現場の勘と経験を分析、体系化できるか
(2)ロジックと多様性を重んじるデジタル文化の醸成
真にデジタル化による変革を達成するためには、企業構成員個々人の行動が変わることが重要であるが、特にロジック重視、多様性を受容する文化に変化することが必要となる。
デジタル化の最も重要な要素は、データとその分析、ロジックである。多くの企業では、現場の勘と経験を大切にしてきた。勘と経験は、極めて多くの変数を無意識に処理し調整した結果であり、何十年もその道にささげて得た財産である。そのためデータ分析により勘と経験を構造化し、体系化し、ロジックとして鍛えることができる一方で、勘と経験のロジックへの置き換えに抵抗感を持つケースも多い。現実を見ると団塊の世代の退職時のように、勘と経験を持つ人材の流出リスクは既に顕在している。また、事業環境が大きく変化し従来の勘と経験では対応に苦慮する場面が増えている。勘と経験を尊ぶのであればなおさら、ロジックにより勘と経験を組織に伝承し、拡大・向上させ続ける文化を醸成すべきである。
デジタル化は、また、多様性が尊ばれ互いに受容しあう文化を求める。デジタル化の一環で、今後求められる能力や自社のよって立つケイパビリティが変わる中、従来とは異なる人材が求められるようになる。よりグローバルな視点や、生活や社会に対する課題意識を持ち、より柔軟かつ迅速な思考と行動をとることができる人材が求められる。非日本人、女性やシニア、若者などの従来の日本型社会では活用されきれなかったタイプの人材である。デジタル化という変革を成し遂げるには、これらの人材を通じて根本的に新しい視点、考え方、行動を得ることが求められる。
これら文化は、経営が率先して新しい行動を示し文化としての蓄積を先導することが求められる。デジタル化に影響を受けるステークホルダーは、担当者、取引先、顧客など社内外多岐にわたる。中には、デジタル化により悪影響を受けるのではないかと懸念し、抵抗勢力になり、あるいは、そこまでではなくとも積極的な協力に至らないケースも多い。このような状況は自然には解消されない。トップダウンで状況を変化させなくてはならない。
デジタル化に成功している企業は、経営が信念をもって粘り強い対話を続けている。トップの意思決定から始まり、極めて多岐にわたる関係者とできる限り早い段階からコミュニケーションをとりはじめ、意識の向上と一体感の醸成を行っている。多くの事業責任者や関係者はデジタル化がイメージできずに、ただ、現状を変えることに抵抗感を示している状況に対して、繰り返し説得を続け、デジタル化の本質や、行うべきことの対話を行っている。