病的な利用者は10代で7%超え
欧米を中心に未成年のSNS利用の規制が進んでいます。背景にあるのは、若年層に広がる「SNS依存」への強い危機感です。
近年、SNS等のソーシャルメディアを過剰に利用することで、生活にさまざまな影響が生じる可能性が指摘されています(*1)。たとえば、勉強や仕事に集中できなくなる、睡眠時間が減る、対面での人間関係が減るといった問題です。
こうした状況を示すデータもあります。
国立病院機構久里浜医療センターが2025年に実施した調査によれば、ソーシャルメディアの「病的利用」が疑われる人は、特に若年層で多いことが明らかになりました(*2)。YouTubeやXなどのソーシャルメディアの病的利用は、10代では男性7.1%、女性7.5%、20代では男性4.8%、女性5%にのぼると報告されています。
海外で進むソーシャルメディア規制
SNS依存への危機感は、海外でも同じであり、対策に動いています。
オーストラリアでは国として初めて16歳未満のSNS利用を原則禁止する法案を可決しました。アメリカではフロリダ州などで14歳未満の利用を原則禁止する州法が成立しています。また、ヨーロッパにおいてもフランス、スペイン、ドイツなどで未成年のSNS利用を禁止する動きが見られています。
このように、未成年のSNS規制は世界的な潮流になりつつあると言えるでしょう。
こうしたニュースを目にすると、「やはりSNSは危険なのではないか」「もっと厳しく規制すべきではないか」と感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし、本当にそれで問題は解決するのでしょうか。
もしSNSの過剰利用が単なる「使いすぎ」の問題であれば、利用時間を制限すれば済む話です。しかし実際には、「やめたいのにやめられない」と感じている人が少なくありません。そこには、単純なルールでは解決できない、より深い理由が隠れている可能性があります。
なぜ私たちは、気づけば何時間も画面をスクロールし続けてしまうのでしょうか。そして、なぜ一部の人は生活に支障が出るほどSNSにのめり込んでしまうのでしょうか。
本稿では、この問いを出発点として、近年明らかになりつつある「ソーシャルメディア依存」の実態と、その背景に「ある見過ごされがちな要因」について掘り下げていきます。
背景に子ども時代のつらい経験
近年、ソーシャルメディア依存の背景を探るさまざまな研究が行われている中で、ある要因に注目が集まっています。
それが、子どもの頃の「逆境的な経験」です。
専門的にはACE(Adverse Childhood Experiences)と呼ばれるもので、子どもの頃に経験した虐待やネグレクト、家庭内不和、家庭機能の不全など、心に深い影響を残す出来事を指します。
一見すると、子どもの頃の家庭環境と、スマートフォンの利用習慣はあまり関係がないように思えるかもしれません。しかし近年の研究は、この二つの間に無視できない関連がある可能性を示しています。
この疑問について興味深い分析を行ったのがグローバル労働機構のマティヤ・コヴァチッチ氏と、インスブリア大学のクリスティーナ・エリサ・オルソ准教授です(*3)。
コヴァチッチ氏らは、2022年に実施された「欧州連合孤独調査」の個人データを用いて分析を行いました。対象となったのは、およそ2万5000人の回答者です。こうした大規模データを用いることで、子どもの頃の経験と大人になってからの行動との関係を詳しく検証しました。
彼らがこの研究に着目した背景には、ある仮説がありました。
それは、ソーシャルメディア依存を単なる「現代的な娯楽の問題」として捉えるのではなく、「過去の心理的な傷を和らげるための行動」ではないかという考えです。
虐待やネグレクト、家庭内の深刻な不和、家庭機能の不全など、子どもの頃に経験したつらい出来事は、大人になってからも影響を残すことが知られています。こうした経験は、自尊心の低下や孤独感の強まりにつながることが多いと指摘されています。
では、人はそうした孤独や苦しさを、どのようにして和らげるのでしょうか。
デジタル化が進んだ現在、その「逃げ場」の一つになり得るのがソーシャルメディアです。
スマートフォンさえあれば、面白い動画やコンテンツにすぐアクセスできます。しかも、対面で人と関わらなくても、他人の投稿を眺めたり、コメントをやり取りしたりすることで、誰かとつながっている感覚を得ることができます。
