皇位継承の安定策を検討する与野党協議が4月15日、1年ぶりに再開された。論点となる主要2案のうち、自民党は「旧宮家の男系男子」を養子として皇室に迎える案を第1優先とし、今国会中の皇室典範改正を目指している。皇室史に詳しい島田裕巳さんは「国会での議論は男系男子での継承といった『血』の問題に集中し、より重要なことがなおざりにされている」という――。
ケニアのルト大統領夫妻との昼食会に臨まれる愛子さま=2024年2月9日、宮殿・連翠
写真提供=共同通信社
ケニアのルト大統領夫妻との昼食会に臨まれる愛子さま=2024年2月9日、宮殿・連翠

「皇室典範改正」議論で欠けていること

皇族数の確保のための与野党会議が4月15日に再開された。森衆議院議長は今国会での皇室典範改正に意欲を示したが、会議に参加した中道改革連合は党の方針が定まっていない。

それも、女性宮家を創設した場合、その配偶者や子どもを皇族にはしないという自民党の考えに賛同していないからだ。また、自民党が優先しようとする旧宮家の男子の養子案についても、中道の党内で意見が分かれている。今国会中に協議がまとまるのかどうか、予断を許さない状況にある。

しかし、国会での議論は男系男子での継承といった「血」の問題に集中し、より重要なことがなおざりにされている。

これは、昨年大ヒットした映画『国宝』のテーマになったことでもあるが、伝統を継承するとき、血とともに「芸」が決定的に重要な意味を持つ。皇室の場合は芸というわけではないが、血と対比されるものとして「教養」が挙げられる。教養が欠けていれば、皇族としてふさわしいふるまいをすることができない。

その面が、現在の国会の議論では抜け落ちている。

皇室外交で極めて重要な「語学力」

皇族の教養に関しては、さまざまな要素が考えられる。ここでは特に、その「語学力」に焦点を当てたい。

今の皇族には語学が堪能な人たちが少なくない。それは、皇室外交で海外の人々と直接に交流する上で決定的に重要な意味を持ってくる。

最近、皇族がいかに秀でた語学力を持っているかを示す出来事が続いた。

まずは高円宮家の久子妃である。久子妃は、3月17日に日本外国特派員協会で会見を行った。これは、鳥類の生態保護を目的としたバードライフ・インターナショナルの名誉総裁としての会見で、加速している気候変動に対して警鐘を鳴らす内容になっていた。

日本外国特派員協会で皇族が会見するのは、三笠宮崇仁たかひと親王以来42年ぶりのことだったが、会見は原稿も見ずに流暢りゅうちょうな英語で行われた。

久子妃は、父親の仕事の関係で幼少期をアメリカやイギリスで過ごし、ケンブリッジ大学ガートン・カレッジで学んでいる。ネイティブなみの英語力を持っていることはよく知られている。

それが遺憾なく発揮された出来事があった。

久子妃の語学力が際立ったスピーチ

その出来事というのは、2020年(実際は21年)の東京オリンピック招致に結びつくIOCの総会に皇族として初めて出席し、英語とやはり流暢なフランス語でスピーチを行ったときだった。

これは、皇族の政治利用とも受け止められるもので、宮内庁は難色を示した。

したがって、久子妃は、直接には招致を呼び掛けはしなかったものの、それに結びつくようスピーチに工夫を施し、招致実現に大きく貢献した。

今回の日本外国特派員協会での会見も、多分に政治性を持つもので、皇族としては勇気ある発言である。

久子妃は、ここでも政治的でありつつ、そうは感じさせない高度な手腕を発揮した。

カナダのエリザベス・ダウズウェル・オンタリオ州副知事と会談する高円宮妃久子殿下(2019年8月25日)
カナダのエリザベス・ダウズウェル・オンタリオ州副知事と会談する高円宮妃久子殿下(2019年8月25日)(写真=LGOntario/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

