「男系男子の養子縁組」を激しく推す高市首相
安定的な皇位継承に向けた与野党協議の全体会合が、4月15日に開かれる方向だそうだ。朝日新聞は「高市早苗首相は今国会での皇室典範改正に意欲を示し、与党側は議論を加速させる構えだ」と解説していた。
(※)朝日新聞「皇室典範改正めぐる与野党協議、4月15日で調整 1年ぶりに再開」
確かに皇室は難問山積だ。人数が減っているのに仕事は減らないから激務な上、次世代の皇位継承者は悠仁さまだけだ。何とかすべく政府の「皇位継承に関する有識者会議」(清家篤座長)が検討し、「女性宮家」「男系男子の養子縁組」という2つの方策を示し、2022年1月、国会に委ねた。だが、ずっと「審議継続」だ。
そこに高市首相が登場した。「意欲」はよい。問題はその方向性だ。高市首相は「男系男子の養子縁組」だけを激しく推している。個人的に推すなら構わない。が、首相となると話は別だ。
自民党・日本維新の会が議席の4分の3を占める衆院では、審議を短縮しまくった。少数与党の参院では通じず、年度内予算成立という首相の野望はついえた。でも会期末の7月17日まで3カ月ある。「男系男子の養子縁組」を決めてしまわないとも限らない。
ここで高市首相の皇室観とはどんなものか、国民に広がる「愛子天皇待望論」はどうなるのか、整理していこうと思う。
“自民党圧勝”を背景に進めるつもりか
まず国会に委ねられているのは、①女性皇族が結婚後も身分を保持する、②養子縁組を可能とし、皇統に属する男系男子を皇族とする――の2案だ。①は「女性宮家」創出、②は今も残る11の旧宮家の男系男子を養子にする。
はっきりさせておくが、2案の報告書には「これは『皇位継承』とは切り離した『皇族数の確保』についての検討だ」という旨がはっきり書かれている。
だが、高市首相は2月27日の衆議院予算委員会で、「有識者会議の報告でもそうだが、(皇位継承は)男系男子に該当するものに限ることが適切とされている。政府としても私としても、この報告を尊重する」と答弁した。「皇位継承」で有識者会議が②だけを推している。そう取れるが、間違いだ。その日のうちに木原稔官房長官が「養子縁組についてはそうなっている」と補足した。
(※)ANNニュース「皇位継承めぐり 高市総理『男系男子限定が望ましい』」(2026年2月27日)
予算委員会で質問したのは、小林鷹之自民党政調会長だ。首相が保守派の仲間に見解を語り、国会に方向性を示す。報告書との齟齬は官房長官に任せればよい。そんな作戦に見える。
そもそも自民党の衆院選挙公約は、②一択だった。「男系の男子を皇族とする」案を第一優先、皇室典範の改正を目指す、とある。これで圧勝したから前進あるのみ。首相はそんなつもりだろう。
(※)自民党「衆院選2026」
三笠宮家の動きは“養子縁組”への布石か
ここで少し話を変える。
2025年、三笠宮家の彬子さまが三笠宮家の当主になった。同時に、母の信子さまも「三笠宮寛仁親王妃家」を創設した。「皇室に生まれた女性」が当主になったのも、「民間から嫁いだ女性」が宮家をつくったのも、1889年に旧皇室典範が制定されて以降、初めてという。
三笠宮家には彬子さまの父・寛仁さまを筆頭に男子が3人いたが、3人とも亡くなり、後を守っていた三笠宮妃百合子さまも24年に亡くなった。当主不在という事態に加え、“母子の不和”もあり、彬子当主、三笠宮寛仁親王妃家の誕生となった。
経緯はさておき、これで「女性宮家」創設へのハードルが下がった、「愛子天皇」誕生への道だ。そんなコメントを伝えるメディアもあった。が、別な見方も伝えられた。両宮家が養子縁組の受け皿になるという見方だ。「愛子天皇」への道か、「男系男子」への道か。石破政権下では玉虫色に見えたが、高市政権となると「男系男子」寄りに思えてくる。
高市首相の皇室観に見えた、麻生氏の存在
ここからは、『文藝春秋』2022年1月号を見ていく。高市さんが皇室観を語っているのだ。自民党総裁選(21年9月)に立候補、岸田文雄さんに負けた直後というタイミング。4候補のうち高市さんと岸田さんは、安定的皇位継承で「旧宮家の皇籍復帰を支持」としていた。
記事のタイトルは、〈高市早苗「女性天皇には反対しない」〉。え、そうなの? と読み始めると、冒頭で高市さんは「令和二十二年には皇紀で数えると二七〇〇年を迎えます」と語る。それほど長い間、男系男子で皇統を守ってきた。「ひとたび女系に変えてしまうと、元には戻せなくなってしまいます」。
次に女性天皇と女系天皇の違いを語る。仮に愛子さまが天皇になれば「男系の女性天皇」になり、愛子さまが民間の男性と結婚し、女子が誕生して天皇になれば「女系の女性天皇」になると説明する。そして「今の時代に変えてしまったら、やり直しはききません」。
これは典型的な「女性宮家」反対論だ。愛子さまが当主になるとこうなると、勝手に予測する。この主たる論者は麻生太郎さん。「高市首相誕生」の最大の功労者で、現在は自民党副総裁。三笠宮寛仁親王妃信子さまの兄だ。
