なぜ親は、子供のできない点ばかりに目がいくのか
例えば、模試でE判定が出た。親はその結果を見て気持ちが焦り、つい厳しい言葉が口から出てしまうこともある。第一志望校の偏差値から逆算して「あと○ポイント上げないといけない。それには人の何倍も勉強しないと追いつかないよ」などと、駆り立ててしまうこともあるだろう。
経営学者ピーター・F・ドラッカーの理論をベースにビジネスパーソンの向けのプログラムを行うTransformでエグゼクティブ・アドバイザーを務める園田恭子さんは、このように「不足しているところ」や「できない点」に目がいってしまうのは生物として自然なことではないかという。
「人はリスクに目を向けないといざという時に危険を回避できません。だから、不足点や改善点にばかり目が向くことは、一種の本能で、生存戦略です。加えて、日本では完璧を目指して足りないところを埋めることに注力しがちです。60点なら、できている60点より、できていない40点にばかり意識を向けて言及してしまうのです。
本当はできている60点の中に本人の再現性や自信の種があるので、そこをまずそこを確認し承認する。その上で、できていない40点について認識共有するとよいでしょう。
私自身、子育てをしてきてネガティブな意識に引きずられそうになったことは山ほどあります。ただ、厳しい現実をストレートに突きつけても、まだ発達途上にある子供たちには受け止めきれず、かえって逆効果になることも経験から学んできました。いかに親が反応的にならず、意図をもった上で対応することがカギとなります」(園田さん・以下同)
ポジティブ:ネガティブ=3:1の比率を意識
園田さんがプログラムやコーチングで伝えているのが、“3:1の法則”に基づいた声がけだ。
「“3:1の法則”とは、心理学者バーバラ・フレデリクソン博士が拡張形成理論の中で提唱しているポジティビティとネガティビティの比率で、ポジティブが3で、ネガティブが1です。この理論では、ポジティブ感情は思考や注意の幅を“拡張”し、人間関係・スキル・回復力などの“資源”を“形成”し、ネガティブ感情は危険回避などに役立つけれど、視野を狭め、行動の選択肢を縮める傾向があるとしています。そして、その比率は3:1がよいというものです(※)。(※)『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』(2010年、日本実業出版社)
ちなみに、3:1という主張に関してはその後修正されていますが、ポジティブ感情の効果や可能性については間違いないと言われており、3:1という数字は行動変容の目安にしやすいので、修正が出ていることを添えながらこのことを伝えています。
ただでさえ、できないことばかりに目が向いてしまうのが私たち人間ですし、それは子供も同じ。ですから、親が意識してできていることを認知し伝えてあげると良いでしょう。その時に参考にしてほしいのがこの比率です。 特にポジティブを3倍は、かなり意識しないと難しいですよね。
ただ、ネガティブを伝えなくてよいわけではありません。成長のためにはそれも伝える必要があります。私は先にポジティブを伝えてあげるのが良いと思っています。ポジティブな認知を受け取ることで、『親はちゃんと自分の頑張りを見てくれている』と安心し、その後のネガティブについても防衛や抵抗の反応を軽減し、心を開き、受け入れやすくなると考えています」
また、現状のできた・できていないだけではなく、「頑張っているプロセス」や「前回より伸びた部分」にも意識を向けて認知の言葉をかけてほしい、と園田さんは話す。
「仮に前回の成績よりわずか『+1点』だったとしても、そこには、『こうしたからうまくいった』という成功要因が潜んでいるはず。『+1点』は『+5点』『+10点』へと伸ばしていくための成長の種であり、自信の源でもあります。そして時間が進むにつれて、種から芽が出て自信が育っていきます。
勉強をして結果を出すのは子供本人なので、親としてどう本人のやる気をサポートするかという意図に基づいて声掛けをしてあげてほしいです」
ここからは、ネガティブな言葉が出そうになったとき、どうポジティブな部分に意識を向け直せるか、よくあるケースをもとに提案してもらった。
言い換え例①「またここでミスしたの?」→「前回よりココができるようになったね!」