流暢な英語を使いこなす天皇夫妻

4月2日には、天皇皇后夫妻が、来日したフランスのマクロン大統領夫妻を御所に招き、昼食会を催しており、それは通訳抜きで行われた。大統領とは7年ぶりの再会だった。

両者の面会は英語で行われたが、玄関で大統領夫妻を迎える際に今上天皇は、「M. Macron, bienvenue au Japon.C'est un plaisir pour moi.」とフランス語で挨拶した。「マクロンさん、日本へようこそ。お会いできて光栄です」という意味である(FNNプライムオンライン、4月2日)。

天皇夫妻が英語を駆使することについては、2025年にアメリカのトランプ大統領が来日したときにも大きな話題になった。

皇后雅子妃の場合、結婚するまで外交官をしており、英語だけではなく、フランス語、ドイツ語、ロシア語に堪能で、韓国語も学んでいる。

天皇の場合も、1983年から85年にかけてイギリスのオックスフォード大学マートン・カレッジに留学した経験を持っており、英語に堪能である。

では、フランス語はどうやって学んだのだろうか。2018年にフランスを訪れた際、ヴェルサイユ宮殿で開催されたマクロン大統領夫妻主催の晩餐会では、フランス語でスピーチを行っているのである。

教養を持つ証しとなったフランス語

天皇がフランス語を学んだのは学習院大学に在籍していた時代である。当時、学習院大学では、東京大学の名誉教授でフランス文学を研究する小林善彦氏が教えており、小林氏から週に1度フランス語を習っていた。

小林氏はパリ日本館の館長を務めた経験があり、ルソーを研究している。実は私が東大の教養学部で学んでいた際に、フランス語の初歩を教わった先生でもあった。1度自宅に招かれたこともあった。天皇にとっても、私にとっても、小林氏はフランス語の先生なのである。

ではなぜ、天皇はフランス語を学んだのだろうか。

それは、ヨーロッパ各国の王室において、長い間フランス語が「リンガ・フランカ」としての役割を果たしてきたからである。リンガ・フランカとは、昔の西ヨーロッパに広がったフランク王国の言葉を意味するイタリア語で、共通の母語を持たない人々の間で意思疎通を図るための言語を指す。

フランスの場合、1789年に起こったフランス革命によって、ルイ16世やその后マリー・アントワネットがギロチンにかけられて殺され、王政は打倒された。その後、一時的に王政が復活するが、1830年の七月革命で最終的に消滅した。

しかし、革命よりも前、フランスの王室はルイ14世の時代に最盛期を迎え、ヨーロッパにおける文化や政治の中心にあった。それによってフランス語の価値が高まり、他の国の王室でも、母国語以上にフランス語を流暢に話せることが、教養を持つ証しとなった。

教養がなければ皇族として活躍できない

その後、イギリスやアメリカが台頭することで、ヨーロッパの王室でも英語がリンガ・フランカの役割を果たすようになったものの、フランス語を重視する伝統は消えていない。

その点で、日本の皇室がヨーロッパの王室と交流を行う際にフランス語を駆使できることは重要な武器になる。

天皇が挨拶やスピーチにおいてフランス語を用いたことは、存在感を示し、ヨーロッパの王室からの評価を高めることに貢献したはずである。

そこから考えれば、旧宮家の人間が皇族の養子になるにしても、あるいは、女性宮家が創設され、その配偶者や子どもが皇族になるにしても、そうした教養を身につけていることが求められるはずである。

たとえ天皇との血のつながりがあったとしても、そうした教養がなければ、皇族として活躍できない。

皇族数の確保ということは、たんなる「数合わせ」では意味がない。活躍ができる人材でなくてはならないのだ。その点について現在まったく議論されていないのは、大きな問題ではないだろうか。

ロンドンの「ヤングV&A(旧V&A子ども博物館)」を訪ね、日英の児童と交流する天皇皇后両陛下(2024年6月27日)
ロンドンの「ヤングV&A(旧V&A子ども博物館)」を訪ね、日英の児童と交流する天皇皇后両陛下(2024年6月27日)(写真=外務省/在英国日本国大使館/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

