「じゃあつく」はハッピーエンドになるのか
ドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)第9話
12月9日に最終回を迎える話題のドラマ「じゃあ、あんたが作ってみろよ」(TBS)。大分県出身の九州男児、エビカツこと海老原勝男(竹内涼真)は「家で料理作って愛する人の帰りを待つっていうのはさ、女の幸せだと思うけどな」と主張するなど、古い男女観を持った“化石男”だったが、同郷の彼女・鮎美(夏帆)にプロポーズを断られて以来、考え方を180度変え、自分で料理を始め、家事をこなすようになった。
第9話で勝男は元カノの鮎美と再接近。「勝男さんは今の方がいい」と言う鮎美に復縁を申し出たのだが、果たして受け入れてもらえるのだろうか。
100件近い経験談が寄せられた
一方、大分では、勝男の父の亭主関白ぶりに長年耐えてきた母の問題が解決していない。第6話、法事のときに礼服姿の妻を台所へ戻らせ、魚をおろして刺身にさせた父。これが、九州では女性が家事を押しつけられがちだという言葉「さす九」を描いているのではないかという前回の記事には、200を超えるYahoo!コメントが付いた。その半数以上が、九州出身・在住者からの声だった。
寄せられたコメントには、リアルな男尊女卑的な家庭のエピソードが詰まっていたので、この記事でいくつか紹介させていただきたい。
鮎美と同棲していたときの勝男は、家事全般を彼女に任せっきりで、料理に文句までつけていた。現実でも、そういう男性はまだまだ存在するようだ。
「男子厨房に入らず」は昔の話ではない。次のコメントからは、現在の40代でも、料理関連の家事をいっさいしない夫が存在し、ついにはドラマの鮎美や勝男の母のような、妻ポジションの女性たちに見放される事態になっていることがわかる。
帰省で妻と子は板の間に座らされた
Xでも「九州の田舎ほんとにコレ」という投稿が相次いだドラマ第6話、大分の実家での宴会シーン。ふだんは男だからといって特権を振りかざしたりはしない義父が、親戚の前では典型的な九州男児になってしまうという報告もあった。
ドラマでも勝男の父は床の間のある「上座」、妻子たちは「下座」に分かれて食事していたが、女性は板の間やダイニングに座らされる場合もあるらしい。
「両親が鹿児島出身です。ちょっと昔、親戚の告別式の後、喪主宅に親族が集まり仕出し弁当を食べる流れでした。男性親族だけが席につき、当たり前のように食事を食べ始め、『味噌汁ぐらい(女達が)作れ』との事。慌てて味噌汁を大きな鍋に作り配って飲み物をお酌したり。男性が食べ終わった後に、女性親族はダイニングのテーブルで冷めた仕出し弁当を食べました」
「九州の田舎住みです。本当にさす九ですよ。親族集まりがあると男性は上座、女性子供は下座に分けて座り、男は飲んで食べるだけ。義母は食べていてもチラチラ上座を見ながら足りないものを出す。刺身を食べるのに小出しの醤油が出てないと、まだまだ気が利かないなと言われる始末。こっちは準備でバタバタと動き回っているのにそんな風に言われます。座ってるだけのお前が出せ! と本当に口から出そうになります。だから親族集まり大嫌い」
優秀な長女が妻を亡くした父親のため強制退職
東京などに出ていく九州の女性も少なくない。しかし、それでも父親の世話をするため実家に連れ戻された若い女性が、ごく最近、この2025年にいたという報告もあった。
寄せられたコメントからは、令和の現在でも「女だから」と家事や育児を無制限にサブスク状態で押しつけられ、それなのに宴会では「女は下座」という扱いを受けている女性たちの不満と怒りがひしひしと伝わってきた。ふだんはそうでなくても、お正月や法事で親戚が集まると、そういった扱いになりがちのようだ。来たる年末年始の帰省が心配になる。
もちろん「九州でも、そんな風習が残っているのは一部だけ」「若い人はそうでもない。晩ご飯を作る男子もいる」「九州だけでなく、田舎はどこもそうだ」というコメントもあった。
義実家への帰省に対する男女の決定的な温度差
確かに九州に限らず帰省が億劫という女性は多い。2025年に実施された全国でのアンケート結果にも、妻たちがため込んでいる不満が表れている。
キャリアコーチング事業のミズカラが実施した「義実家と人生・キャリアへの向き合い方」の調査によると、「義実家に帰省することについてどう思うか?」との質問に対し、「楽しみ」と答えたのは夫が15%に対し、妻はわずか4%で、その差分は3.75倍。逆に「億劫に感じる」「行きたくない」というなどネガティブな感情を持つ妻は6割と男性の倍の割合だった。九州に限らず、義実家への帰省に抵抗がない妻はむしろ「少数派」なのだ。
「女は男を立てている」という理屈
一方、寄せられたコメントの中には首を傾げてしまうような理屈が展開されたりもする。
男女差別がないというのなら、宴会で飲み食いする順番はわざわざ男女別にしなくてもいいのでは? 家庭で「女がきめた事をさも男がオッケーしたかのように」しなくても「男が強い風に見せてあげ」なくても、ありのままでよいのではないだろうか。しかし、九州では「外面」が大事なのだという主張もあった。
つまり、女性にとっても人前では「威張る男性を立てる」ほうが外聞が良いらしい。そこが理解しづらい。なぜそこまでして「男のほうが強い」という体裁を保たなければならないのか? 対外的に「お父さんはえらい」とメンツを立てているうちに、いざというとき夫が独断で重要なことを決めてしまったり、子どもたちが偏った男女観を引き継いでしまったりという弊害も出てくるのではないだろうか。
「俺より稼いでないくせに」という本音
前回の記事に激しく反発する次のような投稿には、「男が家計を稼いでいるんだから、女は家事をしろ」という性役割意識がにじんでいた。
このコメントは極端な例だと思うが、「俺より稼いでないくせに」という考えの男性は、女性が把握している以上に多いのかもしれない。
という意見もあった。たとえ女性の経済力が男性より劣っていても、夫婦間で役割分担の合意があったとしても、「夫婦は対等」という認識を持つことは大前提ではないだろうか。その関係が「夫のメインは仕事、妻のメインは家事育児」と分けている間に崩れていき、「女性が家のことをやるのは当たり前」という態度になってしまうから、投稿した女性たちは怒っているのだ。
不満を抱え込んでいた女性の声
「さす九」(さすが九州)は九州という特定のエリアを差別する言葉だという指摘もあった。たしかに、九州の人を他の地域の人間が色眼鏡で見るようなことはあってはならないし、この問題を論じるとき「九州の人間がみんなそうではない」「他の地方にもある傾向だ」という前提は必要だ。しかし、このワードや「じゃあ、あんたが作ってみろよ」のようなエンタメがきっかけになって、普段は黙って不満を抱え込んでいる女性たちが声を挙げることには少なからず意義があるのではないだろうか。
「じゃあつく」の公式YouTubeチャンネルには
というコメントも寄せられている。
お正月の帰省で現役世代とシニアの接触も増え、親戚の集まりなども多くなるこれからの時期、「これって女性差別では?」と思われるような慣習はぜひ全面撤廃してほしいと、コメントを書き込んだ女性たちに代わって全国の人に呼びかけたい。