つまり、ソーシャルメディアは、孤独感や不安を一時的に忘れさせてくれる場所にもなり得るのです。
コヴァチッチ氏らは、こうした特徴に注目し、過去のトラウマ体験を持つ人ほど、ソーシャルメディアを「気持ちを紛らわせる手段」として過剰に利用する可能性があるのではないかと考えたわけです。
投稿するのではなく投稿をひたすら眺める
実際に分析結果を見ると、この仮説を裏付けるような傾向が確認されました。
子どもの頃に逆境的な経験をしている人ほど、大人になってからソーシャルネットワークサービス(SNS)を長時間利用する傾向が強かったのです。特に特徴的だったのは、投稿を発信するよりも、他人の投稿をひたすら眺め続ける「受動的なスクロール」に多くの時間を費やす傾向でした。
さらに、こうした人々は、SNSの利用が原因で仕事や学業、家庭での役割を後回しにしてしまう頻度も高いことが確認されました。
つまり、単にSNSを長く使うだけでなく、生活に影響が出るほど利用してしまう可能性が高いということです。
また、この傾向には年齢や性別による違いも見られました。
年齢別に見ると、若い世代ほど、子どもの頃の逆境経験と現在のSNS過剰利用との関連が強くなっていました。
性別による違いも確認されました。男性では、子どもの頃の逆境経験とSNSの過剰利用との関連が比較的強く見られる一方、女性ではその関係はやや弱い傾向があったのです。
単なる「スマホの使いすぎ問題」ではない
コヴァチッチ氏らはさらに踏み込み、この関係がどのような仕組みで生じるのかを分析しました。
その結果、重要な役割を果たしている可能性が高い要因として浮かび上がったのが「孤独感」です。
子どもの頃の逆境的な経験は、自尊心の形成や感情のコントロール能力に影響を与えることがあります。その結果、大人になってからも孤独感を抱えやすくなったり、人との関係に不安を感じやすくなったりするわけです。
そして、その孤独感を和らげる手段として、ソーシャルメディアが利用されている可能性があるのです。
言い換えれば、「幼少期の逆境 → 孤独感や社会的孤立 → その苦しさを紛らわせる手段としてSNSを利用する」という流れが生じている可能性があります。
こうして見ると、ソーシャルメディア依存は単なる「スマホの使い過ぎ」問題ではなく、もっと深い心理的背景と関係している可能性があることがわかります。
対策は「利用制限」だけでは足りない
こうした研究結果から見えてくるのは、ソーシャルメディア依存を単なる「使い過ぎ」の問題として捉えるだけでは不十分だということです。
もちろん、未成年の利用時間を制限したり、年齢制限を設けたりすることは一定の効果があるかもしれません。しかし、もしソーシャルメディアの過剰利用の背景に、子どもの頃のつらい経験や強い孤独感があるのだとすれば、利用を制限するだけでは根本的な解決にはならない可能性があります。
むしろ重要なのは、その背景にある心理的な問題に目を向けることです。
子どもの頃の逆境経験を抱える人に対しては、孤独感や自己肯定感の低下といった問題に早い段階から向き合う支援が必要になります。学校、医療機関、福祉サービスなどが連携し、支援が必要な子どもや若者を早期に見つけ、心の回復力――いわゆる「レジリエンス」を高める取り組みを行うことが重要だと考えられます。
(*1)Khalaf, A. M., Alubied, A. A., Khalaf, A. M., & Rifaey, A. A. (2023). The Impact of Social Media on the Mental Health of Adolescents and Young Adults: A Systematic Review. Cureus, 15(8), e42990.
(*2)読売新聞オンライン(2026)「若者のSNS依存が深刻、10~20歳代の6%が「病的使用」疑い…うち3割が使い方巡り「家族に暴言や暴力」」
(*3) Kovacic, M., Orso, C.E. (2025). Wounds of the past, screens of the present: how childhood adversities shape social media behaviours in adulthood. Rev Econ Household 23, 1323–1369.