまり、未婚女性が現実的に想定している「いい男像」をデータで可視化したということになります。
「いい男」と「実際の未婚男性」のはっきりした差
この「いい男」と、実際の未婚男性を比較すると、はっきりとした差が見えてきます。
第一に、未婚女性が想定する「いい男」の年収は、実際の未婚男性より58〜66%も高い。
第二に、「いい男」の大学卒業率は、現実より19〜49%高い。
第三に、「いい男」の雇用率は90%(実際は70%)と大きな差がある。
つまり、「いい男」とは、高収入、高学歴、安定した職を兼ね備えた存在として想定されているのです。
女性の理想が非現実的なわけではない
ここで重要なのは、女性の理想が非現実的だという単純な話ではないという点です。
むしろデータが示しているのは、女性が求める「いい男」に該当する男性が、結婚市場に少ないという現実です。言い換えれば、「いい男がいない」のではなく「いい男の数が需要に対して足りていない」のです。
その結果として、「いい男待ち」の状態が広がり、結婚が成立しにくくなっていると解釈できます。
「いい男」が足りない2つの理由
では、なぜこれほどまでに「いい男」は足りなくなってしまったのでしょうか。
単に男性の努力不足や価値観の変化だけで説明できる話ではありません。リヒター教授らの研究は、社会構造そのものの変化が「いい男不足」を生み出していると指摘しています。その鍵となるのが、次の2つの要因です。
まず1つ目は、女性の高学歴化です。
現在、アメリカでは学士号取得者の57%以上が女性となっています。かつては男性のほうが高学歴であることが一般的でしたが、いまや状況は逆転しているのです。
2つ目は、結婚相手の選び方に関する女性の傾向です。
一般に、女性は「自分と同等かそれ以上の条件の男性」を選びやすい傾向があると知られています。「自分と同等か、それ以上の学歴や地位・収入を持つ男性」を求めるというわけです。
以上の2つの要因によって今のアメリカでは、高学歴女性ほど、「条件が釣り合ういい男」が見つかりにくくなるという状況が生まれています。
女性の学歴が上昇すればするほど、「いい男」の基準も同時に引き上げられてしまう。この結果として、なかなか自分の望んだ条件にあった「いい男」に出会えない。このようなメカニズムがアメリカでは働いているというわけです。
日本でも進む「いい男不足」
実は同じような構造が日本でも確認されています。
成蹊大学の内藤朋枝准教授と昭和女子大学の八代尚宏特命教授の研究によれば、日本でも高学歴女性ほど「条件が釣り合ういい男」を見つけにくくなっているのです(*3)。
その背景には、はっきりとした偏りがあります。
まず、内藤准教授らの分析から、大卒女性の結婚相手を見ると、約76%が大卒男性です。一方で、中卒・高卒男性と結婚している割合はわずか約13%にとどまります。
つまり、大卒女性は「自分より学歴の低い男性」とはあまり結婚しないという傾向がデータではっきり確認されています。
この傾向は、結婚前の段階でも同じです。
未婚女性に「相手の学歴を気にするか」を聞くと、大卒以上の女性では約68%が気にすると回答し、中高・専門短大の女性では約40%と大きな差があります。
さらに決定的なのが、「相手に最低限望む学歴」です。
未婚大卒女性の71%が「相手も大卒以上」を希望しています。一方で、相手が短大・専門卒でもよいと回答した割合は約13%で、中卒・高卒でもよいと回答した割合は約16%でした。
つまり、高学歴女性が「自分と同等以上」という条件を強く求めるという構造が存在しています。
「いい男」が足りなくなるのは当然だった
ここで重要なのは、女性の理想が急に高くなったわけではない、という点です。
むしろ問題は、社会の変化と我々の考えのズレにあります。
かつては男性のほうが高学歴であることが一般的でした。しかし現在は、女性の大学進学率が上昇し、男女差は大きく縮小しています。
その結果、「いい男(=自分以上の条件の男性)」の数が相対的に足りなくなるという現象が起きています。
つまり、「いい男不足」は偶然ではなく、構造的に生まれている問題なのです。
そしてその影響は明確です。高学歴女性ほど、結婚したくないのではなく、「結婚したい相手が見つからない」という状況に直面していると考えられます。
「いい男がいないなら結婚しない」という選択
さらに注目すべきは、女性の意識の変化です。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、未婚女性の約8割は「いずれ結婚するつもり」と回答しています。
しかし同時に、「理想の相手(=いい男)が見つからなければ結婚しなくてもよい」と答えた割合は52%にのぼります。
これは大きな変化です。かつては「とりあえず結婚する」が当たり前でしたが、今は違います。「いい男と結婚できないなら、無理に結婚しない」という選択が、現実的で合理的なものになっています。
その背景にあるのが、女性の経済力の上昇です。収入やキャリアを持つ女性にとって、結婚は必須ではなくなりました。
その結果、「いい男不足」×「結婚しなくても生きていける」という組み合わせが、未婚率を押し上げている可能性があります。
「いい男不足」をどう解決するか
これまで見てきたとおり、日米ともに社会変化に伴い、女性から見た「いい男」が構造的に不足するようになっています。
この「いい男不足」は解決できるのでしょうか。
結論から言えば、個人の努力だけで解決できる問題ではありません。必要なのは、結婚市場の前提そのものを変えることです。
方向性としては、「いい男」の定義そのものを現実に合わせて更新することです。
現在の「いい男」は、依然として「高収入・高学歴・安定職」という点を重視していますが、これ以外にも家事・育児への参加度、柔軟な働き方、メンタルの安定、対話能力といった要素も加味するよう基準を変えていくわけです。
共働きが一般化した現在、「いいパートナー」として上記の要素は重要だといえるでしょう。
<参考文献>
(*1)OECD (2024), Society at a Glance 2024: OECD Social Indicators, OECD Publishing, Paris,
(*2)Lichter, D.T., Price, J.P. and Swigert, J.M. (2020), Mismatches in the Marriage Market. J. Marriage Fam, 82: 796-809.
(*3)内藤朋枝・八代尚宏(2025)「夫婦間の学歴の非対称性が結婚行動に及ぼす影響」内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第211号、pp.143-164.