結婚市場において、未婚のままでいるのは男性では低年収層、女性では高年収層が多い。両者が結婚に至ることはないのか。雇用ジャーナリストの海老原嗣生さんは「男性側の結婚の条件は変化しているが、女性は昭和のまま、男性に学歴と経済力を求める傾向にある。それは本人というより周囲の影響が大きい」という――。
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※写真はイメージです

未婚・晩婚問題の意外な原因

1990年台の不況により「お嫁さん輩出」社会に綻びが生じ、そこから女性活躍の芽が息吹きました。20余年かけて、ようやく女性活躍が花咲きだした頃に、未婚・晩婚問題があだ花のように燃え盛っています。

その理由は、意外なところにあります。

それは、未婚者の心に残る「昭和」。

社会も会社も女性の労働も、そして既婚家庭も変化する中で、未婚者と彼・彼女らを取り巻く周辺だけは、厳然と昭和が残っている。そのことが、大きな問題です。

少し考えてほしいことがあります。

今でも、女性誌の特集では、「高年収男性をつかまえる」的な記事をよく見かけます。ニュースやワイドショーでは、「非正規で収入の少ない男性が結婚できない」という話が多々流されます。

世の多くの人たちは、こうした話に何ら違和感を持たないでしょう。

ならば聞きたいところです。

世の男性誌では、「高年収女性をつかまえろ」という特集はなぜないのでしょうか?

ニュースやワイドショーで、「非正規で低収入だから結婚できない女性」という報道はなぜ少ないのでしょうか?

女性の地位向上で相対的に「条件の悪い男性」が増えた

結局、私たちはいまだに、「頼りがいのある男性」「安定した収入がある男性」が結婚の条件として当たり前であり、ともすると、女性は結婚相手の男性に、学歴も収入も役職や企業ランクも自分以上を求めがちではありませんか?

そんなことはないという人も、親や親族、友人など周囲を見渡すと、こんな話が溢れていたりしませんか?

こと、結婚に関しては、いまだに「男は女より上」という昭和の価値観が根深く息づいているのです。

仮に、「女性は、自分と比べて同等以上の男を結婚相手に探す」という感覚が残っているとしたら。女性の地位が上がれば上がるほど、「自分より上」は少なくなる。相対的に「自分以下」の男性が増え、候補者が減る。

これが現在の未婚・晩婚化の真因ではないでしょうか。

30年で変わった心、変わらない心

独身者の心がどのように変わったのか、それを端的に知ることができるのが、出生動向基本調査の中にある「結婚相手に求めるもの」という質問です。

ここでは、「重視する」と「考慮する」を合わせて、どのくらいのポイントになるか、を示しています。バブル景気冷めやらぬ1992年から直近の2021年まで、おおよそ30年の間に、独身者の心は変わったのか、変わらなかったのかを順に見ていきましょう。

男女とも、ずっと重要度合いが高い要望

まず、男女ともに、昔も今も求める度合いが強いのが、「人柄」と「家事育児」「仕事への理解」となります。人柄についてはそもそも相性の基本なのだから当然でしょう。一方、「家事育児」「仕事への理解」については、昨今、とりわけ共働きが増えているので、男女ともにこの項目が重視されるのは理解できるところです。

【図表】人柄
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成
【図表】家事育児
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成
【図表】仕事への理解
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成

女性の「男性化」が見られる項目

続いて、過去にはある程度、女性と男性の数字に乖離かいりが見られたものが、年を追うごとに、女性の数値が男性に寄ってきたものとして、「趣味」と「容姿」の2項目が挙げられます。この背景を推測するに、従来女性は、専業主婦やパートでの家計補助というライフスタイルを取る比率が高かったため、男性よりも自由な時間が長く、そこで、「趣味」への要望度合いが高かったのではないでしょうか。それが、総合職女性の増加により、男並みに近づいたというところでしょう。

【図表】趣味
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成
【図表】容姿
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成

「容姿」への要望度合いが男性並になった点も、女性の収入や地位の向上が裏にありそうです。

19世紀、トルストイやエレン・ケイの時代であれば、生活力がない女性は、資金力のある男性に嫁ぐのが良しと普通に謳われていました。そこには相手に容姿容貌を求める余裕などはなかったでしょう。

それが、収入も地位も向上するとともに、無理に好みでもない男性と結婚しなくても、一人で生きていけるようになりました。そこで、容姿容貌への要望も強くなったと考えられそうです。