愛子天皇待望論を支える愛子さまの教養

これから進んでいくであろう国会での議論に、国民があまり期待をかけておらず、むしろ「愛子天皇」待望論が高まりを見せているのも、そこが関係する。

愛子内親王については、高い語学力を持っていると言われてはいるものの、まだ、それを発揮する機会は十分には訪れていない。

それでも、2024年2月にケニアの大統領夫妻を迎えての宮中での昼食会において、愛子内親王は大統領の隣りに座り、「Habari?(こんにちは、ごきげんよう)」とスワヒリ語で話しかけ、通訳はいたものの大半は英語で会話を交わしている。

単独での海外訪問は、まだ昨年のラオスだけなので、愛子内親王の英語力が発揮される機会は決して多くはない。だが、今後はそうした機会も増えていくに違いない。

では、フランス語のほうはどうなのだろうか。

愛子内親王はフランス語にも堪能であると一部では伝えられているものの、その点ははっきりしない。フランス語を学んだという情報もない。

ただし、スペイン語は学んでいる。学習院大学では第二外国語としてスペイン語を選択している。また、天皇にスペイン語を教えてきた、外務省のスペイン語講師であるスペイン出身の人物は、愛子内親王が6歳だったときにスペイン語を半年教えた経験があると語っている。それは天皇の希望によるものだった(NEWSポストセブン、2020年5月31日)。

生後3カ月頃の愛子さま(2002年3月)
生後3カ月頃の愛子さま(2002年3月)(写真=在チェコ日本国大使館/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

多様な言語教育に注力してきた天皇家

スペイン語は、フランス語とともにラテン語を源とする「ロマンス諸語」に属している。この2つの言語は文法もかなり共通しており、単語も似ているものが多い。したがって、スペイン語を学習していれば、フランス語の学習は容易になってくる。

スペインには王室があり、日本の皇室と密接な関係を持っている。また、日系の移民が多く、そのために天皇や皇族が訪れることの多い中南米でも、スペイン語やそれと極めて近いポルトガル語が用いられている。

天皇がスペイン語を学び続け、愛子内親王もそれを受け継いできたのも、皇室外交を進める上で、そうした言語の習得が求められるからであろう。

天皇と愛子内親王は、それぞれが同じスペイン語の単語帳を使っている。愛子内親王がスペイン語の先にフランス語の学習を進めている可能性は、十分に考えられる。

天皇家では、英語はもちろん、多様な言語を取得することに力を注いできたわけだが、秋篠宮家になると、事情は違ってくる。

帝王学の一角を成すフランス語の教養

秋篠宮一家も英語には堪能である。秋篠宮はイギリスへの留学経験もあり、研究する専門領域については英語で議論できる力を持っている。

紀子妃は帰国子女で、英語とともにドイツ語には堪能である。2人の内親王も国際基督教大学の出身で、十分な英語力を備えている。ただ、一家のうち誰も、フランス語を学んだとはされていない。

悠仁親王の場合には、まだ大学の2年生である。卒業後にイギリスに留学することが見込まれ、その点では十分な英語力を身につけていくであろう。けれども、フランス語を学習した形跡はない。

フランス語がヨーロッパの王室で重視されるなら、その習得は帝王学の一角を成すはずである。

愛子内親王がこれからフランス語にも堪能なところを見せたとしたら、「愛子天皇」待望論は今以上に高まっていく。果たして悠仁親王は、将来においてフランス語を学ぶことになるのだろうか。語学は若い頃のほうがはるかに身につきやすい。今を逃すわけにはいかないのだ。

ただ単純に、皇族の数が増えればいいというわけではない。皇族にふさわしい教養を身につけている人物である必要がある。果たして旧宮家にそうした人材はいるのか。それはかなり重要な問題である。

2026年4月2日、天皇皇后両陛下とフランスのマクロン大統領夫妻(出典=宮内庁Instagram[@kunaicho_jp])