平均を下回るのは気分が悪い。けれど……

30代の平均貯蓄額は600万円……。

新聞やテレビのニュースでそんな数字を目にしたら、あなたはどんな思いを抱くだろうか。

このデータは金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」(平成24年)によるもの。2人以上世帯が保有する金融資産の額などを調べている。

平均以上に貯めている人なら鼻高々だろうが、平均を下回っていれば気分は良くないし、思わず目を背けてしまう人、怒りを感じる人もいるかも知れない。

でも、「平均」だけを知って感情を揺さぶられる必要はない。なぜなら、「平均」が必ずしも実態を表しているとはいえないからである。

平均のほかにも大事なデータがある

まずおさえておきたいのは、600万円とは「金融資産を保有していない世帯を除いた平均」(金融資産がある人に絞って集計した数字)であること。金融資産を保有していない世帯も加えると、平均額は406万円まで下がる。

さらに知っておきたいのが、「中央値」と「最頻値」だ。

平均は、「全回答者が保有している金融資産の合計÷回答者の人数」で計算された額。仮に回答者が1000人として、そのうち、950人の金融資産がゼロだとしても、50人が1億円ずつ持っていれば、50億円÷1000人で、平均値は500万円となる。

950人は金融資産がゼロなのに、莫大な額を保有する人がいることで、平均値がかなり引き上げられる。

対して「中央値」とは、回答者を資産の少ない順に並べ、中央にきた人の値を指す。回答者が1000人なら500人目の人の資産額が中央値になるが、前述の例では950人目まではゼロなので、中央値はゼロ、というわけ。

そして、よりリアルを感じられそうなのが「最頻値」。文字からもイメージできるように、「最も該当する人が多い」値で、950人がゼロなら、最頻値はゼロ、ということになる。

金融資産がゼロの人からみえれば、「資産額は平均よりずっと少ない」が、同時に「ありがちな資産額(ゼロ)であり、実は多数派」ともいえるのだ。

30代の金融資産額について、改めて平均、中央値、最頻値を見てみると、金融資産を有する人に絞ったデータでは、平均は600万円、中央値は405万円、最頻値は500~700万円未満(全体の13%が該当)となる。

20代では平均こそ365万円だが、中央値は200万円、最頻値は100万円未満と、かなりギャップがある。

ちなみに30代で金融資産を保有していない世帯は29%。金融資産がないということは、「いざというときに使えるお金がない」ということ。冠婚葬祭が重なって支出がかさむ、病気や怪我で入院するといったときには、一時的にキャッシングをして凌ぐということにもなりかねない。全体の3割近い人が該当する「最頻値」であっても、こればかりは「みんなそうだから大丈夫!」とは言いにくい。もしもに備えて、少なくとも生活費の3カ月分程度は貯蓄をキープしよう。

貯蓄割合を把握しておこう

資産額はこれまでの貯蓄の「結果」「成果」だが、今後を左右する要素として意識したいのが「年収(手取り)の何%を貯蓄に回しているか(貯蓄割合)」だ。いわば貯蓄するチカラを示すもので、この先、どの位資産を築けるかを知る手掛かりになる。

図を拡大
30代の年間手取り収入からの貯蓄割合(金融資産保有世帯)

貯蓄のある世帯の数字を見ると、30代の平均は12%で、最頻値は10~15%未満(図参照)。20代の平均も30代と同じ12%。40代、50代では9%に減るが、これは教育費や住宅ローンなどで支出が増えているためと推測できる。つまり、結婚前、または教育費がかからないうちが、貯蓄しやすい時期であり、貯蓄を頑張るべき時期、といえる。

さて、あなたはこの先、どの程度の金融資産を築くことができるか。それを知るためにも、過去1年間でどの程度、貯蓄が増えたかを確認し、貯蓄割合を計算してみよう。

保有している金融商品は、全年代とも最も多いのが預貯金、次いで生命保険となっているが、株式や投資信託など、利殖性が期待できる商品と上手に付き合うことも考えてみたい。

いくらの資産を築けるか。それは、「貯蓄にいくら回せるか」と「どの位効率的に増やせるか」にかかっている。

フリーライター 高橋晴美(たかはし・はるみ)
1989年よりライターとして活動。資産形成、投資信託、住宅ローン、保険、経済学などが主な執筆テーマ。