生前退位時のような“キーパーソン”がいない
石破政権下、自民党最高顧問だった麻生さんと立憲民主党代表だった野田佳彦さんが、①と②を水面下で協議したという。麻生氏は「女性皇族が旧11宮家の男系男子と結婚した場合に限って、皇族の身分付与を認めるべき」と主張、それはあまりに限定的だと野田さんが代替案を示したが、「将来の女系天皇につながりかねない」と受け入れなかったそうだ(朝日新聞25年6月21日朝刊)。
高市政権発足直後、あるベテランの宮内庁記者に安定的皇位継承の国会審議の行方を聞いてみた。その人が最初に言ったのは、「皇室の課題というのは、多数決で決めるものではないんです」だった。そして「今、大島理森さんのような人が国会に見当たらない」とも言っていた。
大島さんは、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」(2017年)が可決された時の衆院議長。衆参両院とも全党、全会派一致(退席した自由党を除く)で可決された。それができたのは、与野党から信頼の厚い大島さんだったから、という意見だった。
15年から21年まで議長を務め、大島さんは政界を引退した。現在の衆院議長は森英介さんだ。議長就任の決め手は、高市首相の皇室典範改正への意欲とされている。森さんは麻生派の事務総長。高市&森・麻生連合で「男系男子の養子縁組」まっしぐら? だとすれば「愛子天皇待望論」はどうなる?
高市首相の“無理”が伝わってくる
と、ここで『文藝春秋』に戻る。インタビューをしたノンフィクション作家の石井妙子さんは、「男系男子ゴーゴー」ではなかった。「天皇の子孫であることが重要で、男性も女性も同等に尊い」と考えられないか、「価値観の変化に合わせるなら、女性が帝位を継ぐ」議論もあるのでは、と二度にわたって聞いている。高市さんの答えは同じだった。
「私は女性天皇に反対しているわけではありません。女系天皇に反対しています」。
石井さんは「国民の間では女性に天皇になって欲しいという『待望論』が強まっている」と食い下がった。「待望論が強まっていますか? 私は承知していません」と高市さん。逆に、それは内閣府のアンケートかと質問した。
石井さんは19年のNHKのアンケートの数字(「女性天皇賛成が74%」など)を示した。高市さんはまた「その調査については、私は承知しておりませんが」として、貴重な皇統を絶やすべきでないと持論を展開する。が、こうも言った。
「私は、女性天皇に反対する立場ではありませんが」。そしてこう続ける。「現実的には女性が皇位を継がれることは、大変だろうと想像しています」
(※)NHK放送文化研究所「新時代の皇室観~『皇室に関する意識調査』から~」
「愛子天皇」を期待する国民との“乖離”
インタビューを読んで思ったのは、高市さんも女性天皇を否定する無理を十分にわかっている、ということだ。「女系天皇反対」は保守派にとって生命線。「女系天皇」につながる「女性天皇」を認めるわけにはいかない。でも、無理があるとわかっているから3度も「女性天皇には反対しない」と言う。
反対はしないが、「女性が皇位を継ぐのは大変」と見立てる。激務をこなしながらのご懐妊、出産は肉体的にも精神的にも大変だと思う、と。石井さんは高市さんに「女性は無理」とされてきた政治の世界で風穴をあけてきたではないか、総理大臣も激務だろう、と迫る。高市さんは確かに総理にも超人的な体力が必要だろうとした上で、こう言った。「それはだいたい想像がつくんですよ。総理には悪いけれども(笑)」。
最後にもう1つ、インタビューでの発言を紹介する。高市さんはこう言った。「女性皇族が結婚後、ご希望なさったなら、ご本人のみ元皇族として特別なご公務に就かれるというような形があればいいと思います」。女性宮家への代案だろうが、わかってないなと思う。
国民は愛子さまに、「結婚後も働きたいなら、どうぞ」と思っているのではない。天皇家に生まれ育ち、行動と姿から立派な品格が伝わってくる。それなのに、「女性」だから天皇になれないのはおかしい。それが「愛子天皇待望論」だ。「結婚後も働いてほしい」とは、次元が違う。
「皇室」の制度がもたない
私は女性、女系天皇を認める以外、皇室という制度はもたないと思っている。
皇室に生まれた女性は生まれた時から「男性でない」という事実に苛まれる。民間から皇室に嫁いだ女性は「男子出産」が強く求められ、果たせなければ「男子出産せず」という事実に苛まれる。愛子さまのお気持ち、雅子さまのお気持ちを拝察申し上げているのではない。「男系男子」とはそういう制度なのだ。そのような制度の組織が、持続可能とは到底思えない。
国会が議論を進めるのは当然だ。それは様々な意見を聞くことが前提だ。愛子天皇待望論を「承知してない」で通すなら、しっぺ返しが待っている。そう思うが、どうだろう。