テスト結果を見ると、反射的に間違えたところに目が行き原因探ししてしまう人も多いだろう。しかしその気持ちをぐっと抑え、“3:1の法則”をもとに、以前よりできるようになったところを3つ探して褒めるのだ。「前回に比べて、ココができるようになったね」「漢字の止めハネはらいが丁寧に書けるようになったね」「計算ミスが減ったね」などと。「そして子供の誇らしげな顔を確認してから、伝えたい指摘をそっと付け加えてみてはどうだろう。
言い換え例②「なかなか伸びないね」→「前はどうしていたっけ?」
今だけでなく過去にも目を向けるとよい。
「以前の調子がよかった時、伸びていた時のことを思い出して、『あのときはああやって伸びていたよね』と、過去の成功体験を思い返してみると、子供も『あのときと同じようにやれば、また伸びるかもしれない』と前を向くことができるかもしれません。
ただ、もし子供が頑張っているのであれば親が結果を焦らないことの方が大事です。『頑張っているけど、点数になるまでもう少しかかるかもね。いつか点数に結びつくから諦めないで頑張ろう』とプロセスの方に意識を向けてあげるとよいと思います」
目標偏差値を営業ノルマのように伝えていないか
言い換え例③「あと○点で合格圏なのに」→「前より1歩、合格圏に近づいてきたね」
子供のタイプや状況によってはやる気を削ぐ結果になりかねないのが、「合格圏まであと○点(偏差値○ポイント)」という、不足部分を数値化した目標設定だ。
「人は足りないところばかりを指摘され続けると、『こんなに頑張っているのに全然分かってくれない』と悲しくなり、防衛反応の壁が上がり相手のことを受け入れられない精神状態になっていきます。
中には、プレッシャーをかけられることで頑張れる子もいますし、短期的には効果があるかもしれない。ただ、つらい気持ちの中で頑張り続けることはヘルシーではないし、サステナブルでもない。子供はお尻を叩かれ続けるとそれに慣れてしまい、嫌気もさします。どこかでやる気がなくなったり、『もういいや』と諦めたり、やる気に波が出てきます。一番避けたいのが、その波が一番下がったところが受験期に重なってしまうことです」
できたところに目を向け、「前より1歩、合格圏に近づいてきたね」と労おう。その上で不足分の対策を一緒に考える場合は建設的な会話にするのがいい。
ゴールの再設定もやる気を削ぐ
言い換え例④「この成績なら、もうちょっと上を目指せるかもね!」→「がんばってここまで達成できたね」
似たケースで親がやりがちなのが、「ゴール」の再設定だ。
「苦労の末、ようやく合格圏にたどり着けた。目指すべきゴールに到達したはずなのに、親御さんの中にはその数字を見て『これなら、もうちょっと頑張ればワンランク上の難関校にもチャレンジできるんじゃない?』とムクムクと欲が出てしう方もいるでしょう。
しかし子供にしてみれば、せっかくたどり着いたゴールが、また遠ざかってしまう。子供のエネルギーが満ちているときに本人が目標を上げる分にはいいですが、そうでなければ、『話が違う』と感じます。
まずは、『今ここまで来たね』『進んでいるね』『達成したね』と親が子供の努力を十分に認めることが先です。その上で次を目指すか目指さないかを話し合ってほしい。子供だって、努力を認めてもらえてエネルギーがチャージされた上で、次を考えたいですよね。
とはいえ、反射的にため息をついてしまったり、『あと○点で合格圏だったのに』と言ってしまうこともあるでしょう。それも仕方ない、人間ですから。『まずは10回中、2回できればOK』といった軽い気持ちで、親も意識の向け先、声掛けを変えていく練習をしていきましょう。受験のサポート期間は長いですから」
親のメンタルは子供に伝播しやすく、言葉はもっとダイレクトに影響を与える。だからこそ日々、子供のやる気と子供の「今日できた1点」を探して積み上げてみてはどうだろうか。それが習慣化すれば、子供のやる気とよい親子関係を維持しながら目指す学校に近づけるようになるかもしれない。

プレジデント社では3月7日(土)に中学受験生のお母さんに向けて<感情マネジメント講座>を実施します。子供が意欲的に勉強に取り組む、親の言葉とは――。
記事に登場した園田恭子さんも講師として登壇します。
詳細は下記をご参照ください。
『親の言葉が合否を決める ~中学受験ママのための<感情マネジメント>講座~』