「長年のひどいモラハラで熟年離婚したいが、相手が応じてくれない」。こんな時はまず何をしたらいいのか。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「相手が離婚を拒んでいても、別居をして離婚の交渉をすれば、少しずつ離婚に向かって動き始める。なかなか別居に踏み切れない人でも、思わぬきっかけで別居できることがある」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。
離婚書類と結婚式の写真
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長年のモラハラ、離婚したいが夫が応じない

私の事務所に、A子さん(54歳・パート)が離婚の相談にいらっしゃいました。

内容は、「長年、夫の長年のモラハラに悩んでおり離婚したいのだが、夫が離婚にも別居にも応じてくれない」というものでした。

詳しく話を聞くと、A子さんの夫は、日常的に怒鳴ったり、人格を否定する発言を繰り返す人でした。

「お前なんて何もできない」「誰の稼ぎで暮らしてると思ってるんだ」といった言葉を繰り返し、A子さんが少しでも言い返すとさらに激しく怒鳴る……という、典型的な中年のモラハラ夫です。

夫と距離を置きたいA子さんが「親の顔を見にしばらく実家に帰りたい」と言うと、「俺の食事は誰が作るんだ」「親と俺のどっちが大事なんだ」と責められるそうです。もちろん、離婚を切り出しても、「俺は絶対に離婚しない」「財産は1円も渡さない」と言って応じてもらえません。

A子さんは長年「老後は一人で暮らしたい」と思いながらも、こうして動けずにいました。

3~5年の別居で離婚は認められる

相手が拒んでいても、別居をして離婚の交渉をすれば、少しずつ離婚に向かって動き始めます。

交渉がうまくいかなくても、3年から5年ほど別居をしていれば、裁判で離婚が認められます。財産分与も、夫の意向次第で1円ももらえなくなるということはありません。

ただ、A子さんはどうしても別居に踏み切れないというのです。そして「しばらく考えます」と言い、その日の相談は終わりました。

介護をきっかけに別居が実現

それから約1年後、A子さんから再び相談の問い合わせがありました。「実は別居できました」と言うのです。

相談に来ていただいて何があったのか聞くと、A子さんの親の体調が急に悪くなり、介護が必要な状態になったということでした。

病院への付き添いや日常生活のサポートが必要になり、介護のためにしばらく実家に帰らなければいけないと夫に伝えたそうです。

もちろん夫は反対しました。「俺の世話はどうする」「介護なんて施設に任せればいい」「なんとかしろ」と怒鳴ったそうです。

しかしA子さんが病院の資料なども示して親の病状を説明して、「じゃあうちで引き取って介護できるの?」と聞くと、さすがの夫もしぶしぶ介護のための別居を認めたそうです。

こうして、A子さんは実家に戻り、結果的に夫と物理的に距離を取ることができたのでした。

別居当初、夫は「『しばらく』とはいつまでなんだ」「週末だけでも帰ってきて家事をしろ」と頻繁に連絡してきていましたが、介護がある以上、強くは言いにくかったのか、連絡の頻度が少なくなり、内容もトーンダウンしてきているということです。

「別居できたので離婚の交渉を始めたいです」ということで、A子さんから離婚交渉の依頼を受けることになりました。

車いすに座っているシニア女性
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夫の態度が変化し離婚が成立

私が連絡を取って離婚の話を切り出すと、やはり夫は最初反対しましたが、内弁慶なのか、弁護士を相手に激しく怒鳴ることはありません。徐々に「不仲だったし、離婚も仕方ないのかもしれない」という態度に変わっていきました。

最終的に、夫は離婚に同意して、適正な額の財産分与や年金分割について取り決めをして、離婚しました。

思いがけないきっかけで家を出られることも

モラハラで離婚を考えているものの、離婚できなくて何年、あるいは何十年も悩み続けているという人は少なくありません。

その多くは、相手が離婚や別居を許してくれないことが一番の理由になっています。

ただ、この事例のように、思いがけないきっかけで家を出られることがあります。子どもの進学への付き添い、夫の単身赴任など、いろいろなケースがあります。

介護自体は決して楽なことではありませんが、A子さんのように、結果として人生の転機になる場合もあるのです。

もちろん、そういったきっかけが何も起こらないままということもあります。その場合は、自分で家を出るという選択肢を具体的に考える必要があります。

別居が大きな一歩になる

なお、離婚や別居に強く反対する人は、「まだ相手が好きだから」「修復したいから」ではなく、「離婚されたら自分が悪者になる」「相手の言うことを聞きたくない」という理由で反対していることがほとんどです。

そのため、別居して物理的に距離ができると、相手への執着が薄れ、態度がトーンダウンしていくケースがよく見られます。

離婚を考えているけれど動けないという人にとって、まずは別居が大きな一歩になります。

家庭という狭い世界で視野が狭くなると、不仲なのに離れない、離婚しないと意地を張って、ますます不仲がこじれていってしまいます。

A子さんの事例は、お互いに距離を置くことがどれだけ大事か、よくわかるケースです。