男性の女性化が見られる項目

従来の「男は働き、女は家を守る」型の性別役割分担社会であれば、当然、女性は男性の経済力や職業を重視しました。それが、女性の社会進出とともに、男性も女性の経済力や職業を重視する割合が増えてきています。とはいえ、この2項目については、男女間にいまだ大きな差がみられる項目です。

【図表】経済力
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成
【図表】職業
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成

昔も今も、男女間に大きな乖離が見られる項目

「相手の学歴」という項目は、男女ともに横ばいで、大きな乖離が残ったままです。

男性の方は2~3割程度と、気にする人は少数派ですが、女性は、おおむね5割を超え、気にする人がマジョリティとなっています。

【図表8】学歴
※「出生動向基本調査」を基に筆者作成

表中に示したデータには29年の幅があり、この間に、大学進学率においては、女性が急上昇してほぼ差がなくなりました。にもかかわらず、女性は男性に対して学歴への要望が全く低下していないのは、少々驚きと言えそうです。

女性から消えない「学歴」「職業」「経済力」要望

こうして見てくると、女性の社会進出が進み、性別役割分担が壊れる中で、結婚相手への要望にも変化が表れていることが分かりました。

ところが逆に「昭和的価値観」が強くなっている項目も見受けられます。

まず、女性が男性に「経済力」を期待するポイントが、いまだに9割台を超え、むしろ過去よりも高いレベルになっていること。この点、男性は女性の社会進出を受け入れ、都合よく「女性に経済力を求める」割合が若干増えているのと対照的です。

同様に、女性が男性の「職業」を気にする度合いも8割を超え、数値は90年代よりも高くなっています。こちらも、男性は社会情勢に合わせてやはり「女性への期待」を高めていますね。

そして、「学歴」への要望。女性は5割台、男性は3割程度と乖離が続いています。

この3点、女性の社会進出で、女性から男性への要望が、本来なら崩れるはずなのに、むしろ維持強化されているのが見て取れます。

未婚のまま残るのは「低年収男性と高年収女性」という現実

女性の「学歴」「職業」「経済力」が上がり、さらに同等以上の「男」を求めるなら、当然、相手は見つからなくなります。

女性が男性に、「経済力」「職業」「学歴」を求め続けるという現象、即ち「昭和の心の保蔵」によって、それにふさわしい男性が不足する状態になるのです。それは男女平等社会においては当然の帰結といえます。

それが一目瞭然となるデータをお見せしましょう。

図表9は、独身研究家の荒川和久さんが、就業構造基本調査を基に、年収と生涯未婚率の関係を表したものです(「婚活市場では“高望み”の部類だが…『年収500万円以上の未婚男性』が最も余っている皮肉な理由」より)。

2007年と2017年、それぞれが折れ線グラフとなっていますが、どちらも、男女の線が×という形で交差しているのがわかるでしょう。つまり、男性は低年収者の未婚率が高く、女性は高年収者の未婚率が高くなっています。このグラフは、「女性は自分と同等以上の男性を求める」という昭和型社会構造がそのままだということではないでしょうか。

そして、両年を比べると、2017年のほうが男女ともにグラフが上方にシフトしているのが見て取れます。そう、まさに、昭和型構造が残存したまま、女性の収入・地位が向上したので、未婚率が上方シフトしたといえるのでしょう。

本人の努力という投資があってこその学歴と収入

確かに学歴や収入は、本人の努力という投資があってこそ手に入れられた「成果」だと考えることができます。心の中に「昭和」が残存する独身女性なら、その投資に見合う「より上の男性」を選びたくなるのも、無理はありません。学歴も収入も低かったかつての女性のように、職場内で容易に「いい男」を見つけられないのは当然といえるでしょう。

一方、男性のほうは着々と昭和の心を捨て、収入も学歴も上の女性を受け入れつつある。こちらでは心のアップデートが進んだ理由は簡単です。それは、とりもなおさず、家計を一人で支えなくても良いという、自己利益につながるからでしょう。そのトレードオフで、前回示したように、男性の家事育児支援が進んだともいえそうです。

結婚した夫婦では男女学歴逆転ケースが少なくない

以上は、独身者調査から出したものなのですが、これに対応するような既婚夫婦調査のデータもあります。それは、「結婚できた人たちは、昭和型の価値観がかなり排除されている」というものです。ピッタリとは言えないのですが、それなりに説得力を持つものです。

まず、結婚した夫婦たちの学歴状況を、出生動向基本調査から探ってみました。

【図表10】結婚年次別にみた夫婦の最終学歴
※出生動向基本調査を基に筆者作成

これは、2015年の調査を基に、結婚した年代ごとに、夫婦間の学歴差異を調べたものです。これは2015年時点で結婚している人たちなので、離婚・死別した人は含まれておりません。帳票上、高校・大学とも女子校・共学と分かれていますが、これらはひとくくりにしました。また、「専門」「短大・高専」というくくりなので、この3種別は同等としています。

その結果、出来上がったのが図表10です。

まず、今から20年以上も前の1995年を見ても、すでに「妻の方が学歴が上」というカップルが17%もいます。元々結婚できた人たちは、昭和型価値観がかなり薄かったといえそうです。

そして、この数字は伸び続け、2010~14年の時点でもすでに4カップルに1組は妻が上となっているのです。これは、夫の方が上の30.7%に肉薄している状況です。

姉さん女房は年々増えている

もう一つ、夫婦の年齢関係も見てみましょう。こちらは「人口動態調査特殊報告」から作成しました。

【図表11】夫婦の年齢構成
※「人口動態調査特殊報告」を基に筆者作成

昭和的価値観であれば、えてして「夫は年上、妻は年下」となりそうですね。

ところが、昭和の真っただ中にある1985年から姉さま女房カップルは12.5%いました。それが、年を追うごとに増えていき、2015年時点でもう約4組に一組(23.7%)にまでなっています。

そう、やはり、既婚者には「昭和の常識」を捨てて実を取る人の割合が多いと言えそうです。

他にも、結婚している人たちを見ると、「妻が正社員で夫が非正規」というカップルの割合が高くなっていたりもします。

未婚女性に残る「昭和観」は決して本人の責任ではない

こうしたデータを集めて、「だから女性も高望みせず、学歴や年収が自分より下の男性を選べ!」と短絡的なことを言うつもりはありません。

その前に、なぜ、こんな「昭和」が女性の心に根付いているのかをしっかり考えて、社会を変えていくことが先決でしょう。

まず、女性を取り巻く環境。それがいまだに「昭和的結婚観」の大合唱なこと。たとえば、付き合っている男性が、パートタイマーやアルバイトだった場合、多くの親御さんは、渋い顔をするのではないでしょうか。

いい大学を出て、有名企業に勤める女性が無名企業の低年収な男性と付き合っていたら、同窓生も会社の同僚も、興味本位に「なんで彼を選んだの」と聞くでしょう。決して貶めるつもりはなくとも、こうした「常識的発言」が彼女をどんなに傷つけるか。

加えて言えば、マスコミでは、「非正規男性だから結婚できない」「低年収の男はもてない」と大合唱しています。

これでは、本人も洗脳されるでしょうし、意思をもって愛を貫いても途中で心折れるでしょう。つまり、女性本人だけの問題ではなく、周囲の存在が大きい。マスコミも含めて、そのことに気づいてほしいところです。

ウエディングケーキの上の新郎新婦のミニチュア人形
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「稼ぎも家事も育児も女性持ち」では結婚する意味がない

そしてもう一つ。やはり、家事育児の不公平という問題があります。

たとえば、大企業のエリート男性でも、派遣で働くかわいくて気の利いた女性と結婚するケースは多々見受けます。私のいたリクルート社では、役員や執行役員、部長クラスの男性社員の奥様が、自部署に来ていた派遣社員というケースは枚挙に暇がありません。

なぜ、男は非正規で低年収の女性を娶るのか。昭和的常識以外にも、「結婚すれば、奥さんに家事や育児を任せられる」という頭がある。非正規社員なら、総合職エリートより仕事が忙しくないから、家庭内はまかせっきりにできる!と。つまり、やはり相応のメリットがあるからこれは成り立ちます。

一方、エリートで高年収の女性はどうでしょうか? まず、周りに気の利くかわいい男性派遣社員は皆無です。そもそも出会う機会すらありません。仮に、どこかの店舗で働くアルバイトの男性と知り合ったとして、結婚したら彼が、家事育児の大半をしてくれたりするでしょうか。ともすると、収入も家事育児労働も、全て女性の負担になりがちです。これでは結婚する意味など見いだせないでしょう。

つまり、やはり、女性本人ではなく、生活環境までしっかり変えていかなければ、女性の心から「昭和」はなかなか消え去らないといえそうです。